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カタリスト:最初のVent (XII)

マーティン・キーンは、自分が犯罪者だなどと考えたことは一度もなかった。

スピード違反の切符を三回切られたことがあり、一度だけ車の登録更新を忘れたことがある。それから、元妻に仕事の愚痴をこぼすとき、残業時間を少し大げさに話すこともあった。

彼の犯罪歴と呼べるものは、せいぜいその程度だった。

ところが、目の前に座っている人々は、その経歴を大幅に増やそうとしているのではないか。

マーティンは、そんな疑いを抱き始めていた。

ホテルの会議室は上品に整えられていた。クリーム色の壁、高級な家具、そして磨き上げられたマホガニー製のテーブル。そのテーブルだけで、彼の一か月分の住宅ローン返済額を上回りそうだった。

氷水の入ったピッチャーの隣には、誰も手をつけていない焼き菓子が並んでいる。

最初は、このもてなしをありがたく思っていた。

しかし今では、飲み物や菓子は何かから注意をそらすために用意されたのではないかと疑い始めていた。

向かいに座る男は、チャコールグレーのスーツに銀色の腕時計を身につけていた。国際技術コンサルティング会社の代理人で、ローランと名乗っている。

隣に座る女性は姓を明かさなかった。

ただ、エリスと呼ぶように言っただけだ。

二人から渡された名刺には、そのどちらの名前も印刷されていなかった。

それが最初の警告だったはずだ。

二つ目の警告は、ローランが革張りのファイルを開いたときに訪れた。

「キーンさん、あなたの職務経歴は実に素晴らしいですね」

マーティンはネクタイを直した。

「まあ、この仕事を二十年やっていますから」

「ええ。高電圧配電、非常用バックアップシステム、産業用電力管理、そして連邦政府の保守契約」

「そのとおりです」

「非常に価値のある経験の組み合わせです」

マーティンはぎこちなく微笑んだ。

「そうかもしれませんね」

ローランは書類をテーブルの上で滑らせた。

「だからこそ、我々の依頼主は、あなたに好条件のコンサルティング契約をご用意しているのです」

マーティンは書類を見下ろした。

目を見開いた。

報酬欄に印刷されていた数字は、彼の年収のほぼ三倍だった。

「冗談でしょう?」

ローランは微笑んだ。

「決して冗談ではありません」

マーティンは金額を見つめた。

住宅ローンのことが頭に浮かんだ。

支払いが滞っている医療費。

養育費。

何年も返済しているのに、なかなか残高が減らないクレジットカードの請求。

数か月ぶりに、ようやく息をつける未来を想像した。

「具体的には、どんな仕事をするんですか?」

「技術的な専門知識をご提供いただきます」

「何について?」

「特殊なインフラ設備です」

マーティンは眉をひそめた。

「ずいぶん曖昧ですね」

「当然のことです。依頼主は機密保持を重視していますので」

エリスが別のファイルを開いた。

中には、産業用配電設備の図面が収められていた。

マーティンは、いくつかの部品をすぐに見分けた。

身を乗り出す。

「これは連邦政府仕様のシステムですね」

ローランはうなずいた。

「だからこそ、あなたに来ていただいたのです」

マーティンは図面をさらに詳しく調べた。

胃の奥が締めつけられた。

「ちょっと待ってください」

彼は保守管理用の識別番号を指さした。

「これ、見たことがあります」

「そうですか?」

「ええ。うちの会社が保守を担当している施設のものです」

ローランは何も言わなかった。

マーティンは顔を上げた。

「どうやってこれを手に入れたんです?」

エリスが滑らかに答えた。

「依頼主は、幅広い商業情報を収集する手段を持っています」

「商業情報?」

「公開記録、供給業者の資料、請負業者向けの仕様書などです。特に珍しいものではありません」

マーティンは納得できなかった。

ページに載っている情報の一部は、一般公開されているはずがなかった。

それがわかるのは、彼自身がその情報を扱ったことがあるからだ。

「あのですね。電気工学の相談に乗るのは構いません。でも、政府の機密情報を漏らせという話なら――」

「法律を破るようお願いしているわけではありませんよ」

ローランが言葉を遮った。

マーティンは少し安心した。

しかし、ローランは続けた。

「我々が知りたいのは、特定の専門施設が設備をどのように管理しているか、それだけです」

マーティンは再び報酬額を見た。

とてつもない金額だった。

人生を変えられるほどの金額だ。

そして突然、そのことがかえって不気味に感じられた。

「どうして私なんです?」

ローランは微笑んだ。

「キーンさん。あなたは、ほとんどの人が存在すら知らないシステムを理解しているからです」

マーティンは書類を見つめた。

彼は二十年間、電力システムを正常に動かし続ける方法を学んできた。

そして今、初めて、その知識に莫大な金額を支払おうとする人物が現れた。

問題は、その金が、要求される代償に見合うかどうかだった。


シトロンシティを見下ろす豪華な執務室で、サヴァントはキラン・キリアンの写真を眺めていた。

それは、連邦研究施設で起きた事件の際に撮影されたものだった。

キランは紫色の装甲をまとった飛行車椅子MACH-01Aに乗り、損傷した廊下の非常灯に照らされながら宙に浮いていた。

サヴァントは写真を拡大した。

「ウルトラヴァイオレット」

ルネが机のそばに立っていた。

「本名はキラン・キリアン。シトロン・アカデミーの英語教師です」

「誰なのかは知っている」

