ちょっと待って、考える時間がほしい
香ばしい香りと共に大量の湯気が舞う。
紐を取り筍の皮を優しく剥ぐと、そこには茹で上がり、ほわほわに出来たもち米。筍の皮で染まってしまったのか、若干茶色いが、その色も緑豆と合わせる事で良い味わいを出している。一口摘んで食べてみれば、思い出の中にある懐かしい味と同じだった。うん、大成功。
「……よし。リィタ、これ、テーブルに運んでって。落とさないようにね」
「ウン、ワカッタ!!」
程良い量を大皿に盛り付けし、食べたい量だけ食べてもらうスタイルにするつもりなので、用意する皿は最低限だ。
何より、先程、兄が割ってしまったコップの処理もあるので、大量に出すのはちょっとな……。また割りかねないし、何よりスライム達の精神面も考慮して、危険な物を兄の傍には置いておくべきではないと思う。混乱して、彼等がまた分離しちゃったら困る。特に、私が。
リィタにちまきを乗せた皿を持たせ、私は小さく息を吐く。ちらりと隣室にいる兄を盗み見れば、にこにこ朗らかに笑っていた。
くるりと踵を返し、キッチンの壁に少し寄り掛かる。
よーし、一先ず落ち着こう。
落ち着いて、兄と何でもなかったように話して……、話せ、るかぁぁぁぁ!!
ちまきを知ってるんだよ?
我が家の、他の地域とは違う独自の作り方のちまきを知ってんだぜ?? 前世の身内や、知り合いの可能性が高いじゃないか!!
それなのに、何事もなかったように話せと? えー、無理無理無理ぃ!!!!
私はそんなに精神強くないし、下手に関わって黒歴史もの出てきたらどうするよ?
第二の人生、まだはじまって十数年だけど返上したくなるよね。
ちまき作ったの失敗だった?
いやいや、食べたくなったんだもん。仕方なくないか? 懐かしい、家庭の味だぜ?
仕方ないよな? なっ?
それにしても、兄は、誰なんだろうか。
ちまきを知ってるって事は、普段付き合いがある間柄って事だ。もしくは身内である親類か、近所の人達か……いや、待てよ? そういや、赤ん坊の時に……
頭に過るのは、初めて兄と対峙したあの時の記憶だ。
『あんまり、考えすぎると禿げちゃうよ、リティシア』
種族故に記憶力が良過ぎる所為か、あの言葉は一字一句間違わずに耳に残っている。
記憶の混乱で生じた空耳だと思っていた。いたのだが、あれが空耳ではなかったとしたら? 私に向けて発された言葉だったと、したら?
「うっわぁ、マジか。マジかぁ……」
思わず漏れた声。吐き出したくもなるだろう。何で、と疑問よりも衝撃の方が遥かに強い。
あの時から、既に兄は分かっていたのだ。
私がかつての兄で、兄がかつての妹だっていうことに。
お兄ちゃん、と私を呼ぶのは私が知る限り1人しかいない。
前世の私萩原満の妹、萩原小牧。彼女だけだ。
「私に、一体どうしろと……!?」
残りのちまきを運び出すまで、延々と考え込むも答えが出てくる事はなかった。




