厄介な事に巻き込まれたなあ…
人間が多く住む大陸では、能力者とは違ったコミュニティを築いているらしい。
戦の時代が幾度となく繰り返された為、多数あった国はほぼ消滅してしまったが、それぞれの国の自治区がひっそりと生き残り、国の名残を残した幾つかの地区が点在している。
その中の1つ、中央大陸にあるリスエラ地区。
その地区一帯を守り、代々自治区長を治めていたのがロジェワード一族。件の資産家の男、バロス・ロジェワードの故郷である。
バロスはロジェワード家の三男坊で、家督を継ぐ気のなかった兄2人に代わり、全ての事業を継いだ。
その手腕は父親譲りで、自治区の発展を上手く促し、今や人間の住む地域では一番の影響力を持つ地区へと成長させた。あと数十年も経てば、国へと変わるだろうと言われている。バロスによって、人間は漸く争いのない新たな道を歩み始めたのだ。
「これがバロスに対する評価だ。だが、これは表向きの話」
バサリ、と持参した書類を長机に落とし、ウィリアムは椅子に腰掛けた。
「奴には昔からある噂が流れていた。交渉が余りにも上手く行き過ぎる。何かを、仕組みを断れない状況下に置いているんじゃないかとね」
「……単なる噂なのでは? 昔から成功者にはひがんだり、ありもしない噂を流す事よくあるでしょう」
前世でもよく見掛けた光景だからか、今世でもやっぱり、あるものなのか……。
そう思い小さく息を吐き、リィタの入れてくれた紅茶を口にする。お、美味い。流石、リィタ。
「そう。俺も単なる噂だと、最初はまともに受け取りもしなかった。バロスとは何度か仕事もしていたしね。だが、これだけの地域を運営するのに、一度も損失を出していないというのは可笑しくないか?」
「一度も?」
「そう、一度も。何故か、全て黒字で事が済んでいる。と同時に、住民の移動だったり、故人が出たりとそれは賑やかでね。これが、関係ないと言い切れるかな?」
かつての父が自営業してたから、切り盛りする大変さはよく分かっていた。だからこそ、大した損失も出さずに運営出来ている事が、凄いと思う反面怖いとも感じる。紐解いちゃったら、ヤバいやつだろコレ。
机に置かれた膨大な記録は、ほんの一部なんだろうよ。リスエラに根を降ろした人々が生きた証。発展と同時に失われた何かが其処にはある、って事か。
うーん、と思考しながら首を傾げた後、パチリと目を開ければ、意味ありげな笑みを浮かべたウィリアムが視界に入った。
あーあーあー、何かすっごい楽しそうだな。私はこのまま、何も聞かなかった事にして、帰りたいんだけど?
でもなあ、兄が巻き込まれた時点で逃げる選択肢は消えたようなものだからなあ。これはアレか。やるしかないのかね、お手伝い。
「もしかして、黒い商売……、今回は娘の婿探しという名目で、人身売買をやってるんですか、資産家のおっさんは」
「お、鋭いね。俺もそう思う。集められた人間は殆ど故郷に帰れてないし、何よりリスエラに半ば強制移住させられて、家族すら本人に会えていない。手紙のやり取りだけはやれてるらしいが、検閲があるからな。下手なことは書けねえだろうよ」
おっさん、という単語はスルーしてウィリアムはそう淡々と告げる。そこまで聞くと、嫌な匂いしかしなくなるじゃないか。
帰らせられない、若しくは帰る事はできない何かが、ある。というか、会えてないなら、生きていない可能性も高いからね。考えれば考えるほど、最悪な結末ばかりが連想される。
施政者の相棒になった時点で、何かしらの事件に遭遇することは覚悟してたけど、予想以上の厄介事に巻き込まれちゃってないか、コレは。
しかも当の本人は、お昼寝タイムですやすやだしな! うがぁぁぁと不満を口にすれば、ぶえっくしょい! と派手なくしゃみが耳に届く。
あ、起きちゃった、かな?