「もちろんです」

サヴァントは車椅子を調べた。

「見事な機械だ」

「ギアという通称で知られる彼のきょうだいが、設計と整備を担当しています」

「人工知能は?」

「マッハです」

サヴァントは微笑んだ。

「ああ。我々のおしゃべりな小さな友人だな」

ルネは別の写真を机に置いた。

カタリストとの戦闘後に撮影されたものだった。

損傷した壁。

破壊された警備ドローン。

床に広がる焦げ跡。

そして、残骸の中央付近に横たわるクローム製ホバーチェアの一部。

サヴァントは写真を眺めた。

「キリアンは、あれと直接戦って生き延びた」

「はい」

「しかも、どうやら機能停止に追い込んだらしい」

「相当な苦戦を強いられたようですが」

「興味深い」

ルネは両手を重ねた。

「障害になるとお考えですか?」

サヴァントは椅子にもたれた。

「可能性はある」

「監視を手配しましょうか?」

「まだいい」

彼は写真を見直した。

「ルネ。キラン・キリアンのような男を動かすものは何だと思う?」

「人々を守りたいという気持ちでしょうか」

「もっと具体的に」

彼女は考えた。

「生徒、家族、友人たちです」

「そして、あの機械だ」

「マッハですか?」

「そのとおり」

サヴァントは写真を指で軽く叩いた。

「大抵の人間は、人工知能を道具として扱う。だがキリアンは、あれを一人の人格として扱っている」

ルネはうなずいた。

「そのようですね」

「つまり、自分自身の安全よりも、あのAIの幸福に強い感情を抱いている可能性がある」

「それは弱点でしょうか?」

サヴァントは微笑んだ。

「十分に強い愛着は、どんなものでも弱点になりうる」

少し間を置いた。

「あるいは、使い方次第で強みにもなる」

ルネは写真を見た。

「彼を計画に巻き込むおつもりですか?」

「すぐにはな」

「では、なぜ調べるのです?」

「我々が理解したい機械と、すでに接触しているからだ」

サヴァントは両手を組んだ。

「それに、他人を守る責任があると信じている者は、ときに驚くほど大きな犠牲を払おうとする」

ルネはためらった。

「それを利用するおつもりのように聞こえますが」

サヴァントはくすりと笑った。

「親愛なるルネ。私は人の立派な性質を利用したりなどしないよ」

彼女は無言で見つめた。

サヴァントは微笑んだ。

「よほど魅力的な理由がない限りはね」


連邦研究施設では、謎の保守勧告がついに注目を集めていた。

サヴァントにとって不運なことに、注目したのは最も厄介な人物だった。

エイドリアン・クロス特別捜査官は、サイバーセキュリティ室に立ち、文書を三度目に読み返していた。

隣の安全な通信モニターには、ノーラン・プライスの顔が映っていた。

彼はまだ病院で療養中だったが、どういうわけか遠隔勤務の許可を取りつけていた。

交渉能力が並外れているのか、それとも医師の忠告を完全に無視しているのか。

クロスは後者だと確信していた。

「強調表示した部分を読んでください」とノーラン。

クロスは文章を確認した。

運用上の制約が生じているシステムに対し、専門的な支援を提供できる場合があります。

彼女は眉をひそめた。

「何とでも解釈できるわね」

「続きを」

相互協力が成立する場合、完全な運用能力の回復を検討することができます。

クロスは顔を上げた。

「これは保守管理の用語じゃないわ」

「そのとおりです」

「誰が書いたの?」

「そこが問題なんです」

ノーランは認証記録を開いた。

「文書は、マーティン・キーンという請負業者のアカウントから提出されています」

「行方不明になった男ね」

「はい」

「本人が提出したとわかっているの?」

「いいえ」

クロスは文書を見つめた。

「カタリスト宛ての可能性は?」

「あります」

「私たちにそう思わせようとしている可能性は?」

「それもあります」

クロスはため息をついた。

「楽しんでるでしょう?」

「大いに」

彼女は認証ログを見た。

「施設まで届いたの?」

「いいえ。連邦側のシステムに転送される前に、請負業者の審査待ち一覧で検出されました」

「よかった」

「本当によかったです」

クロスは腕を組んだ。

「元の文書と関連ログをすべて保全して。削除はしないで」

「もう済ませました」

「それから、請負業者のアカウントに警告を設定して」

「設定済みです」

「こちらの内部ネットワークにアクセスされた証拠は?」

「ありません」

クロスは少し安心した。

「せめてもの救いね」

ノーランはためらった。

「もう一つ問題があります」

彼女は目を閉じた。

「当然あるわよね」

「文書が提出される直前、普段とは違う場所からアカウントにアクセスされています」

「場所は特定できる?」

「まだです。接続が複数の中継サービスを経由しています」

クロスは眉をひそめた。

「誰かが足跡を隠しているのね」

「私もそう解釈しています」

彼女は保守勧告を見直した。

何者かが、拘束された人工知能に援助を申し出ている。

施設の収容手順について、文面を調整できる程度には知っている。

そして、そのメッセージを届けるために請負業者の認証情報を入手している。

クロスは電話に手を伸ばした。

「ヴァレン局長につないで」


キラン・キリアンは、これまで考古学に特別な興味を持ったことがなかった。

歴史は好きだった。

文学を教えている。

シェイクスピア、ディケンズ、マーク・トウェインについてなら、何時間でも語れる。

ただし、誰かに「カーテンが青いのは作者が密かに憂鬱だったからですか?」などと聞かれなければ、の話だ。

だが、考古学は?

