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夢幻発掘抄  作者: アルタ
喉を通らない食事会
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第13話

 車に夜神万夢が近づいてきたのを見計らったように、番場大地は車から降りて彼女のためにドアを開けた。彼女が中に入り込むのを確認して扉を閉めると、離れたところで待機していた護衛衆がお辞儀をしてバラバラに散っていく。

 基本的に顔を知られていないとは言え、万が一、夢見の能力を独占しようと誘拐を企む輩がいてもおかしくない。したがって、今日は屋敷の護衛から数人こちらに連れてきていたのだ。


 大地は、閉じこめておいたほうが安全なのにと空太に意見をしたことがあるが、彼はなるべく自由にさせてあげたいと答えた。

 あのときの気持ちは少しだけ変わったようだが、他の男と(偽装とはいえ)デートするとは、あまり気分の良いものではないらしく、行きしなに送り届けたときには「酔狂な」と呟いていた。


 そして、戻ってきたらもう一つお小言。

「なんだ。デートとは手をつないで歩いて映画を見るものなのか?

 これが万夢の経験したかったことなのか?

 これくらいならいつも俺とやっているだろう?」


 わざわざ万夢が助けてやる義務なんて何処にある?

 そう彼が言うと、

「人とのつながりを、大切にしてみたかったのかな」

 それとも「感情」を感じていたかったのかも」

と彼女は言い添えて、手帳を広げ、ペンを走らせた。今日の日記には書くことがたくさんあるようだ。


 なぜならもう1件、これからイベントが待っている。きっと彼女は驚くだろう。

「今日の食事会ってどこ?」

 着替えなきゃならないのかな、と呟いて彼女の顔から表情が消えた。これが、本当の万夢だ。

「今日は本家に客を招くことになっている」

「そう」

 特に何の感慨もなく、彼女は窓の外を眺めた。



◇◇◇◇◇



「ただいま」

 まずはシャワーを浴びようと、帽子を脱いで玄関のドアを開けるなり、

「英明、遅かったな。友達と遊ぶのは止めないが、もう少し早く帰ってくる予定だったろう!」

父が珍しく待っていたとばかりにリビングから顔を出した。いつも通り落ち着いているように見えるけれど、今日はなぜかしら慌てているように見える。

 いわゆる昔はさぞや甘いマスクだったであろう紳士的な顔は微塵も崩れていないが、以前よりやや神経質そうに、そして少し傲慢になったような気がする父さん。


「大丈夫、食事会には出るよ」

 厚手のパーカーを洗濯かごに脱ぎ捨てて、バックを担いだまま2階に上がると、階下から「着替えは用意してありますよ」という母さんの声が聞こえた。

 その着替えとやらが、やたら高そうな服であるのを確認すると、なんだかいやな予感が頭を横切る。何か重要なことが起きるような予感が。


 考察する。


 父さんは政府の高官で、仕事は何をやっているのかよく分からないけれど、いい家に住んでいるし、重要なポストについているらしい。有能なことは認める。

 けれども、仕事関係で俺を連れて行く理由が見つからない。どんな仕事をしているのかすら知らないのだから。


 直接の仕事に関係ないとしたら?

 俺を前に出して有利なこと。例えば?

 同じ年頃の女の子が何かの鍵を握っているとか。


 けれどもそれにしては配役を間違えている気がする。俺のことが好きだという女子は、俺の顔を好きなのであって、俺自身を好きなわけでない。

 第一、冷たくしかあしらえない俺では無理だ。朝広あたりなら適任だろうが。

 ゆえに、同様の理由でお見合いの線も力強く二重線で丁寧に消しておく。


 では、自慢?

 それだけは絶対にない。じゃあ、俺を連れて行く意味ってなんだろう?

 シャワーを浴びながら考えるけれども、答えが出ないまま。さっぱりしたようで、さっぱりしない思いを抱えつつ、こざっぱりとした細いグレーのストライプの入った白いシャツと黒いズボンに着替える。

 上から羽織った薄手のジャケットがやたらと正装をイメージさせ、これから行くところが堅苦しいところであると思わせた。


「母さんは行かないの?」

 尋ねれば、可愛くない狸の巣窟には近寄りたくないのだそうだ。

 俺だって同じ気分なんだけど、と、うんざりすれば、父さんが万札を3枚もポケットに突っ込んできた。逆に怖くなるよ!!


「じゃあ行くぞ」

 何処へ行くとも言わないままの父さんに続いて、いつの間にか我が家の前に止まっていた迎えの車へ乗り込む。黒塗りのあからさまに堅気の車でないそれに乗ってしまったからには、もう腹を括るしかなかった。


 車は住宅街に入っていく。

 こんなところで食事?

 俺がそう思うのも無理ないだろう。だって一面何の変哲もない住宅なのだから。普通であれば、料亭やホテルの会場、パーティホールを思い浮かべるだろう。

 しかし、段々奇妙なことに気がついた。

 この住宅街はおかしい。家と家の間隔、道、配置に違和感があるのだ。

 そう、開かずの間が懇切丁寧に壁の間に隠されているように、この住宅街には何かが真ん中に隠されているとしか思えない隙間が存在しているようだった。


 車は、ある家の駐車場を抜けて、さらに奥の庭へと進む。そこには細い道が続いており、抜けると神社のような森が現れた。ざりざりと音を立てて、まっすぐに延びる砂利道を走っていくと立派な門構えが見える。



 たどり着いた先には「夜神」の表札がかかっていた。

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