私が、何したって言うんだよぉ!?
不穏な雰囲気でびくびくしてたけど、大丈夫。私生きてます。
扉が開いたその先に何かがあったとか言う訳でもなくて。床がガコンと外れて落ちたとかいうのもなくて。
普通に令嬢の部屋に向かってるみたい。
あれ、このメイド。やっぱり大丈夫っぽい……??
「ネージュ様、ノエル様」
「っんぉはい!」
おおっと! 変な声出たぁ!! いきなり話しかけられて、驚いたんだもん、仕方ないよね!
おい、兄よ。笑ってんの見えてるからな。肩を小刻みに揺らしてないで、ちゃんと淑女の仮面被ってて。メイドさん、こっち見てるからぁ!!
「お聞きしたい事があります。お二方は、お嬢様の味方なのでしょうか。それともーー、」
カツリと靴を鳴らし、メイドのリズはその足を止めた。そしてくるりと身体ごと此方に視線を向ける。
「敵となられる方なのでしょうか?」
ぴくりとも動かない表情からは何も読み取れない。ただ、僅かに瞳が揺らいでいたのを、私は見逃さなかった。
「ええと、リズさん」
「リズ、で構いません」
「じゃあ、リズ。敵ではないと宣言したとして、何かが変わるのかな? 何の説明もなく、此処まで俺らを連れてきたのに?」
そう言って意味ありげに首を傾げてみれば、リズの眉間に皺が刻まれた。
あっ、駄目駄目。そんな顔しちゃ。美人が台無しだよー。
でもねぇ、屋敷に入って、右に曲がったり左へ曲がったりと、だいぶ歩かされたからなあ。屋敷の奥も奥、離れに向かってるんだろうね。今、止まってるこの扉の先はたぶん、渡り廊下。
え、渡り廊下だよね? 変な場所に辿り着いたとか言わないよね? 右、屋敷の壁。窓あり。左、屋敷の壁。あ、ちょっとシミがある。窓なーし。大丈夫、何の異常もない普通の屋敷内だ。うん! まだ大丈夫!!
今の今まで黙って着いてきたんだから、ほんと教えてほしい。本当なら、スライム全匹解き放って、しらみつぶしに屋敷を捜索したかったんだよ。でも、それは失礼にあたるかなぁ、と留めたんだよ。
えらいね、私!
「リズ、私からもお願いします。兄にきた縁談話、何かが可笑しいと思うんです。何よりあの人が、自ら縁談話を頼む筈がない。違いますか?」
兄の言葉にリズは微かに目を見開いた。おやぁ? この反応、兄とリズはやっぱり顔見知りかな。兄=ネージュって気付いているかどうかは、分からないけど。
うん、揺らいだのは確か。話が聞けるかもしれない。
リズは何度か口を開閉するも、私達が求める真実を口にする事はなくて。
「……申し訳ありません。詳細は私の口からは話せないのです。ただ、1つ言える事は、お嬢様はこの事態を何とかしたいと思っていらっしゃいます。だからこそ、」
ギルノール様に、招待が行くよう取り図られたのです。
そう言って静かに頭を下げた。
うーん、これはやっぱり令嬢に直接聞くしかない……ん?
ダダダダダ、と何かが駆けてくる音を耳にし顔を上げた。音は何処から聞こえてくるのかと思えば、前方から聞こえてくる。
そうガッチリ閉じられた扉の、奥から。
「え」
言葉を紡ぐと同時に開かれた扉からは、赤毛の癖っ毛を三つ編みに編んだ、女性が飛び込んできた。
お互いの瞳がかち合って数秒後、私の頭上に女性の足が降りてくる。
ちょっと思い出してほしい。
前世の記憶から私は男性みたいな感じでぼやいているが、外見年齢は12歳のまだ年若いエルフ少女だ。長命種特有の、緩やかな成長速度。
つまり何が言いたいかと言うと、人間の、高身長女性の足が目の前に見えた場合、どうなるか。
あっ、まさか、踏み潰される!?
え、ちょ、せめて、優しく踏み潰しーー、
そう考えていた最中凄い衝撃を受け、私の意識は見事にブラックアウトした。