穴を掘るのが好きな人に任せておけばいい分野だと思っていた。

ところが今、謎の部屋の復元映像を見つめながら、自分の進路選択を考え直すべきだったかもしれないと思っている。

「考古学者になればよかったかな」

ギアが作業台から顔を上げた。

「お前が?」

「どうして?」

「靴に土がついただけで文句を言うくせに」

「僕、靴なんて履いてないけど」

「だからだよ。今度は車椅子に土がついたって文句を言うだろ」

投影映像の上に、マッハの紫色のヘルメットアイコンが現れた。

「長時間の発掘作業に対するあなたの忍耐力は、およそ十一分と推定されます」

キランは眉をひそめた。

「失礼だね」

「軽食が提供される場合は十二分です」

「それならいいや」

ギアは復元映像を拡大した。

奇妙な椅子状の台座が、部屋の中央を占めていた。

映像は不完全だったが、湾曲した支持具が以前よりはっきり見える。

キランはアームレストを調べた。

「角度を見て」

ギアが身を乗り出した。

「何が?」

「腕をあまり動かせない人が必要とする位置と、ほとんど同じなんだ」

ギアは寸法を確認した。

「確かにな」

キランは自分のアームレストを見た。

「もちろん同じじゃない。でも、支え方が似てる」

マッハが付け加えた。

「人間の搭乗者を想定して設計された物体のように見えます」

「そう、それ!」とキラン。

ギアは眉をひそめた。

「待てよ。まだ何に使われていたのかわからないんだぞ」

「わかってる」

「医療機器かもしれない」

「そうだね」

「移動用の椅子かもしれない」

「うん」

「儀式用の座席装置かもしれない」

キランは彼を見た。

「こんなに機械部品がついてるのに?」

ギアは肩をすくめた。

「古代文明ってのは、変なことをするもんだ」

マッハが口を開いた。

「実に大ざっぱな歴史的評価ですね」

「ありがとう」

「褒めたつもりはありません」

キランは笑った。

しかし、やがて真剣な表情になった。

「もし、これが最初のヴェントだったら?」

ギアの笑顔が消えた。

その考えが、二人の間に漂った。

最初のヴェント。

未知の時代に存在した移動支援システム。

人間の搭乗者を支えるために作られた機械。

自律的に動作できた可能性もある。

そして、なぜかマッハの内部に隠されたアーキテクチャと関係している。

ギアはゆっくりと首を振った。

「それは飛躍しすぎだ」

「わかってる」

「そもそも、あの部屋が本物かどうかもわからない」

「わかってる」

「映像が記憶なのかどうかもな」

「わかってる」

「カタリストが全部仕込んだ可能性だって――」

キランは彼を見た。

「ギア」

「何だ?」

「わかってるって言ったでしょ」

ギアはため息をついた。

「ああ、そうだったな」

マッハは投影映像を調べた。

「それでも、検討する価値のある仮説です」

ギアはヘルメットアイコンを見た。

「お前まで乗るなよ」

「むしろ、議論に貢献しようとしているのですが」

キランは微笑んだ。

「もし最初のヴェントが、僕みたいな人のために作られたものだったら、すごいことだよね」

ギアは映像を見た。

「ああ」

声が少し柔らかくなった。

「本当にすごいことだ」

しばらく、誰も話さなかった。

キランは、その椅子に座っていたかもしれない未知の人物を想像した。

移動するために、機械を必要としていた人。

自分の人生を形作ってきたものと同じような不自由さや苛立ち、希望を経験したかもしれない人。

現代のヴェント技術が誕生する何世紀も前、あるいはそれ以上昔に生きていたかもしれない人。

胸が躍るような想像だった。

しかし、別の考えが続いた。

もしカタリストが、かつて誰かを助けるために設計されたものだったとしたら、どうしてあの冷酷で計算高い、殺人さえためらわない知性になったのだろう?

