さーて、またお話をしましょうか?
「はぁぁぁ、つっかれたぁぁ……」
「精霊の宿る木を放置したままだと後が怖いからね。早めの対処が大事!」
「それはそうなんだけどさ、結構しんどいんだよ。治癒魔法」
「あはは、お疲れ様」
星空の下、その巨大な大木は枝を四方に伸ばし、しっかりとその場に根を下ろしている。広範囲にかけた治癒魔法により、先程まであった亀裂や樹皮の剥がれ等は消え失せていた。
完全に消えている訳ではなく、よくよく見れば幹に出来た亀裂の酷かった部分には瘡蓋のような盛り上がりが出来ている。たぶん、兄の落下の衝撃をもろに受けた部分なんだろうな。薄っすらと黒ずんでいるようにも見えた。
私は軽く木の幹を撫で、ほんの少し魔力を流し込んでおく。時空魔法が植物に効くかは分からないけど、何もやらないよりはマシだと思う。
ぽんぽん、と優しく幹を撫でて、空を見上げる。
そんなに時間をかけたつもりはなかったけど、月がよく映えて見えることから2時間ぐらいは経ってるっぽい。
昼間とは違い静まり返っている森。端から見れば怖く見えるよねえ。前世の場所とは違い、人工的な灯りがないから、夜の闇はそれなりに深い。でも、不思議と怖くはないんだよ。エルフの性質なのかなあ。森にいる生物の位置は何となく分かるし、夜目もきく。
温暖な気候だから夜になっても寒さは感じないし。手元にある灯りのランプもあるから、まだまだ長居は出来る状態ではある。まあ、大木を癒す為に来ただけだから終わり次第帰るけども。
そういえば、ウィリアムとユーリは家で待っているのだろうか。遅くなるかもしれないから、帰っててもいいよ?と伝えてはいたけど。私の手料理食べるまでは帰らない!とかウィリアムかゴネてたからねぇ……。能力を無駄に使って居座ってそうだ。うーん、やっぱ早く帰るの止めこうかな……。
体力も尽きそうな状態で魔法を酷使した兄は地に腰を下ろし、荒く息を吐き出している。ほんと、体力がないんだな……。
「兄さん、だらしないよ」
「元々体力ないんだから仕方ないじゃんか……。むしろ、今回の事は僕は被害者でもあると思うんだけどな。好きで此処に落下した訳じゃないし」
「それはそう」
思わず私は勢い良く頷きを返した。そう、そうなんだよ。元はと言えばウィリアムの雑さが原因なのに、当の本人は自分は悪くないとばかりに知らん顔。不満はあるけど、事実、木々を壊してしまったのは兄なので治療しに行くならと、私も着いて来たんだよね。補助魔法なら得意だし。何より、兄に聞きたい事もあったから。
呼吸音が落ち着きを取り戻してきたのか、兄の頰に赤みが戻る。ふぅっと深く息を吐き出したのを横目に声を掛けてみた。
「ねえ、兄さん。聞きたい事があるんだけど」
「……んんー? なに?」
「この世界、やたらと食物が日本に近いものが多いんだけど、何か知ってる?」
落ち着いてはきたけれど、まだ意識はぼんやりしているようで。何処かぽやぽやした雰囲気のまま、兄は口を開いた。
「あーー……、かつての《《管理者》》の趣味っぽいんだよね。神様から色々任されているとはいえ、故郷の味が食べたいからって、始まりの日に各地に種を落としたんだって……」
「管理者?」
「そうそう、丘の上にあるーー、」
そう言いかけて兄はハッと我に返り、口元を押さえた。その表情は明らかに不味いことを言った、というそれである。私は口端を引き上げた。
「……リティ?」
「なあに、兄さん」
「今のは、き、聞かなかった事にしてもらえないかなー、なんて」
「嫌だ」
にっこりと笑顔でそう断言しれやれば、兄は見事にピシリと固まった。言ってはいけないことだったのか、はたまた知られてはいけないことだったのか。どちらかは分からないけれど、やはり兄はこの世界の成り立ちを詳しく知っているようだ。
「頼むから、すぱーんと忘れてくれないかな!? これ、ほんとにほんと言っちゃ駄目なやつぅ!!」
「うーん、ほら私って記憶力良いエルフだから忘れることは難しいかなー」
「リティのばかぁぁぁ!!」
「どっちかと言うと、それ私の台詞ね」
言っては駄目なやつをぽろりと零しちゃうなんて、相変わらず詰めが甘いなぁ、と私は小さく息を吐いた。




