理解はしても、納得するのは別の話
オレの名前は萩原満。
平々凡々な、日本各地の何処にでもいる普通の、そう普通の学生だった。
ところが、ある日気持ち良く寝て起きたら、何と何と、可愛い赤子(しかも性別まで変化)へと生まれ変わっていた!
「リティシア、オソウジオワッタヨ!」
「あ、ありがとう。じゃあ、次は庭をお願いできる?」
「ワカッタ! マカセテ!!」
満ーーもとい、リティシアはぴょんぴょんと跳ねて、家を出て行くスライムを笑顔で見送り、その姿が見えなくなると息を吐いた。
この世界で赤子として産まれ落ちてから、12年の月日が経った。
え? 月日が経つのが、早いって?
いやいや、私の体感としては遅い方だった。考えても見てくれ。社会人まで育った記憶を持ち、赤子になってみろ。
羞恥心で死ねるぞ。
知識はあるというのに、身体が自由に動かないから、誰かにやってもらうしかない。上手く気持ちが理解されずに思わず泣き叫んじゃうの、仕方がなかったよね。ああ、介護されてた祖父母も、こういう気持ちだったんだろうな。
特に下の世話がキツい。
できれば成長してから、記憶は欲しかった。下手したら、病みそうになる。人格形成にも、影響しそうな心的外傷事案だ。
でも、我が家は然程、悲惨な事にはならなかった方だと思う。
先程、いたスライムを見て察した奴は凄い。いや、察してくれたら有難いけども。
実を言うと、この家に今は私しかいない。
何ていうのかな、説明するの難しいな……
先ず、私は人間じゃない。エルフっていう、自然と豊かさを司る神族に近い種族。
つまり、長命種で個体数はそこまで多くない。
長命種だからなのか、家族関係が希薄というか、いるのかいないのか分からない両親は、自分の中では既に亡き者扱いしている。兄だけが唯一の肉親、という感覚だ。
赤子だった私の世話をしてくれたのは、兄と兄が編み出したスライムだし、何より世話が的確過ぎて、そこまで嫌がる事が少なかった。
兄は、エスパーなのか?と、思いたくなるほどに感情の読み取りが上手い。
何なのか、エルフ特有の所為なのか、それとも、ただの妹馬鹿なのか。赤子の世話は、完璧過ぎて逆に引いたよね。何、前世は主婦か保育士だったの?
まあ、理解出来る範囲で兄は私にとって、無くてはならない人である。理解出来た時点で、だけどね! 受け入れるの、大変だったんだからな!
大体、何で私が此処にいるのか、未だに分かっていないからな?
転生してる時点で、死んだんだろうなぁって、想像はするけど、それだけだ。
実感がないから、流されるまま生きてってるけども。性別の違和感も数年経てば、微々たるものだしな。
穏やかな気候、空気も料理も美味しいし、不満すらない。スライムも何だかんだで可愛いし、可愛いものは好きだし。そう、不満はないのだが。
「ッ、やっぱり、何故、転生させられたのか、理由だけは知りたぁぁぁい!!!!」
今までの不満を爆発させるような大声を、頭上に向けて叫ぶ。
思った通り、何の反応もない。そりゃあ、そうだよなあと、その場から離れようとした時、バサリ、と目の前に落とされた紙切れ。
目を瞬かせた後、紙切れと頭上を見比べる。
屋根に穴が開いた訳でもない。一体、何処から落ちてきたんだ、コレ。不思議そうに、首を緩く傾けながらその紙切れに目を移すと、今や懐かしい日本語の文字が並んでいた。
そこには
【手違いで殺しちゃった☆戻せないから、転生ライフ楽しんでねぇ!】
可愛いは正義だと思う神様より
「軽いッ!!!!」
ちゃんと1から説明しろよ!と思う反面、この神様とはまともに話したら疲れる未来が見えたので、このやり取りである意味良かったのかもと思った。