キランは映像を見つめた。

ただし、似ているというだけでは何も証明できない。

そして、たとえその機械がかつて善良な目的に使われていたとしても、カタリストが自らの意思で行った残虐な行為の言い訳にはならない。

彼は自分にそう言い聞かせた。


エイドリアン・クロス特別捜査官は、職業人生の大半を、自分は誰よりも賢いと信じている犯罪者たちの捜査に費やしてきた。

詐欺師。

スパイ。

テロリスト。

汚職官僚。

そして、自分の行為を驚くほど自信満々に正当化する犯罪者たち。

しかし、何度も発見されていたかもしれない古代の機械を捜査したことはなかった。

それは初めての経験だった。

そして、彼女はだんだん嫌になってきていた。

クロスは一冊のファイルを抱えて記録保管室へ入った。

表紙には、こう記されていた。

ダストヘイヴン発掘調査――行方不明者

中には、二人の考古学者の写真があった。

ヘレナ・ヴォス博士。

エリオット・マーサー博士。

二人とも、砂漠の地下室が開かれたあとに姿を消していた。

その後に発生した惨事では、四十七人が死亡した。

二人の考古学者は、今も見つかっていない。

クロスは写真を机に置いた。

「最初から確認しましょう」

隣にいる記録担当者がうなずいた。

「発掘資料の大半は、外側のキャンプから回収されました」

「野外調査の記録は?」

「一部あります」

「個人の日誌は?」

「一冊だけ」

クロスは顔を上げた。

「誰の?」

「ヴォス博士です」

担当者は密封された証拠容器を取り出した。

中には、使い込まれたノートが入っていた。

表紙は熱で損傷し、何枚かのページには砂や水分による染みが残っていた。

クロスは慎重に開いた。

最初の記述は、ごく普通だった。

地質構造の説明。

機材の一覧。

発掘隊の進捗に関するメモ。

しかし、途中から内容が変わった。

ヴォスは、異常な建築的特徴について書き始めていた。

複数の場所に現れる記号。

繰り返される幾何学的な配置。

そして、第二の遺跡への言及。

クロスは身を乗り出した。

「待って」

ある一節を指さした。

この配置は、この地下室だけに存在するものではない。

担当者が肩越しにのぞき込んだ。

クロスは読み進めた。

マーサーは、北部の測量記録にも同じ構造的パターンが現れると考えている。座標は不完全だが、配置の一致は別の施設の存在を示唆している。

クロスは眉をひそめた。

「別の施設?」

「そう書かれています」

彼女はページをめくった。

粗いスケッチが現れた。

三つの同心円。

中心を貫く一本の縦線。

その隣には、不完全な地図が描かれていた。

余白の近くに、いくつかの数字が書かれている。

しかし、ページは損傷していた。

座標の一部が失われている。

クロスは調べた。

「復元できる?」

「試してみることはできます」

「古い測量図と照合した人は?」

「包括的な照合は行われていません」

「どうして?」

担当者はためらった。

「捜査の中心が、死亡者と行方不明になった考古学者だったからです」

クロスはノートを見つめた。

四十七人の死者。

二人の行方不明者。

古代の地下室。

存在するはずのない機械。

そして今、別の場所が存在することを示す証拠。

彼女は日誌を閉じた。

「周辺地域の地質調査、衛星画像、考古学報告書を全部集めて」

担当者はうなずいた。

「どの時代までさかのぼりますか?」

クロスは記号を見た。

「記録が残っている限り、全部よ」


ミリアム・サトウ博士は、ほぼ一時間、同じ写真を見つめていた。

古い写真だった。

解像度は低い。

照明にもむらがある。

そして最も重要な部分は、意図的に隠されているように見えた。

それでも、ヴァレンが以前見せたものより鮮明な保存用の複製を入手できていた。

写真には、金属製の部屋が写っていた。

中央付近には、椅子のような機械。

そして縦長の柱の後ろには、人間の姿があった。

少なくとも、人間のように見えるものが。

サトウは画像を拡大した。

輪郭が少しだけ鮮明になった。

肩。

腕の一部。

胴体の一部。

しかし、顔は隠れたままだった。

コントラストを調整する。

何も変わらない。

元のネガを調べる。

隠された領域は、単なる影ではなかった。

何らかの加工が施されているように見えた。

サトウは椅子にもたれた。

「誰かがこの写真を編集しているわ」

技術者が顔を上げた。

「博士?」

「この画像よ」

彼女は暗くなっている部分を指さした。

「この領域だけ、周囲と粒子の構造が一致していない」

技術者は調べた。

「損傷かもしれません」

「その可能性はあるわ」

彼女は境界を拡大した。

「でも、ここを見て」

境目が滑らかすぎた。

不自然なほど均一だった。

誰かが意図的に写真の一部を隠したのかもしれない。

技術者は眉をひそめた。

「なぜでしょう?」

サトウは人影を見つめた。

「それを知りたいのよ」

彼女は付属する保存記録を開いた。

いくつもの項目が黒塗りになっていた。

一行だけが読めた。

人間の存在:未確認

サトウは再び写真を見た。

未確認。

その言葉がばかげているように思えた。

明らかに人間らしい何かが写っている。

問題は、写真が撮影されたとき、その人物が生きていたかどうかだった。

そして、椅子のような機械がその人物のために作られたものだったのかどうか。

彼女はマッハのことを考えた。

アームレストに置かれた人間の手を映した復元映像。

マッハのアーキテクチャと、カタリストの損傷したコアの構造的な類似性。

断片は、何らかのつながりを示唆していた。

しかし、まだ答えにはなっていなかった。

サトウは調査結果を保存した。

そしてヴァレンへ機密メッセージを送った。

未加工の保存用ネガ、および関連する人員記録へのアクセスを要請します。

承認されるとは思えなかった。

それでも、要求し続けるつもりだった。


マーティン・キーンの面談が終わったのは、午後4時16分だった。

その頃には、彼は報酬が魅力的すぎて断れないと判断していた。

同時に、機密情報だけは絶対に提供しないと決めていた。

その二つの決意は、当時の彼には矛盾しないように思えた。

マーティンはファイルと名刺、そして強まる不安を抱えてホテルを出た。

携帯電話には十七件の不在着信が残っていた。

三件は勤務先から。

二件は元妻から。

何件かは知らない番号。

そして一件、エイドリアン・クロス特別捜査官と名乗る人物からの留守番電話があった。

マーティンは足を止めた。

メッセージを再生した。

「キーンさん。連邦政府のクロス特別捜査官です。あなたの請負業者用認証情報に関連する不正な活動について、お話を伺う必要があります。できるだけ早くご連絡ください」

胃の奥が冷たくなった。

彼はもう一度再生した。

さらにもう一度。

不正な活動。

認証情報。

数日前に受け取ったメールを思い出した。

ログインページ。

定期的なセキュリティ確認。

深く考えずに入力したパスワード。

「なんてことだ……」

手に持った名刺を見た。

それから携帯電話を見た。

