あれ、思ってた令嬢と違うな…?
【ーーーー、】
誰??
【ーーーってる、】
何、聞こえないよ。
もっと、大きな声で言ってくれないと。
【ーーの塔で、ずっと、ーーってるからね】
待ってる? 誰を??
ねえ、ちょっと、誰をーーーー、
ふわりと意識が浮上する。
何でだろう、物凄く頭が痛い。
ガンガンと、脈と同じように痛みを繰り返す不快さに私は目を開けた。
「あっ、リティ! 良かったぁぁぁ!! 目が覚めたんだなーー!!」
目が合った途端、私を勢い良く抱き締めてくる兄に思わず声を上げる。
「ちょ、ちょっと、兄さ、」
「頭を強く打ったから、お医者さんに見てもらったんだよ。暫くは目を覚まさないかもしれないって、言われてたから……。良かった、早く目が覚めて」
安堵の息を吐く兄に、私は目を瞬かせる。起き上がり頭に手を当てると、たんこぶが出来ていた。
あー、痛いと思ってたら痛みの原因はコレかぁ。跡残らないよね。いや、別に残っても大した問題ではないんだけども。
起き上がったら駄目だよ!と騒ぐ兄を制して、私は首を横に傾げた。
で? どうして、こんな事になったんだっけ?? 確か、令嬢の所に向かっ、てて……
コツン、と靴の音が響く。音に気付き視線を向けると、控えめな声が掛かる。
「あ、あの……」
其処にいたのは、円縁眼鏡をかけ、長い三つ編みを垂らした一人の女性がいた。
女性というより、まだ少女でも通じる感じの幼さが残っている。
あ、踏んづけてきた人だよね。飛び込んできた人がいたのだけ、覚えてるよ! うん!!
あれ? ちょっと待て。今の私の格好、男装解けかかってんな!? あーあー、そうだよね! 医者に見てもらったんだもんね! そりゃ変装したままじゃ駄目だわな。
隣にいた兄の服をグンッと引き、耳打ちする。
「ちょっと兄さん、何がどうなってるの。というか、あのお姉さん誰」
「あっ、大丈夫! 令嬢には事情を説明しちゃったから、リティは普通に話しても大丈夫だよ!」
「は?」
兄と眼鏡の少女を交互に見つめる。
兄は何と言った? 令嬢には全て話した? えっ、経緯もろとも全部話しちゃったの?? 嘘でしょ!?
にこにこ笑顔を浮かべる兄と対照的に、眼鏡の少女は涙目になりそうな程に、ぷるぷる震えているではないか。え、可愛い……じゃなくて、えっ、まさか。まさか……?
「兄さん、まさか、彼女……」
「そうだよ。彼女が、バロス・ロジェワードの一人娘の、」
兄の言葉を引き継ぐように、眼鏡の少女は一歩前に出ると、長いスカートの裾を摘み片足を後方に引いて膝を軽く曲げた。おお、カーテシーの仕草だね。っていう事は……
「サリエーぜ・ロジェワードといいます……。父が、ご迷惑かけて、おります、です。はい……」
あっれれぇ? 予想と違った令嬢がきーたーぞー!? 高飛車か、明るく勝ち気な令嬢がくると思ったんだけどな!?
いや、これはこれで良いけども。
えっ、作戦諸々これ変えた方が良くない?
良いよね?? だって、令嬢が此方にいないと別の意味で心配になるやつじゃんね??
未だに震える令嬢を見て、私は小さく息を吐いたのだった。




