表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

愛する資格

作者: 霧野ミコト

これで、十連敗。


ため息をつきつつ、窓の外を眺める。


やや街の光が強いせいか、星はあまり輝いてはいないが、それでも、月は綺麗に見える。


そして、今の状況と言えば……


自棄酒だ。


もちろん、右手にはしっかりと缶ビールが握られている。


理由はもちろん、冒頭の十連敗。


ここまでくると、逆に清々しいものだ。


無敗の帝王ならぬ無勝の帝王と言った感じだろうか。


とりあえず、ここまで徹底して、負け続けるとは、ある意味才能だ。


まぁ、だからといって、誇れるわけでもない。


というか、こんな事で誇っても、何にもならないし。


もし、そんな事を自慢しようならば、笑われてしまうだろう。


恋人居ない暦=実年齢。


片思いで終了十回。


笑い種にならなければ、何になると言うのだ。


正直、自分ですら、もう笑いの種以外にはなんでもない。


まぁ、だからといって、こたえていないかと言うと、そういうわけでもない。


やっぱり、失恋は失恋。


辛いものなのだ。


まぁ、それでも、告白というプロセスまで行っていないから、さほどそこまできついわけでもないけど。


というか、むしろ、今まで、告白なんてした事なんて一度もない。


その気が起きないのだ。


だいたい、その手前でけちがついて、切り捨てる。


そんな感じだ。


今回の片思いだって、けちがついて終わったわけだし。


割と、いいかな?そんなふうに、思って、話していたんだけど、今日会うや否やキレられた。


原因は、他の女と出かけていた事。


どうやら、嫉妬から来るものらしかったんだろうけど、こっちとしては、そのせいであっさりと冷めた。


というよりも、本性を見てしまった。


そんな感じだろうか。


友達だった頃は、そんな感じではなかった。


少しずつ距離が近づいて行ったときもそんな感じはなかった。


だけど、微妙な関係になり始めたところで、難癖が付き始めた。


ちょっとしたことで、目くじらを立てるようになってきた。


そして、最終的に、今日の出来事。


嫉妬して、言いたい放題いってくれたのだ。


それこそ、相手の子にまでも。


徹底的に。


こちらとしては、ただの友人。


それこそ、恋愛感情なんて、一つもなかった。


ただ、居心地がいいから、一緒にいただけの事。


だから、ただの友人なのだ。


なのに、それを彼女は理解しない。


その時点でアウトなのだ。


僕は、僕の人間関係に口を出す事は、何があっても、許さない。


僕を束縛する人間は、許さない。


そして、だからこそ、僕は、束縛をしない。


それが、わからない人は不必要なのだ。


缶に残ったビールを一気にあおる。


喉が焼けるような感覚にさいなまれるが、逆にそれが、すがすがしい。


十連敗。


いまだに、恋は成就していない。


求めるレベルが高すぎるのかもしれない。


求めるような人なんていないのかもしれない。


だから、本来ならば、妥協すべきなのかもしれない。


だけど、僕は……


妥協できないのだ。


そう言えば、昔友人に言われた。


『お前は残酷だ』


と。


そして、それはその言葉どおりなのだ。


自分の気に入らないものは切り捨てる。


自分が認められないものは切り捨てる。


自分にとって不必要なものは切り捨てる。


僕は、徹底的に利害関係を重視する。


それは、何においても変わらない。


自分にとって、利害にならないものは切り捨てる。


それが、たとえ、昨日までの友人だったとしても。


だから、友人はそう言ったのだろう。


その姿は残酷だと。


でも、僕がそうするしかなかったのも、事実。


生きていくにはそうするしかなかった。


僕の心は現実で生きていくにはあまりにも弱すぎた。


人の何気ない言葉で、どこまでも傷ついていた。


だから、そうするしかなかった。


冷めた目で見るしかなかったのだ。


自分にとって害になるものは、切捨て、徹底的に潰すしかなかった。


だって、そうでなければ、逆に僕が潰されるから。


弱い心を持った僕は、きっと壊されてしまうから。


今日、僕の心を潰そうとした彼女を、僕は潰した。


攻撃を加えられたから、反撃した。


そして、彼女が二度と立ち直れないほど、徹底的に叩き潰した。


その姿を見た周りは、かなり引いていた。


その時の、僕の姿は、あまりにも恐ろしすぎた。


僕の、本質。


それは、冷徹であり、冷酷であり、残酷であり、惨忍である。


相手の心を徹底的に、傷つける。


逃げ道なんて残さない。


そうしないと、自分自身を守れないから。


二度と、攻撃を受けないようにするためには。


今日、友人に言われた。


『お前には人を愛する資格はない』


それは、どこまでも、冷徹な言葉だった。


だけど、どこかむしろ、それが心地よかった。


だって、それは事実だから。


僕が、愛せるのは、きっと自分だけ。


そして、僕が愛せる他人と言うのは、僕を愛せる人。


僕と言う存在を愛し、立ててくれる人。


決して、僕と言う存在を否定しない人。


だけど、そんな人間この世の中にいない。


だから、僕には、愛する資格なんてないのだ。


冷蔵庫で冷やしてあるビールを取り出すと、プルタブをあけ、一気にあおる。


先ほどと同じく、やけるような感覚が喉をさいなむが、そんな事すら気にならない。


ビールを適当に、その場に置くと、窓の外見る。


相変わらず、そこから見る月は綺麗だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