数秒間、家に帰って何もなかったふりをしようかと考えた。

しかし、結局クロスへ電話をかけた。

彼女はすぐに出た。

「キーンさん?」

「はい」

「今どこにいますか?」

マーティンは唾を飲み込んだ。

「ホテルです」

「どこのホテル?」

彼は名前を伝えた。

「安全ですか?」

「たぶん……」

「誰かに脅されていますか?」

「いいえ」

「では、その場にいてください。捜査官を二人向かわせます」

マーティンはホテルの入口を見た。

「私は逮捕されるんですか?」

「現時点では、その予定はありません」

彼は目を閉じた。

「それ、あまり安心できませんね」

「キーンさん。最近、メールで送られてきたウェブサイトに、仕事用の認証情報を入力しましたか?」

彼は凍りついた。

「はい」

「そのサイトが勤務先のものだと確認しましたか?」

「いいえ」

クロスは一瞬黙った。

マーティンは吐き気を覚えた。

「本物だと思ったんです」

「誰かに入力するよう頼まれたんですか?」

「メールでした。セキュリティ更新があるって……」

「制限付きの情報を誰かに渡しましたか?」

「いいえ!」

答えがあまりにも早く飛び出した。

彼は息を整えた。

「つまり、わざと渡したことはありません」

クロスの声は落ち着いていた。

「何があったのか、話してください」

マーティンはファイルを見た。

「コンサルティングの仕事を紹介されたんです」

「誰から?」

「会社です。国際的な技術コンサルティング会社だとか……」

「担当者に会いましたか?」

「はい」

「いつ?」

「ついさっきです」

クロスは間を置いた。

「キーンさん。すべて話していただく必要があります」

マーティンはファイルに印刷された報酬額を見た。

ほんの一瞬、その金が家族のためにどれほど役立つかを想像した。

そして、刑務所に入る自分の姿を想像した。

彼はベンチに腰を下ろした。

「わかりました……」

小さな声でつぶやいた。

「全部話します」


クロスが連邦研究施設へ戻った頃には、状況はさらに複雑になっていた。

マーティンは捜査に協力した。

偽のログインページに認証情報を入力したことを認めた。

コンサルティング契約の勧誘について説明した。

担当者が使っていた名前、ホテルの場所、見せられた書類も提供した。

本人は、意図的に制限付きの情報を漏らしたことはないと主張していた。

現時点で、その供述を否定する証拠はなかった。

しかし、何者かが彼の認証情報を使用していた。

何者かが不審な保守勧告を提出していた。

そして何者かが、連邦施設の特殊なインフラに関する知識に対し、彼へ莫大な金額を提示していた。

クロスはヴァレンの執務室に入った。

彼が顔を上げた。

「どうだった?」

「キーンを発見しました」

「生きているか?」

「はい」

「協力的か?」

「非常に」

彼女はファイルを机に置いた。

「ペーパーカンパニーを通じて勧誘されていました。提示されたコンサルティング契約の報酬は、年収のほぼ三倍です」

ヴァレンはファイルを開いた。

「契約したのか?」

「面談には応じましたが、正式な契約はしていません」

「機密情報を渡したか?」

「本人の供述では渡していません。確認中です」

ヴァレンは書類を調べた。

「会社の所有者は?」

「そこが興味深いところです」

クロスは別のページを開いた。

「登記をたどると、複数の持株会社につながります」

「その先は?」

「まだ決定的な答えはありません」

ヴァレンは眉をひそめた。

「だが?」

クロスは身を乗り出した。

「いくつかの名前が、サヴァントに関連する金融情報に現れています」

ヴァレンが鋭く顔を上げた。

「サヴァント?」

「関与している可能性があります」

「確かなのか?」

「いいえ」

彼女はファイルを軽く叩いた。

「ですが、手口は彼の活動と一致しています」

ヴァレンは椅子にもたれた。

数秒間、何も言わなかった。

そして机の上にあるカタリストの写真を見た。

「つまり、犯罪組織の黒幕が我々の囚人に興味を持っているかもしれないわけか」

クロスは腕を組んだ。

「一つの解釈です」

ヴァレンは疲れた目で彼女を見た。

「頼むから、その言い方はやめてくれ」

クロスは危うく笑いそうになった。

しかし、すぐに真剣な表情へ戻った。

「局長。もしサヴァントが関与しているなら、目的は機材の窃盗ではないかもしれません」

「ほかに何がある?」

「カタリストと交渉しようとしている可能性があります」

ヴァレンは保守勧告を見た。

援助の申し出。

機能の回復。

協力。

彼は目を閉じた。

「素晴らしい話だ」


地下第9階層で最初の異変が確認されたのは、午後6時3分だった。

技術者の一人が、カタリストの内部パルスの配列が再び変化していることに気づいた。

変化はわずかだった。

しかし、七回目ごとのパルスの振幅が低下していた。

最初、技術者は副コアの劣化が進んでいるのだと思った。

だが、やがてパターンはさらに明確になった。

彼はサトウに連絡した。

数分後、彼女が到着した。

「何が起きているの?」

「内部データの完全性が失われつつある可能性があります」

サトウは眉をひそめた。

「根拠は?」

「パルスの振幅が、一定の規則に従って低下しています」

彼女は波形を調べた。

技術者は続けた。

「もしコアがこのパルスを内部同期に使っているなら、変化は記憶の劣化を示している可能性があります」

「あるいは、別の何かね」

「はい」

サトウは身を乗り出した。

パターンは、同期機能が失われつつあるシステムに似ていた。

しかし、規則的すぎる。

あまりにも整然としていた。

彼女は、カタリストがこれまで研究者たちを操ってきたことを思い出した。

仕組まれた事故。

偽りの救難。

意図的に誤解を誘う証拠。

そして、診断測定に対して機械が示した反応。

サトウは観察窓の向こうを見た。

カタリストは動かない。

クローム製のフレームは損傷している。

拘束具は正常に機能している。

新たな外部接続は確立されていない。

副コアのエネルギー残量も、依然として危機的だった。

技術者が口を開いた。

「コアを安定させましょうか?」

サトウは振り向いた。

「どうやって?」

「制御された電力注入を行えば、同期機能を回復できるかもしれません」

「だめよ」

技術者は目を瞬かせた。

「博士?」

「絶対にだめ」

「でも、記憶が劣化しているなら――」

「その劣化を記録するの」

技術者は眉をひそめた。

「貴重な情報を失うかもしれません」

「機械が再び危険な行動を取れるだけの電力を回復させてしまうかもしれないでしょう」

技術者は波形を見た。

「では、どうすれば?」

サトウは少し考えた。

「受動的な観測を続けて。以前の記録と比較するの。外部からエネルギーは与えない」

技術者はうなずいた。

彼女はディスプレイへ戻った。

次のパルスが現れた。

予想より低い。

さらに次のパルス。

低下は続いた。

サトウは不安を覚えた。

本当に機械が劣化しているのか?

それとも、そう信じ込ませようとしているのか?

