第2話 異世界:召喚:余剰
眩しさのあまり、携太は目を瞑るだけでは足りず、手で顔を覆い、さらには身体ごと伏せた。
今まで経験したことのないほど、強烈な光だった。
しばらく続いた光が、徐々に弱まっていく。
先ほどまで感じていた温かくクッション性のあるベッドの感触は消え失せ、代わりに冷たく硬い感触が手や足に伝わってくる。
光が完全に消えた後、携太はゆっくりと目を開けた。まだ視界が白く霞んでいる。
最初に気づいたのは、自分が石の床に突っ伏していることだった。
「え……?」
視力が戻るまで、しばらく時間がかかった。目が慣れてくると、携太は自分が信じられない場所にいることに気づく。
疲れていることなど忘れたかのように、俊敏に上体を起こした。周囲を見回す。
高い天井、分厚い石造りの壁、豪華なシャンデリア。左右の壁際には、西洋風の甲冑を装備した兵士が数人ずつ、整然と並んで立っている。
そして正面には——玉座。
金と宝石で装飾された玉座に、いかにも王らしい豪奢な衣装を纏った初老の男性が座っていた。その両脇には、側近らしき人物が一人ずつ控えている。
視線を下に落とすと、自分の周囲に紫色に光る大きな魔法陣が浮かび上がっているのが見えた。
(おいおいおいおい……異世界転移か? 死んでは……ないはずだもんなぁ)
異世界転移の漫画を読み慣れている携太は、今の格好が自分の寝巻きのままであることと、床の冷たい感触から、これが夢でも死後の世界でもなく、転移であることを察した。
思いのほか、すんなりと。
(それにしても、何も言われないな……)
「あのぉ〜」
質問しようとした、その瞬間だった。
携太の周囲に、四つの人影が突如として現れた。足元の魔法陣が一瞬強く光り、紫色の光が弾けたかと思うと——そこには四人の人間がいた。
あまりの驚きに、携太は声にならない悲鳴を上げ、後ろにのけぞった。
(な、何!? いきなり人が……!?)
息を整えてから、四人を観察する。
まず、携太の右後方。坐禅を組み、目を閉じた男性。ボロボロに見えるその服は、忍者そのものの格好だった。目元以外は布で覆われており、年齢は分からない。背中には一本の刀が背負われている。
次に、左後方。重厚な鎧を纏った若い女性。顔の部分だけが露出しており、二十代前半くらいだろうか。堂々とした仁王立ちで玉座を見据えている。体の前には、女性が片手で持てるとは思えないほどの大剣が、地面に突き刺すように立てられていた。
右前方には、少年。丸い眼鏡をかけ、ローブを着ている。某魔法学校の主人公を彷彿とさせる風貌だ。右手には白い骨のような素材でできた長い杖を持ち、玉座に向かって構えている。
そして左前方。白い生地に黄色の装飾が施された聖職者風の服を着た少女。大きな教本のような書物を左手に開いて持ち、右手のひらをその上に置いている。彼女もまた、玉座の方を向いて構えていた。
携太は、自分のような凡人とは違う、他の四人が放つ超人的な雰囲気に圧倒された。
(やべぇ……めちゃくちゃアウェイ感)
玉座の方では、王と側近たちがコソコソと何か話し合っている。
やがて会話が終わったのか、左側の側近が一歩前に出て、声を張り上げた。
「まずは落ち着いていただきたい。我々はそなたたちに危害を加えるつもりは一切ない」
側近の声は威厳があり、よく通る。
「そなたたちには申し訳ないが、我らの都合で召喚をさせてもらった。本来ならば四名を想定しておったのだが……」
そこで言葉を切り、側近は携太の方を一瞥した。
「……一名多く召喚してしまったようだ」
(はい、絶対俺!!)
携太は心の中で確信した。
「召喚時のステータス初期値とスキルを拝見させていただいた」
側近が五人をゆっくりと見回す。その目は、何かを見透かすような鋭さがあった。
「中央のそなた——」
側近の視線が、完全に携太に向けられた。
「——どうやら、予期せぬ形で召喚されてしまった者のようだ」
(だよねぇ……)
携太は内心で苦笑した。
「これより、残る四名の勇者となりうる者たちと重要な話がある。故に、そなたには先に退出していただきたい」
側近が右手を軽く上げると、右側の側近が壁際に立つ一人の兵士に何かを耳打ちした。
その兵士が一歩前に出る。
「我が国の都合で召喚したことは紛れもない事実。それなりの対応はさせていただく。その兵士が案内するゆえ、ついていくように」
携太は、この場の重苦しい雰囲気に耐えられそうになかった。すぐに退出できることに、少しホッとする。
指名された兵士が、声をかけることなく携太の方を向いて軽く頷いた。
携太は立ち上がり、その兵士の後についていくことにした。
玉座の間を後にする直前、携太はちらりと振り返った。
残された四人の勇者たちは、すでに王と側近たちと話を始めている。
(俺には関係ない世界だな……)
携太は扉をくぐり、広間を後にした。




