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序章⑪ 明音に相談

あれから皇居を離れて拠点にしていたビルまで戻ってきた。

日はすでに落ちかけ、夕焼けの濃い赤が荒涼とした崩れかけの街を照らしている。

左腕には朝にはなかった端末が取り付けられている。


「で、どうするのあなた?」


自身の左腕を指差し、明音が聞いてくる。


「‥‥‥‥」

「まさか試練に参加するなんて言わないでしょうね」


口籠もっていると、きつめの言葉が返ってくる。

一週間の付き合いしかないが、今までで一番険しい顔をしている。


「あの文章をあんたも読んだでしょ。参加すれば十中八九死ぬことになるわ。輪廻の巡りとかはよく分かんなかったけど、きっと大変なことなんだと思う。今ならまだ他の人と同じように保護してもらえる」

「それでも先輩は試練に参加するんですよね」

「私には叶えたい願いがあるから。私はそれしか選べないのよ。‥‥でも、あんたは違う。今皆と同じように時間が止まれば、また明日から普通の日が送れるわ。試練のこともこの一週間のことも忘れて普通に生きられる」


どこか悲痛さが混じった明音の声。

彼女の願いは聞いたが、その奥に抱えているもの、考えていることは分からない。

ただきっと命をかけられる程に重く、大切な願いなのだろう。


少し間を開けて、秋灯はぽつぽつ喋り出す。


「俺にも一応あるんですよ、叶えたいことが。神様になることに興味はありません。世界を変えたいわけでもないです。でも、どうしても叶えたい願いが俺にもあるんです」

「それは試練に参加しないとダメなの?」

「でないと叶えられそうにありません」


寂しさと諦めを含んだ苦笑いで返事をする秋灯。

明音がこちらの目をまっすぐ見てくるが、逸らさず見つめ返す。


「いいわ。あなたの行動に私が口出しすることじゃないし。でもこれで試練に参加する敵同士ね。一週間あなたと一緒にいて意外とやりやすかったけど、これでお別れね」

「あ、それは違います。別に神様になるのが目的じゃないんで、極力協力しますよ。試練の内容によってですけど、チームも組めるようならこのままいきましょう」


明音の肩があからさまに落ちる。

秋灯の気の抜けた言葉に、張りつめた緊張感が緩んでいく。


「なんか軽いわね。‥‥‥まぁいいわ」

「意外と先輩ポンコツなところがあるんで、一緒にいますよ」

「なんか言ったかしら」

「いえ、何も」


きつく睨まれる。吊り目気味な目元がさらに寄せられて怖いが、口元は笑っていた。

秋灯はreデバイスを取り出し、画面をつける。

条文はすでに読んでいるため、そのまま下にスクロールしていく。


――【参加】――   ――【不参加】―― 


枠で囲まれた二つのボタン。

天使長の話を聞いた時から、秋灯の選択は決まっていた。

世界の時間が止まった段階から、ずっと試練に参加したいと考えていた。

ただ、明音に了承してもらえるかどうか。それだけが問題だった。


秋灯は【参加】のボタンを押す。

画面には『参加を受け付けました』という文章とともに、『第一次試練開始予定:十月八日 零時』が記載されていた。


時間が停止した世界。神や天使など超常的な存在。

日常が終わったこの世界でなら自分の願いが叶うかもしれない。

昔守れなかった約束を今度こそ果たせるかもしれない。




今度こそ、彼女を守ろう。

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