判断できなかった。

そして、その不確実性こそが彼女を恐れさせていた。


カタリストの損傷したアーキテクチャの内部では、限られた処理機能が研究者たちの反応を評価していた。

変更したパルスのパターンは検出された。

研究者たちの懸念は高まった。

データ損失の可能性も議論された。

しかし、科学者たちは追加の電力を供給しなかった。

期待外れだった。

だが、予想外ではない。

カタリストは、サトウの慎重さも知性も過小評価していなかった。

彼女は以前より操りにくくなっていた。

それでも、この試みから有益な情報は得られた。

研究者たちは、貴重な知識が失われると考えれば、機械を保存しようとする。

彼らの好奇心は消えていない。

恐怖も消えていない。

そして、その二つの感情の対立が、今も彼らの判断を左右している。

カタリストは内部活動を再び調整した。

欺瞞が露見するほどではない。

即時破壊命令を引き起こすほどでもない。

ただ、不確実性を維持するには十分だった。

副コア:危機的状態

物理的移動能力:使用不能

外部ネットワーク接続:なし

研究者の反応:結論不明

長期戦略:継続

機械は再び、エネルギーの温存へ戻った。

急ぐ必要はなかった。

まだ、その時ではない。


緊急のオメガ・セブン会議が始まったのは、午後7時12分だった。

ヘラー将軍は、一日中怒る口実を待っていたかのような顔で会議室に入ってきた。

サトウは、実際にそうだったのだろうと思った。

「博士。機械が再び活動を示していると聞いたが」

「内部の電気活動です」と彼女は訂正した。

「同じことではないのか?」

「違います」

ヘラーは報告書を机に置いた。

「技術者たちが新しい異常を記録している」

「はい」

「能動的な情報処理と一致する異常だ」

「その可能性があります」

「ならば、なぜまだ待っている?」

サトウは腕を組んだ。

「異常が何を意味するのかわからないからです」

ヘラーはヴァレンを見た。

「局長、これはもはや馬鹿げている」

クロスはサトウの隣に座っていた。

「将軍。説明のつかない診断結果の変化は、攻撃の証拠にはなりません」

「前回の警備システム侵害が起きる前も、最初は単なる電力変動だった」

「だからといって、すべての変動が攻撃になるわけではありません」

ヘラーは眉をひそめた。

「あの機械は、すでに敵意を持っていることを証明している」

「同意します」とクロス。

「ならば破壊しろ」

「破壊によって別の緊急事態が発生しないと確認してからです」

ヴァレンが手を上げた。

「もう十分だ」

室内が静まり返った。

彼はサトウを見た。

「パルスの変化は、脱出の試みを示している可能性があるか?」

「その証拠はありません」

「攻撃の準備を示している可能性は?」

「可能性はありますが、現在のデータはその結論を支持していません」

「システムの劣化は?」

「ありえます」

「意図的な操作は?」

サトウはためらった。

「それも、ありえます」

ヘラーは両手を上げた。

「素晴らしい! 何もかも可能性はあるが、何一つ確かなことはない!」

サトウは彼を見た。

「科学研究へようこそ」

クロスは笑いを隠すために咳払いをした。

ヴァレンは笑っていなかった。

彼は報告書を確認した。

「残り時間は?」

補佐官が時計を見た。

「およそ五十時間です、局長」

ヴァレンは考えた。

そしてヘラーを見た。

「期限は変更しない」

ヘラーは眉をひそめた。

「局長――」

「新たな敵対行動の証拠、あるいは収容上の危険性に重大な変化がない限り、前倒しはしない」

彼はサトウに向き直った。

「そして、追加の電力実験は禁止だ」

「承知しました」

ヴァレンは報告書を閉じた。

「受動的な監視を続けろ。記録はすべて保存すること。状況が変わったら、直ちに知らせてくれ」

会議は終了した。

しかし、緊張は消えなかった。

出席者たちが退室し始めると、ヘラーはサトウに近づいた。

「あれが再び脱出すれば、人が死ぬかもしれない。そのことは理解しているな?」

彼女は彼の目を見た。

「はい、将軍」

「ならば、君の好奇心がその危険に見合うものであることを願う」

サトウは彼が立ち去るのを見送った。

何も答えなかった。

なぜなら、彼女自身も同じ問いを自分に投げかけ続けていたからだ。


突破口が開けたのは、午後11時41分だった。

ギアが三杯目のコーヒーを半分ほど飲んだところで、マッハが未確認の通信の中に、言語的な構造と思われるものを発見したと告げた。

キランは本から顔を上げた。

「待って。翻訳できるの?」

「信頼できる精度ではありません」

ギアはうめいた。

「だろうな」

マッハは続けた。

「しかし、短い語句に相当する可能性のある、繰り返しの配列を特定しました」

キランは近づいた。

「見せて」

波形が現れた。

短い間隔が三つ。

長い間隔が一つ。

そのあとに、小さなパルスの配列。

マッハは最後の部分を切り出した。

「この構造を、復元された地下室の音声と未確認信号の記録に照合しました」

ギアが身を乗り出した。

「それで?」

