衝撃的すぎて、何て言ったらいいか分からない
当たり前だった風景が当たり前ではなかった。つまり、満が見てたのは上辺だけの両親の姿だったのか。
満と違い、小牧が見てたのが、根深く、簡単には排除出来ない両親の暗い部分なんだろうな。
「……因みに酷くなったキッカケとか、あんの?」
「んー、我慢が限界に達した所為だと思うけど……、まあ、一番はアレかな」
兄は遠い目をして、記憶の糸を手繰り寄せがら、口を開く。
「小牧はさ、しょっちゅう、母さんから愚痴を聞かされてたんだよね。私が中学の時だったかなあ……、父さんさ、お金を盗まれて支払い金が払えずに誤魔化し続けてたんだよね」
知ってる?と首を傾げて尋ねてくる兄に、思わず首を激しく横に振った。
「はっ? 何だそれ、どういう事だよ」
「どうもこうも、父さんね、業者さんに払う筈のお金を車に置いてて、それを盗まれたらしいの。で、その事を父さんずーっと隠してて。でもさ、暫くしたら、家に請求書とか届くじゃない? それを見せて聞くも大丈夫大丈夫しか言わなかったらしくて」
言葉を切った兄から溜息が漏れる。まだ話の前半部分しか聞いていないが、気持ちはよく分かる。これは疲労度が凄い。いや、それよりも凄く嫌な予感がする。
あの仕事には真面目だけど、楽観主義の父の事だ。とんでもない事を言い放ったのではないか、と。
「電話も手紙も沢山きてさ、もうどうしようもなくなったんだろうね。3年経ってから漸く母にもう時効になるから言うばってんさあって暴露したらしいんだよね。……時効ってなんだよ! まだ解決してすらいないよ、ほんとばか!!!!」
叫ぶように吐き捨てた兄とは対照的に私はがくりと項垂れた。
ああ、これは母さんはキレる。いや、キレていい。満も許す。否、誰が聞いてもキレて怒鳴る案件だろう。
支払う金を支払ってねえのに、時効も何もあるかよ。ほんと馬鹿じゃねえの、親父。
「……もしかして、母さんが、」
「ご明察。母さんが会社に出向いて保証人として、代わりに必ず払いますって約束して、分割で支払っていったのよ。だから、暫く質素な生活が続いたのよねー。母さんも隠すの上手かったからさ、高校から寮生活だったお兄ちゃんが、気付かないのも無理ないと思う」
学費の事、生活費の事、色々支払わなきゃいけないものの中に、突如湧いた大金の借金。しかも、当の本人はへらへらと笑っているのだから、母の苦労は相当なものだっただろう。
ああ、今直ぐ会えるものなら母をめっちゃ労いたい。
「その後の親父は? 反省したの?」
「母さんから怒鳴られて、かなり青褪めてたらしいよ。小牧が塾に行ってる時に揉めてたっぽい。その日はしょんぼりしてたそうだけど、直ぐにへらへらしてたから、芯から反省してるかどうかは分からないわね」
「……自己中な考えしてる人だからなぁ、親父は」
そういえば、兄の話を聞いて思ったが、私の記憶に随分と抜けた部分がある事に気付いた。別に障害とかそういうのではなくて、単に本当に忘れてしまっていたという些細なもの。
前世の両親、やたらと喧嘩が多かったなあ、と今更ながら思い出してきた。
記憶が美化されていたのか、友人達との話でごちゃ混ぜになっていたのか。
原因はよく分からないんだけども。
そうだ、小牧が来るまではほんとに騒がしく、母もしょっちゅう家出をしていたのを思い出した。母と2人でホテルに泊まったり、夜のドライブに行こうと連れ出された事もあったっけ。
すっかり忘れていたなぁ、とぼやいて私はゆっくりと目を閉じた。




