4 変なヤツ
今回は風白狼が担当させていただきます。
わずかな足音を聞き分けて、俺は耳を立てた。同時に丸まっていた腰を起こす。そして、心地よく日の当たる机から飛び降りた。自慢の柔らかい肉球はその衝撃を無音に還す。玄関に歩いていくと、ちょうど戸が開いて高校生の少女が入ってくる。
「おっ、ミケじゃん。ただいま!」
彼女は玲子。俺を飼っているこの家の住人だ。俺はそんなこいつを見上げる。
「やっと帰ってきたか、玲子」
いつものように憎まれ口を叩こうとして、俺はふと足を止めた。嫌な気配が、ぞくり、と俺を襲う。反射的に俺の三色の毛は逆立った。そんな、いつもと違う俺の態度に玲子は首を傾げた。
「どうかした?」
「お前…変なヤツに会ったんじゃないか?」
嫌な気配は玲子自身からよりも、むしろ玲子にまとわりついているような気がする。だいたい玲子とは今朝だって顔を合わせているはずだから、恐らくこれは別人の気配…。俺が尋ねると、玲子はしばらく考えていた。そして一瞬だけ、勘づいたような表情になる。
「思い当たりがあるんだな?」
「いやっ、別に…」
絶対嘘だ。俺だってお前の表情の変化くらい見逃さない。
「てゆうか、何で猫のくせにそういうこと分かるワケ?」
靴を脱ぎながら、玲子はあからさまに不機嫌そうに反論する。そんなことでいちいち逆ギレしないでくれ!
「何を言う!猫は神聖な生き物だぞ?怪しげな気配には敏感なんだ!」
「何それワケ分かんない」
玲子はいらだたしげに立ち上がると、俺のしっぽを思いっきり踏みつけやがった!痛みでぎゃっ、と悲鳴をあげて、俺は玲子に抗議する。毎度の事ながらなんて無礼なヤツだ。
「とにかく、これ以上そいつに関わるな!危険だ!」
俺が忠告を続けると、玲子は俺を睨んだ。よほど気に障ったのか?隠したところでいい事なんてないだろうに…。だが少なくとも、関わらない方がいいのは明白なのだ。
見えなくなるまで走ってから、俺はちらと後ろを振り向いた。俺の背後には、始終付きまとう正体不明の黒い影。霊と一緒にいたあの女の子でも、こいつの正体は分からなかった。霊の見えない人間に、こいつは見えないようなのだが、普段から霊を見かけている俺でもはっきりとは分からない。…ってことは霊じゃないのか?だとしても何なのか、俺には確かめるすべがない。
怖い。いつの間にか、俺にまとわりついていた影。ぼんやりとして、ただただ黒い、闇のような印象を与えるだけ。はっきりと見えれば、解決策もあるかもしれないが。だが、俺の本能ははっきり見えるようになったら手遅れだと直観していた。いっそのこと、見えなかったら良かったのに。そうすれば、訳の分からない事に神経をすり減らすこともないのだ――
俺は暗い考えを振り払おうとして、より一層早く走った。
訳分かんないですよねー・・・。
これが偏人のなせる技ということで