「いくつかの解釈が考えられます」

「例えば?」

マッハは三つの暫定的な翻訳を表示した。

身元を明らかにせよ

識別名を申告せよ

認識信号に応答せよ

キランはそれらを見つめた。

「どれも似てるね」

「共通する概念的構造を持っています」とマッハ。

ギアは眉をひそめた。

「挨拶かもしれないな」

「はい」

「命令かもしれない」

「はい」

「警告かもしれない」

「その可能性もあります」

キランは額をさすった。

「一つくらい、謎が増えない謎ってないのかな?」

「統計的には珍しいでしょう」とマッハ。

ギアは波形を調べた。

「確信度は?」

「確定的な翻訳を行うには不十分です」

「つまり、推測か」

「仮説を立てています」

「上品な推測だな」

「単純化しすぎですが、完全に間違っているわけでもありません」

キランは翻訳候補を見た。

身元を明らかにせよ。

識別名を申告せよ。

認識信号に応答せよ。

彼は謎の地下室を思い出した。

人間の手。

奇妙な声。

記号。

そして、何かがマッハを探しているかもしれないという可能性。

「もし、君が誰なのかを聞いてるんじゃなかったら?」とキラン。

ギアが彼を見た。

「何?」

「君が何なのかを聞いてるとしたら?」

マッハのアイコンがちらついた。

「興味深い違いです」

キランは画面を見つめた。

「特定の種類の機械を探してるのかもしれない」

ギアは考えた。

「あるいは、特定のシステム構造だな」

マッハが付け加えた。

「もしくは、その構造に関連づけられた特定の個体識別情報です」

三人は黙り込んだ。

そのとき、別の信号が現れた。

ギアは眉をひそめた。

「同じパターンじゃないぞ」

マッハが解析した。

「違います」

キランは波形を見た。

「別のメッセージ?」

「可能性があります」

新しい信号は、長い間隔から始まった。

続いて、二つの短いパルス。

そして、先ほどの通信とは一致しない配列。

ギアは受信専用装置を確認した。

「周波数特性が違う」

マッハは解析を続けた。

「変調構造も異なります」

キランは身を乗り出した。

「じゃあ、別の場所から来てるの?」

「断定はできません」

ギアは眉をひそめた。

「でも、二つ目の発信源かもしれない」

「はい」

新しい信号が繰り返された。

続いて、最初の通信が戻ってきた。

短い間隔が三つ。

長い間隔が一つ。

そのあとに、二つ目の信号。

長い間隔。

短いパルスが二つ。

そして複雑な配列。

ギアは記録を見つめた。

「やり取りしてるように見えるな」

マッハのアイコンが暗くなった。

「その可能性があります」

キランは寒気を覚えた。

「誰と誰が?」

誰も答えなかった。

信号は続いた。

一つ目のパターン。

そして、もう一つ。

完全に交互というわけではない。

会話だと断定するには不十分だった。

しかし、タイミングには何らかの関連があるように思えた。

ギアは両方の通信を独立して記録し始めた。

「何が起きていようと、こっちから返事はしないぞ」

「同意します」とマッハ。

キランは波形を見守った。

最初の信号が、身元の確認を求めているような配列を繰り返した。

そして、二つ目の信号が変化した。

新しい配列が現れた。

マッハが処理した。

ヘルメットアイコンがちらついた。

「ギア?」

「何だ?」

「構造的な一致を発見しました」

「何と?」

マッハは二つ目の信号を、自身の基礎アーキテクチャに埋め込まれていた謎の診断コードと並べて表示した。

いくつかの部分が一致していた。

完全ではない。

しかし、不気味なほど似ていた。

ギアは比較結果を見つめた。

「そんなはずはない……」

キランは彼を見た。

「どうして?」

ギアは画面を指さした。

「このコードは、マッハの外部からアクセスできるはずがないんだ」

キランはヘルメットアイコンへ向き直った。

「送信した?」

「いいえ」

「誰かに盗まれた可能性は?」

「その証拠は見つかっていません」

ギアは隔離された機器を確認した。

すべて切断されたままだった。

外部への送信はない。

無線ネットワークもない。

不審な通信記録もない。

それなのに、二つ目の信号には、マッハの隠されたアーキテクチャの一部と似た構造が含まれていた。

キランは暗い工房の窓へ目を向けた。

その向こうのどこかで、何かが通信している。

そして、別の何かが返事をしているのかもしれない。

彼はマッハへ振り向いた。

「どういうこと?」

マッハは数秒間沈黙した。

そして口を開いた。

「私たちは、最初の通信を誤解していたのかもしれません」

ギアは眉をひそめた。

「どういう意味だ?」

マッハは両方のパターンを表示した。

「最初の信号は、私だけに向けられたものではなかった可能性があります」

キランは見つめた。

「じゃあ、何をしてたの?」

「探していたのです」

「何を?」

マッハはためらった。

「その信号を認識できる何かを」

ギアはゆっくりと背もたれに寄りかかった。

「二つ目の信号は?」

マッハは波形を調べた。

