頼み事をされたんだけど、嫌な予感しかしない
「えぇっ? 私が行くの!?」
「うん、頼むよ」
へらりと笑って、頼み事をするウィリアムに私は何とも言えない表情を浮かべた。どうしてこうなったんだっけ?と首を傾げる。
ウィリアムが兄によって、戦闘不能にされ庭に干されて数時間が経過。半壊状態だった家は何故か、全壊になっていた。兄が全力でウィリアムをフルボッコにした結果がコレである。能力者を怒らせたらヤバいのが良く分かるね。
ユーリに視線を向ければ、半目で壊れた家屋を見つめている。これはアレだな。呆れと憐れみとこれからの事を考えてうんざりしてる顔だ。まあ、自業自得の行いで起きた事なので、経費では落ちないだろう。ウィリアムのポケットマネーから修繕費は出る、はず。というか、ウィリアムってお金持ってるんだよね? 世界領主だし、それなりにコネもありそうだし?
気になるところではあるが、そういうのは兄にぶん投げておけば大丈夫。だって、ウィリアムと付き合い長いみたいだし、扱いも分かってそうだもんね。
いやでも、仕事仲間の方々が被害被りそうで心配だなあ。一応、兄に進言でもしとこうかな。備えあれば憂いなしって言うし。
兄とウィリアムが瓦礫の上で、何か話し合いを終えた後、此方へ来い来いと手招きされた。何だ、とユーリと顔を見合わせ、ウィリアム達の下へ足を進める。
「はっはっは、悪かったな。リティシア。あと、ユーリも」
「悪かったと思うなら、感情のままに能力ぶっ放すを控えろよォ」
「ごもっとも。……んー、やっぱ久々だから加減がよく分かってないんだよなぁ」
「馬鹿か。何年、能力者やってんだァ」
びしょ濡れになったウィリアムを気にする事なく、ユーリはウィリアムの肩を小突く。敢えてユーリは無視したが、私はウィリアムの頭上から目が離せなかった。何故なら、スライム達の制裁が続き未だに頭をはむはむされていたからである。
ぷにゅんぷにゅん揺れるスライム達は大きさは小ぶりで、吸盤のように引っ付いているので、払い落とさない限り頭上から落ちる事はない。ウィリアムが笑う度にふにゅふにゅ揺れるスライム達に、私は思わず笑みが零れる。
うーん、痛痒い筈なんだけど平然としてるウィリアムすっごいね。前はめっちゃ嫌がってたのに慣れてきたのかな? はっ、もしかしてマッサージ的な……
「別の意味で気持ち良くはなってないから。その目は止めろ」
そうピシャリと言い放ち、ウィリアムは良い顔で私を見た。
「それはそうと、頼みがあるんだ」
「頼み?」
「うん。ちょっと俺の代わりに届けてほしいものがあるんだよね。東南にある、とある島まで」
「はぁっ!?」
ーー驚きの声を上げた所で、冒頭の話に戻る訳なのだが、よくこの流れで私に頼み事をしようと出来たよね。断る事を考えてないのかな。考えてないんだろうなぁ……。
「そんな難しいものでもないから、頼まれてほしいな。俺は今日から家の再建に全力尽くす予定だから、出掛けらんないしね」
「お前の場合、出掛けたら最後。行方晦ますもんなァ」
「ユーリうるさい」
だろうねぇ。だからこそ、スライム達の刑が終わってないんだろうし。えっ、まさか家が完成するまでウィリアムの頭上はスライム液塗れが続くの……?
うっわ、最悪じゃん。
でもなぁ、何で私に頼むのさ。兄はウィリアムの監督をするだろうから除外するとして、ユーリに頼む事も出来ただろうに。その気持を察したのか、ウィリアムは軽く手を振った。
「俺の相棒であるなら、アイツの事も知っておいた方が良いと思ってな。癖はあるが、腕は確かだから」
ウィリアムの言葉に奥にいた兄は眉を潜め、ユーリは目を見開いた。
「おまっ、リティシアをアイツに会わせるのか!?」
「そうだよ。何か問題でも?」
「問題しかねぇだろォ!」
兄とユーリの反応からして、普通の人じゃないことは確定である。しかも、常識人なユーリがそう言う事は何かしら問題がある人物って事だ。
貴重な本などを掘り出していた兄の視線が此方を向いたので、私は瓦礫を飛び越え兄に近寄った。
「ねぇ、私が会おうとしてる人ってそんなにヤバい人なの」
「……うーん、ヤバいと言えばヤバいね」
「例えば?」
「会う度会う度に、名前が変わる」
「……うん?」
「人の名前を覚えようとしない」
「んん?」
「空気読まない発言で、度々傷害事件起こしてる」
「めっちゃヤバい人じゃん!?」
会うの嫌だ!っていうかめちゃくちゃ怖いんですけどー!?
引き受けたくないよー。頼み事なんて聞かなかった事にして、近くの村にこのまま避難しようかなあ。




