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夢幻発掘抄  作者: アルタ
夢から覚めたら
34/44

第34話

「で、俺、今度初デートするんだぜ―!

 まあ、友達とのグループ交際みたいな奴は何回かあったんだけどさ。

 いやー、俺遊んでるように見えるからなかなか二人きりでというのはオッケーもらえないし、照れくさくて言い出せずにいたら、ここまで伸びちゃったっていう話なんだけど。

 でもさ、好きな女子といるってのはなんか不思議な感じだぜ。

 英明も行ってみる? グループ交際」

 朝広からの電話の内容がいきなりグループ交際の勧誘とは、俺も想定外だった。何で俺が元気ないと、そんなことを勧めてくるのかな。


「俺はそういうの行かないって知ってるでしょ?」

「だっろーなぁ。でも、一応声かけたって事実だけ作っとかないと、頼み込まれた俺の面子ってもんが立たないから」

 どうやら女子に頼まれたらしい。


「ま、英明の答えは明らかだったからね。そのまま答えとくよ。

 でもさ、3人の中でやっぱり俺が1番のりだよな? デート」

 うきうきと話す結人に、遊びすぎて火傷しないようにね、と釘をさして、ふと奇妙な既視感にとらわれる。

 いわゆるデジャヴというやつだ。


 どこかで聞いたようなセリフ。でも微妙に違っていて、それは俺にとってとても大切で、大切で仕方ないものであったような、そんな気がするのに、やっぱり思い出せない。


「……き、英明?」

「あ、ごめん。なんだっけ?」

 少し思考が飛んでいたと素直に白状すれば、

「まったく。俺がせっかくあちこち人に話を聞いて手に入れてやったのに」

 友達甲斐のない奴め! と怒られてしまった。


「なにを?」

「三白眼で無表情のモアイ」


 ……は?


 思いっきり不自然なその答に、不信感を顕にして返事してしまう。

「お前、いつだったか言ってただろ?そんなモアイがいるって」

 だからよー、俺、気になって気になって夜はぐっすり眠れたけど、ちょっぴり昼寝の前に考えてしまうくらい気になったからさー、探してみたわけよ。

 そしたら鼻からティッシュを出すモアイのティッシュケースがあったんだよ!

 あ~、これのことかぁ! て、そうなんだろ? だろ???


「俺がそんなこと言うはずないでしょ!!!」


 半ばキレかけで俺は強制的に電話を切った。一体どこからモアイなんてでてきたんだか。

 ふう。



 寝る直前、父さんがパソコンの電源が落ちてどうにもならないと話していた。

「大切なデータがあったんだけどな」

 だから、

「ちょっと貸して。起動ディスクを使って立ち上げてみるから」

と、無意識のうちに俺はパソコンを操作する。

 しばらくすると、コンピューターは自分でレジストリを修復し始めた。

「これでしばらくは大丈夫でしょ」


「英明、いつのまにパソコンできるようになったんだ?」

「え?」


――何かが少しずつ、ずれているような気がした。




 この頃奇妙なデジャヴに捕らわれる。

 例えば食事をするとき、

 例えばバスケをするとき、

 例えば釣りに行ったとき、

 例えば屋上で空を眺めたとき……


 記憶をいくら探しても不自然なところなんてないのに、何故か体が覚えている柔らかい感触。

 温かい気持ち。

 幸せの一瞬。



 ふと、何故か思い出さなければいけないことを忘れているような、感覚がして顔をゆがめる。

 ああ、一体俺はどうしてしまったのか!


「英明、いらついてる?」

 ズレた視線に入ってきたのは朝広の心配そうな顔だった。今日は弁論大会会場への出発日なのだが、俺が寝坊してしまったので二人が出発準備を手伝ってくれている。

「は? 俺はいつも通り冷静でしょ?」

 しかし、半分図星だったためか、必要以上に大きな声になってしまった。朝広は「夕馬に感染してるから」と、太めの眉をひそめる。俺やお前がイライラしてっと、あいつ感受性が強いから。


「俺のせい?」

 ばかばかしい。大体、朝の用意が遅れたのだって緊張していたとかじゃなくて、ちょっと考え事をしていて眠れなかったからで、だから俺はいらついていないし。

「でも気持ちって感染するんだぜ? 何イラついてるのかわかんねーけど、気持ち切り替えていこうぜ。

 せっかく久々にこのメンバーで遊びに行けるんだし!

 って、おおおおおお前勉強道具持ってくのかよ!」

 最後は俺が鞄につめようとしていた問題集へのつっこみである。


「当たり前でしょ? 俺の狙ってる大学、偏差値結構高いから」

 とりあえずどれにしようかな、と考えていると夕馬が待ちきれないといった様子で、手伝ってやるからと、手当たり次第乱暴にその辺の問題集を詰め込んでいく。乱暴に見えて実はキッチリ入っている辺り夕馬らしいんだけど、

「よし」

満足そうに笑った夕馬の前には、ぎっしり勉強道具が詰め込まれたリュック。

 重いでしょ! しかし、あまりに綺麗に入ってしまったせいか、夕馬が崩すのを拒むので、俺は半分問題集で埋まった荷物を持っていくことになってしまった。


 見れば朝広はパンパンに膨らんだリュックにお菓子をぎっしりと詰め、夕馬は鞄から毛筆用の筆がにょきっと生えている。お前らも何しに行くんだよ。

「じゃあ行こうか、旅行に」

「内申アップ間違いなしだな」

「失敗しませんように~精神集中、精神集中」

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