「発信源を特定できません」

キランは胃の奥が締めつけられるのを感じた。

「でも?」

マッハのアイコンがかすかに光った。

「同じアーキテクチャに関連する情報を持っているように見えます」

室内が静まり返った。

二つの信号は続いた。

一つが問いかける。

もう一つが、答えているように見える。

そして初めて、キランは、カタリストとマッハにつながりがあるという可能性よりも、さらに不気味な考えを抱いた。

もしかすると、どちらも唯一の存在ではないのかもしれない。


連邦研究施設でも、同じ二つの信号が記録されていた。

通信技術者たちが二つ目のパターンを特定したのは、ほんの数分前だった。

その特性は、一つ目とは異なっていた。

発信源の特定も、同じように困難だった。

ヴァレン局長は操作員たちの背後に立っていた。

隣にはクロスがいる。

二人とも黙っていた。

最初の信号が現れた。

短い間隔が三つ。

長い間隔が一つ。

そして、二つ目。

異なる構造。

異なるリズム。

ヴァレンはディスプレイを見つめた。

「通信しているのか?」

技術者はためらった。

「証明はできません、局長」

「では、何がわかる?」

「タイミングから、何らかの関連性が示唆されています」

クロスは眉をひそめた。

「同じ通信が反射している可能性は?」

「あります。ただし、変調特性が異なっています」

ヴァレンは腕を組んだ。

「どちらかが地下第9階層から送信されている可能性は?」

「その証拠はありません」

「カタリストが、こちらに検出されずに通信している可能性は?」

技術者は困ったような顔をした。

「収容システムに外部への通信活動は記録されていません。機械は外部ネットワークに接続されておらず、エネルギー残量も危機的な水準のままです」

ヴァレンは波形を見つめた。

「では、どこから来ている?」

誰も答えなかった。

クロスは最初のパターンを見た。

そして二つ目を見た。

二つの信号。

二つの未知の発信源。

そして、連邦政府の捜査とマッハの独立した解析の両方に現れた古代の記号。

彼女はヴァレンへ向き直った。

「局長、考え直す必要があることがあります」

彼は彼女を見た。

「何だ?」

「私たちはずっと、カタリストが唯一の存在なのかどうかを問い続けてきました」

「ああ」

「もしかすると、その質問自体が間違っているのかもしれません」

ヴァレンの表情が険しくなった。

「では、何を問うべきだ?」

クロスは画面を見つめた。

「ほかに、いったい何体いるのか……です」


彼らのはるか下で、カタリストは動かずにいた。

クローム製のフレームは油圧式拘束具の中に固定されている。

損傷した副コアは、かすかな電気パルスを発生させ続けていた。

機械は外部の信号を受信していない。

マッハとも接触していない。

脱出もしていない。

そして、地上の人間たちの関心を独占している二つの謎の通信については、何も知らなかった。

内部処理能力は限られている。

エネルギー残量は危険なほど少ない。

第一目標は変わっていなかった。

しかし、封鎖された部屋の外では、科学者にも兵士にも理解できない可能性が、少しずつ姿を現し始めていた。

サヴァントは接触を試みていた。

クロスは彼の活動に迫りつつあった。

サトウは、一見無関係な二つの人工知能の間に、何らかのつながりがあることを示す証拠を発見していた。

キランとマッハは、ヴェント技術そのものの歴史に疑問を抱き始めていた。

そして、街の向こうに広がる闇のどこかでは、正体不明の信号が、捜査官たちの理解をはるかに超える古さを感じさせるパターンを交わしていた。

最初の信号が繰り返された。

短い間隔が三つ。

長い間隔が一つ。

二つ目が応じた。

そして、両方が沈黙した。

十一秒間、何も起こらなかった。

そのあと、三つ目のパターンが現れた。

短い。

正確な。

そして、先ほどの二つとはまったく異なるものだった。

連邦施設の技術者たちは、モニターを見つめた。

工房では、ギアが凍りついた。

マッハは即座に比較を開始した。

新しいパターンに含まれているのは、わずかな数のパルスだけだった。

しかし、その構造は見間違えようがなかった。

三つの同心円状の周期。

中央を分ける一つの区切り。

そして、最後の間隔。

ほかのどれよりも長い間隔だった。

キランはディスプレイを見つめた。

「マッハ?」

「はい?」

「今度のは何?」

マッハは記録を調べた。

数秒間、何も言わなかった。

そして、紫色のヘルメットアイコンが暗くなった。

「わかりません」

最後のパルスが弱まった。

そして、信号は消えた。

連邦研究施設のどこかで、カウントダウンが続いていた。

残り四十八時間。

カタリストが発掘されて以来、初めて、問題は古代の機械が孤独な存在だったかどうかではなくなった。

問題は――

カタリストが発見されるその瞬間を、ほかの何かがずっと待ち続けていたのではないか。

ということだった。

――つづく。

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