愛する資格
これで、十連敗。
ため息をつきつつ、窓の外を眺める。
やや街の光が強いせいか、星はあまり輝いてはいないが、それでも、月は綺麗に見える。
そして、今の状況と言えば……
自棄酒だ。
もちろん、右手にはしっかりと缶ビールが握られている。
理由はもちろん、冒頭の十連敗。
ここまでくると、逆に清々しいものだ。
無敗の帝王ならぬ無勝の帝王と言った感じだろうか。
とりあえず、ここまで徹底して、負け続けるとは、ある意味才能だ。
まぁ、だからといって、誇れるわけでもない。
というか、こんな事で誇っても、何にもならないし。
もし、そんな事を自慢しようならば、笑われてしまうだろう。
恋人居ない暦=実年齢。
片思いで終了十回。
笑い種にならなければ、何になると言うのだ。
正直、自分ですら、もう笑いの種以外にはなんでもない。
まぁ、だからといって、こたえていないかと言うと、そういうわけでもない。
やっぱり、失恋は失恋。
辛いものなのだ。
まぁ、それでも、告白というプロセスまで行っていないから、さほどそこまできついわけでもないけど。
というか、むしろ、今まで、告白なんてした事なんて一度もない。
その気が起きないのだ。
だいたい、その手前でけちがついて、切り捨てる。
そんな感じだ。
今回の片思いだって、けちがついて終わったわけだし。
割と、いいかな?そんなふうに、思って、話していたんだけど、今日会うや否やキレられた。
原因は、他の女と出かけていた事。
どうやら、嫉妬から来るものらしかったんだろうけど、こっちとしては、そのせいであっさりと冷めた。
というよりも、本性を見てしまった。
そんな感じだろうか。
友達だった頃は、そんな感じではなかった。
少しずつ距離が近づいて行ったときもそんな感じはなかった。
だけど、微妙な関係になり始めたところで、難癖が付き始めた。
ちょっとしたことで、目くじらを立てるようになってきた。
そして、最終的に、今日の出来事。
嫉妬して、言いたい放題いってくれたのだ。
それこそ、相手の子にまでも。
徹底的に。
こちらとしては、ただの友人。
それこそ、恋愛感情なんて、一つもなかった。
ただ、居心地がいいから、一緒にいただけの事。
だから、ただの友人なのだ。
なのに、それを彼女は理解しない。
その時点でアウトなのだ。
僕は、僕の人間関係に口を出す事は、何があっても、許さない。
僕を束縛する人間は、許さない。
そして、だからこそ、僕は、束縛をしない。
それが、わからない人は不必要なのだ。
缶に残ったビールを一気にあおる。
喉が焼けるような感覚にさいなまれるが、逆にそれが、すがすがしい。
十連敗。
いまだに、恋は成就していない。
求めるレベルが高すぎるのかもしれない。
求めるような人なんていないのかもしれない。
だから、本来ならば、妥協すべきなのかもしれない。
だけど、僕は……
妥協できないのだ。
そう言えば、昔友人に言われた。
『お前は残酷だ』
と。
そして、それはその言葉どおりなのだ。
自分の気に入らないものは切り捨てる。
自分が認められないものは切り捨てる。
自分にとって不必要なものは切り捨てる。
僕は、徹底的に利害関係を重視する。
それは、何においても変わらない。
自分にとって、利害にならないものは切り捨てる。
それが、たとえ、昨日までの友人だったとしても。
だから、友人はそう言ったのだろう。
その姿は残酷だと。
でも、僕がそうするしかなかったのも、事実。
生きていくにはそうするしかなかった。
僕の心は現実で生きていくにはあまりにも弱すぎた。
人の何気ない言葉で、どこまでも傷ついていた。
だから、そうするしかなかった。
冷めた目で見るしかなかったのだ。
自分にとって害になるものは、切捨て、徹底的に潰すしかなかった。
だって、そうでなければ、逆に僕が潰されるから。
弱い心を持った僕は、きっと壊されてしまうから。
今日、僕の心を潰そうとした彼女を、僕は潰した。
攻撃を加えられたから、反撃した。
そして、彼女が二度と立ち直れないほど、徹底的に叩き潰した。
その姿を見た周りは、かなり引いていた。
その時の、僕の姿は、あまりにも恐ろしすぎた。
僕の、本質。
それは、冷徹であり、冷酷であり、残酷であり、惨忍である。
相手の心を徹底的に、傷つける。
逃げ道なんて残さない。
そうしないと、自分自身を守れないから。
二度と、攻撃を受けないようにするためには。
今日、友人に言われた。
『お前には人を愛する資格はない』
それは、どこまでも、冷徹な言葉だった。
だけど、どこかむしろ、それが心地よかった。
だって、それは事実だから。
僕が、愛せるのは、きっと自分だけ。
そして、僕が愛せる他人と言うのは、僕を愛せる人。
僕と言う存在を愛し、立ててくれる人。
決して、僕と言う存在を否定しない人。
だけど、そんな人間この世の中にいない。
だから、僕には、愛する資格なんてないのだ。
冷蔵庫で冷やしてあるビールを取り出すと、プルタブをあけ、一気にあおる。
先ほどと同じく、やけるような感覚が喉をさいなむが、そんな事すら気にならない。
ビールを適当に、その場に置くと、窓の外見る。
相変わらず、そこから見る月は綺麗だった。