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懐かしく優しい匂いに、思わずにっこり




ぐつぐつと震える鍋の中を平らなお玉を使い、程良く混ぜていく。暫くすると良い匂いが漂い始め、鼻腔を擽ってくる。この匂い、お腹空いてくるよなあ。鼻が良いユーリは特に腹の虫が鳴るんじゃないかな。

ちらりとユーリを見てみれば、フンフンと鼻が動いてた。ふふ、楽しみにしてるようで何より。


鍋の中の水分がほぼ無くなりかけた頃芋に火が通ったようで、確認の為に竹串で刺してみた。力を入れる事なくプスリと刺さるそれに、人知れず笑みを溢す。うん、良かった。ちゃんと火が通ってる。


お玉の底を使って力を加えると繊維が崩れ、ほろほろになっていく芋。ペースト状の手前あたりまでかな、ある程度の塊になるよう変化を促していく。


「よぅし、」


ここで軽く砂糖と塩を投入! 分量はまあ、勘というか、これぐらいかなーっていう感覚でやってる。レシピなんてないしね。オレの記憶力だけが頼りだ! 不味く出来上がった場合、責任持ってオレが食すよ。うん……。


何度か混ぜた後、細かく切った固形切り餅を鍋に入れちゃいまーす。えーいっ!!


ここからは絶対に目を離しちゃいけない。混ぜる手を止めるなんて、もってのほか。直ぐに焦げてヤバい代物になっちゃうからねえ。


腕が腱鞘炎になるのをお構いなしにゆっくりと、丁寧に餅と芋が上手く絡まるようにかき混ぜていく。

分離する事なく混ざってくると、栗のような色合いになる。ふつふつと気泡が出るのを認め、中身がお玉に当たる感触が変わってくるのを待つ。


「あと、少し……」


この食べ物は固くあってはいけない。トロリとした……いや、ドロリとした見た目で熱々のまま、スプーンで食べるのが美味しいのだ。

素朴な味で素材の味が活かされてると思う。ただ、作る工程にめっちゃ手間暇かかるけども。


力を入れ過ぎてたのか、ちょっと疲れてきたなあ。ふぅ、と小さく息を吐いた時、鍋に陰が差しているのに気付いた。視線を上に向けてみるとーー


「うひょわぁ!?」


「お、驚かせたか。すまねェなァ」


長身のユーリが腰を屈め、手元を覗き込んでいた。

驚いて思わず手を止めてしまった為、ぷすっと気泡が立つ音と焦げた匂いが漂う。慌ててお玉を混ぜ回すとユーリを見上げた。


「び、っくりしたぁ……。どうしたの? お腹、空いた?」


「はは、こんだけ匂いがありゃあなァ。座っとくのも落ち着かねェから、何か手伝わせてくれ」


「手伝い……」


ぐるぐると鍋をかき混ぜながら、首を傾げる。混ぜ回すのをバトンタッチしたいくらいだけど、これは長年の勘が必須だからなぁ。混ぜ過ぎず、程良い口溶けの固さにしないと、オレが欲するもちねにはならない。


考えた末に、お皿と飲み物を用意してもらう事にした。


「ええと、そこの戸棚の上段に深皿のものがあるので、それを複数枚と……もちねに合う茶葉をそこに置いてるので、ティーカップに入れて準備してほしい、かな」


「おう、わかった」


ユーリは了解の意味を込めて、オレの頭を軽く撫でるとその場から離れていく。躊躇う素振りもなく機敏に動き始めたユーリを見て、やっぱり普段から家事やってるんだな、とオレは確信した。


家事が出来る男性っていいもんだよね。

ほら、うちの兄は豆のさや向きで爆散させる人だから。キッチンには絶対近付けさせれないもん。


お玉に張り付く粘りが程良くなっていく。かき混ぜる速度を落とし、口角を上げたまま小さく息を吐いた。


よーし、あと少しで完成だぞ〜!!




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