さあ、お話をしましょうか
どうしよう、何も良い案が浮かばない。
何時までもキッチンにいる訳には行かず、悩み過ぎて痛む頭を軽く抑えながら私は隣室へと足を踏み入れた。
兄であるギルノールは何も知らず、目の前に並べられたちまきを手に取り、美味しそうに食べている。何せ、久しぶりの食事だし、口にする全てが美味い物に見えるだろう。背後に幸せオーラみたいなのが見えるのは、たぶん緩みきった兄の表情の所為。決して、懐かしい故郷の味に感激しているものではない、と思いたい。
「ねえ、兄さん。話があるんだけど」
「ふぁふぁふぃ?」
「ちょ、ちゃんと飲み込んでから、話して! また喉に詰まらせちゃうでしょ」
粘着力のあるちまきはどうしても口に溜まりやすい。大量に口に入れた兄は言葉すら発せない程の膨らみが出来ていた。もぐもぐと何度か咀嚼を繰り返し、近くに置いていたコップの水と共に飲み込み終えると、再び口を開いた。
「話って何だい、リティシア」
「……兄さん、何で、それがちまきだって分かったの?」
私の問いに兄は、ピクリと動きを強張らせた。でも、それは一瞬の事で瞬時にそれは打ち消される。
「何でって、前も作ってくれたじゃないか。だから、覚えて、」
「私、ここでは始めて作ったの。だから、知る訳ないのよね。昔、食べた覚えがない限り」
兄の反応を確認する間も与えず、ただ淡々と言葉を続けていく。
「第一、この世界にちまきなんて食べ物ないわ。似たようなものはあるでしょうけど、あの作り方で、鍋と匂いだけでちまきと言い当てるなんて、アレを食べ育った人間なくらい。ーーそうだろ、小牧」
口調を変え、兄のかつての名を呼んでやれば、兄の表情が分かりやすく変わった。先程までの笑顔が消え、何処か苛立ったようにも見える。やはり、記憶があるのか? 嫌いな兄の存在に、嫌悪感を示しているのだろうか。
今世も兄妹とは言え、満と小牧として話すのは本当に久しぶりな訳で。会話らしい会話を上手くやれる自信はなかった。
現に今も、ドキドキしまくっている。
兄は、一体どう切り返すのだろうか。
暫く厳しい表情のまま兄は動かない。
言葉を間違えたか…? もしや、勘違いだった??
思わず警戒する。が、その真剣な表情は直ぐに崩れ、今まで抑えていたのを発散するかのように、笑い出した。
「ぷっ、くくくっ……! はははっ、ああ、漸く、漸く気づいたのかぁ!! はー、長かったぁ! いつ問い質してくるのか、ずーっと待ち続けてたんだよねぇ」
「……は?」
兄の言葉を思わず脳内で反芻する。今、何て言った?
「だってさぁ、お兄ちゃん。赤ん坊の時にちょっと気付いてたでしょ? だからさ、僕としては直ぐに説明を求められると思って。いつでも答えられるよう、受け止められるよう待機してたのにさあ……」
兄はそう言って笑みを深めると、座ったまま私の頭を優しく撫で回す。その仕草は何処か、からかうようなものに見えた。
「12年もかかるとはねー。相っ変わらず、判断が遅いんだから」
「はっ、はぁぁぁぁぁ!?」
理解した。したら、声を上げずにはいられなかった。見た目は兄のままなのに、ちょっと口調が変わったら、あの日の、ちょっと小生意気な妹の影が見える。
ああ、そうだ。妹、こんな奴だったわ。暫く話していなかったから忘れていたが、ちょっと男勝りで生意気で、でも憎めない愛らしさもあって。苛立ちはするけども、慕ってくれてるのが充分に分かるから、何だかんだで兄妹としては仲良くやっていた。
うん、やっていたが、前世と今では話が別だ!!
「ッ、おっかしいだろ! 色々と! 何で妹のお前が年上で私が年下なんだよ!? あの胡散臭い神っつー奴からお前も殺られたのか!?」
「あ、お兄ちゃんも神様と交流あるんだ? あの人意味不明な事書いてくるから、気にしない方が良いと思う。あと、その口調止めた方が良いよ。せっかくの美少女なのに、台無しじゃん。……いや、待てよ。設定としては、アリかも?」
「ねえよ! つーか、お前が言うな! お前が! 大体、設定って何だ! まさか、今までのドジっ子はわざとやってたとか言うんじゃないだろうな!?」
2人の間に何とも言えない空気が流れる。兄は私を見て、小首を緩く傾げた。
「……え、えへ」
それが答えだった。
「何してくれてたんだよ! お前はっ!! やらかした事他にもあるんなら、全部吐けー!!」
私の言葉と共に空気が震える。残念ながら話し合いは、まだまだ終わりそうにない。




