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夢幻発掘抄  作者: アルタ
告白ラッシュの彼と眠る彼女の5日間
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第3話

 先日の自習プリントの採点が返ってきた。名前を呼ばれて一人ずつ前に出ると、先生が小声でそっと結果についてコメントをくれる。まだ新しいクラスになってさほど時間がたっていないため、50音順に呼ばれるのだが、比留間の「ひ」から始まる苗字は結構後ろの方だ。

 15分で解いたわりになかなか良く解けたという自覚があった俺は、自分の名前を呼ばれると意気揚々と結果を受け取った。

「比留間、90点だ。最後の書き間違いさえなければ満点だったのに惜しかったな」

 まあ、当然でしょう。少し気をよくして、今度は5分で解いた彼女の結果に聞き耳を立てた。

「夜神ー。75点だ。最後のほう文字が乱れていたぞ?

 先生ゆっくり解くのは良いと思うが、時間配分も考えろよ」


 え?

「ふぁい。頑張ります~」

 誰が?

 ゆっくり??

 時間配分???

 5分で時間配分もへったくれでもないでしょ!と心の中で叫んだ俺は、完全に自分のことを棚上げしていたと思う。


 さて、彼女は夜神 万夢さんというらしい。

 なにやら病弱なのだそうで、学校を良く休んでいる。来たと思えば気持ちよさそうに昼寝している姿ばかりで、一部の生徒から付けられた「眠り姫」という称号がすっかりなじんでしまったようだ。

 机に頬ずりするようにうとうとと微笑むように眠る姿を見ていると、まるでこちらまで夢の世界に誘われそうになる。散りゆく桜が、ひらりひらりと舞う外の光景が美しい。そしてそんな背景を背負っても全く違和感のない少女、それが夜神だった。

 サラサラの腰まであるストレートの黒髪、アーモンド形のパッチリした瞳と形の良い唇が小さな顔に配置され、肌の色は透き通るように白い。日本人形のようだと思った。

 背の高さは目測で150センチ程度。同年代の女子高生と比べるとやや低い身長のように思うが、寝る子は育つというジンクスは嘘だったのかもしれない。


 俺自身はこんなクラスメートがいたことに全く気づいていなかったのだが、実はこっそりと夜神のことが気になっている男子が教室のドア付近に集まっては、休み時間に見守っているという噂を聞いた。まるで、白雪姫の周りに集まる7人の小人、であればまだ可愛げがあるが、あれはある意味ストーカーではないだろうかと心配になる。

 まあ、夜神自身は眠っていて気づいていないので幸せなのかもしれない。


 気づいていないといえば、彼女の性格で不思議なことがある。

 別に彼女自身は普通に淡々と話しているのだが、目にフィルターがかかっているのか、クラス中の彼女に対する認識は「か弱い、守ってあげたい、愛らしい」の3点に尽きるようで、やれ「夜神さん、掃除手伝うよ」だの、やれ「日直、代わってあげようか?」だの、やれ「黒板消しておいたよ」だの、とにかく彼女に甘いのだ。

 そわそわと遠くから世話する奴がいるわりに、俺のようにラブレター攻撃などにあったりしていないところが解せない。


 それとなくクラスの奴に聞いてみたところ

「困らせちゃ可哀想だろ?」

と真剣に返ってきて驚いた。


 彼らの手助け又は世話に対して夜神さんの取った行動といえば

「ありがとう。助かったわ」

と微笑むだけ。

 単純な思春期の男子は、それで充分ということなのだろうか。それとも、こういうのを生まれ持ったカリスマというのだろうか。

「夜神さんは、うちのクラスに舞い降りた天使!!」

「だよなっ!」

 皆、頭は元気か?

 彼女に会って2日目の感想はこれだった。




 週に何度か通っている塾は高校とは反対に2駅行ったところにある。中学の頃バスケット部で一緒だった親友の結城 朝広(ゆうき あさひろ)真野 夕馬(まの ゆうま)に会える貴重な機会だった。

 本当は高校も彼らと一緒だったのだが、親の強い勧めにより、高校2年から今のところに転校し、通うことにさせられてしまった。確かに、私立である今の高校のほうが偏差値も高く、さまざまな取組みもしていることから全国的にも有名だ。

 だが、正直なところ、多感な高校の時期にわざわざ2年次で編入させられなければならない理由はないと思っている。要するに俺は不満だった。おかげで、中学のときに受けたはずの告白ラッシュという洗礼を今一度受けなおす羽目になったではないか。


 そのようなことを愚痴ると、物静かで大人しい夕馬は気の毒そうに頷いてくれる。対して明るくて社交的な朝広は、人間の輪が広がることを素直に喜んでいた。こっちの高校とも交流する気満々のようで、もういっそ、あいつが編入すればよかったのに、とひねくれそうになった。

「でもさ、英明。一生、中学や高校で一緒だった奴らと一緒に生きていくことなんて出来ないんだぜ。

 だったら人脈は広げておいて損はないと思うのよ、俺」

 高校生の分際で、合コンもどきをやっている朝広らしい言である。


 余談だが、朝広はお調子者であるが女子に良くもてる。明るい性格とくるくる変わる表情、面倒見のよさ、甲斐甲斐しさに加えて、明るい茶色の髪はいつ手入れしているのだろうかと不思議になるほど綺麗な無造作ヘアーを保ち、背も高い。

 俺も178センチと高校生にしては高い方だと思っているが、奴は185センチはあるだろう。もう一人の夕馬は170センチと平均くらいだ。夕馬は朝広と違って社交的なタイプではないが、いわゆる一般的に言われる甘い顔立ちをしており、バシッと断れない性格からか、よく女子に突撃を掛けられてはヨロヨロになっているのを見かける。


 話は戻って、朝広の「可愛い子はいる?」という質問に、俺は少し考えてから夜神さんのことを話した。他の女子に関してはあまり顔を見ないようにしているから答えようもないのだけれど。

 屋上での出来事、クラスでのポジションを話すと、しばらく合コンセッティングに沸いていた朝広が感心したように呟いた。

「うへー。その子すげぇなあ」

 俺も同意する。

「あんなに人心をコントロールしている人初めて見たよ」

 屋上であったときには、すごくさばさばした印象で、それは今も変わらなくて、口調も同じなんだけれど、あの笑顔がつくと、全ての彼女の行動にまるで「エンジェル」という接頭語がつきそうなのだ。


「エンジェル?」

 それを聞いていた夕馬が何かを思い出したように首を傾げる。何か引っかかることでもあるのか尋ねてみるが、彼は首をかしげたまま「何か思い出せそうな気がするんだけど、忘れた」と呟いた。

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