屋敷に到着したけど…、何かが変…?
「貴女方が、ギルノール様の代理の方ですか? 私、今回案内役を仰せつかりました、リズと申します」
ふわりと揺れるスカートを正し、きっちりとお辞儀をしたメイドはニコリとも笑っていない。その瞳は鋭く、私達を見定めているようだ。
なるほど、彼女が第1関門か。
彼女がNOを示せば、令嬢には会えないんだろうね。ただ、彼女がどちらの主人に仕えているかで対応も違うんだけども。
バロスだったら、下手なこと言えないし。ロジェワード嬢だとしても、メイドが味方とも限らない。
此方も見定め必須だな。これは。
メイドの視線には気付かない振りをして、兄は淑女の仮面を纏う。かつての創作者であり、女子だった兄ならば容易い!って笑ってたね。練習では久々のスカート、初めてのコルセットでひいひい言ってたけど。
「はじめまして。ギルノールの妹、ネージュと申します。残念ながら兄は体調を崩してしまいまして。移動が困難な為、私が名代として参りました」
所作はウィリアムから徹底的に叩き込まれたようで、卒なくこなしている。
わあ、めっちゃ笑顔じゃん。余裕あるな、これは。
兄から軽く背中を押され、私は兄の背後から姿を現す。兄と違って、その表情はカッチカチに固い。
「ギルノール様の助手兼、ネージュ様の護衛として来ました、ノエルです」
私はぎこちなく、こういうの場には慣れていない感を出してみる。人身売買は無垢な者が好まれたりするからね。田舎者感を出して、さあどう転ぶか。
メイドはぱちりと瞬きをした後、くるりと踵を返した。
「屋敷にて、お嬢様がお待ちです」
肩越しにそう告げ、スタスタと歩き出す。えっ、歩幅合わせずに着いて来いスタイルなの?良いの?そんな態度で。
ネージュとノエルの仮面を外さずに、メイドの後に続くよう、動き出しちらりと兄を見上げた。
「……どう思う?」
「うーん……、判断材料が少ないから、何とも言えないけど、嫌な気はしないね。スライムも大人しいし。でも、油断は出来ないかな」
数歩先を歩くメイドの動きには無駄がない。効率良く歩いていると思うが、ただそれだけだ。そういう類のものはウィリアムが得意な筈なのに、この場にいない。バロスを相手に商談だか、会議だか何かやってるみたいなんだよね。
前世のように、リモート会議ような遠隔地での会議とか、この世界はまだ不可能っぽいし。バロスはウィリアムと共に会議室にいるのは間違いない。
なら、やるべき事は1つ。
家主のいない間にとことん調べること!!
いやあ、でもさ、こういう場合の家主不在宅ってさ。警備員沢山いたり、結界が幾重にもあったりとかするんだけど。
ご覧ください。簡単に入れました。
メイドの後着いてったら、普通に敷地入れたんだけど? これは使用人が許可した者だから、疑わずにいて大丈夫なのか、それとも、何かしらの罠を備えてるから入って来ても、消せるから無問題状態なの?
魔法の類は今のところ、感知されないね。ただ、何となく、植物達の元気がないような気が、する。
兄も同じ事を思ったのか、表情が歪んでいた。ちょ、顔顔顔! 淑女の仮面外れかけてる!!
「……前、来た時と何か違う。空気が淀み過ぎてる」
「そうなの? って、屋敷に来た事あるんだ!?」
「あっ、うん、令嬢に所用でお呼ばれしたからね……、あの時は使用人も皆、笑顔でさ、庭師もいて、薔薇が綺麗に咲いてたんだ。なのに……」
兄と小声で話しながら、違和感の正体に気付いた。ああ、そうか。立派な庭だというのに、花が1つもないんだ。蕾は見えるというのに、開花している花が1つも見当たらない。
花が好きで全て摘み取ったのか、はたまた意図的に切り落とされたのか、さあてどっちなんだろうね?
ガチャリと重厚な鍵の開く音がする。
ハッと顔を上げると、屋敷の玄関に到着していた。
うっわー、でっかーい! ひろーい!
じゃなくて!! 何か、怖くなってきたんだけど!? えっ、大丈夫だよね、無事帰れるんだよねぇ!?
「どうぞ。お入りください」
ギィィィ、と音を立てて開かれる扉。
扉を開いたメイドは此方に視線を向ける。微かに笑みを浮かべると、深々とその頭を下げた。




