37:つい手が・・・じゃないのよ
白夜が始まった。
ここでの白夜は2週間と少し長いようだ。
違ったよ、もっと北の方だと1ヶ月もあるんだそうな。うへぇ・・・
白夜が終われば冬が始まる。
だからこの国では白夜の間に各地で感謝祭(収穫祭)が行われているらしい。
しかも少しずつ日をずらしているそうだ。
何故だろうと聞いてみれば、国王様が参加してくれるからなのだとか。
へぇ、国王様が各地の感謝祭に参加するんだ。
随分とフットワークの軽い魔王様だね。
この町では3日後に感謝祭を行うと言うので私もなにか振舞料理を作ろうと思う。
味噌があれば豚汁が作れたけど無いので残念だ。
私の中では大人数で集まる時は豚汁というイメージがあるのよね。
小学校とか中学校のマラソン大会とか幼稚園での餅つき大会とかさ、作らなかった?
さて、何を作ろうと思いながらお店を見て廻る。
まずはライカンスロープさんの・・・この町だとライカンスロープやウェアウルフも数人いるので名前を聞いておく方が良さそうだ。
食料品店へとやって来て早速名前を尋ねてみる。(今更感・・・)
ライカンスロープさんはロボさんと言うのだそうだ。
町長であるお姉さんはブランカさん。
なんだろう、どこかで聞いた事があるような・・・
どこだっけ? あぁ、シートン動物記だ!
思い出してスッキリした。さぁ次のお店へ行こう。
「おいおいリュン。買い物はいいのか?」
「ハッ、そうだった」
しっかりして私。本来の目的である買い物しないでどうするの!
スパイスを見ながら思う。やっぱりカレー作りたいなぁ。
大人数ならカレー、いいと思うのよね。
お米が無いならナンを作ってもいい訳だし。
あ、ちょっと手間だけどカレーパンにしたらどうだろう。
手に持って食べれるし、子供でも食べれる辛さだし・・・って子供は私しか居ないじゃん!
よし、そうしよう。カレーパンにしよう。
それとは別に自宅用のカレーも作ろうかな。フフフ、テンション上がってきたー!
と言う事で大量にスパイスを購入した。
その他にも人参玉葱じゃが芋も大量購入したので、何を作るのか聞かれたけど感謝祭でのお楽しみとだけ言っておいた。
お肉は家にたっぷりとあるからね。
家に帰ってさっそく仕込み始める。
レオノラ母さんも手伝ってくれると言ったので一緒に野菜を切っていく。
まずは玉葱から・・・
2人してポロポロ泣きながら切っているものだからオンス父さんとニクス兄さんが慌てていたけど、2人共台所に来た瞬間泣き出してしまった。
だから来るなと言ったのに・・・
山の様になった玉葱をペチカで炒めながら今度は人参とじゃが芋を切っていく。
玉葱が飴色になったら人参とじゃが芋、そして私は林檎も少し入れる。
林檎は摩り下ろしておく方がいいと思う。
レオノラ母さんがやりたがっていたけど、手まで摩り下ろしそうだったので私がやった。
次にフライパンで肉を炒めていく。
今回はカレーパンにするので小さ目の角切りにする。
使う肉はイッカクのバラ肉とトナカイの腿肉だ。
強火で表面をコンガリ焼いたら鍋へIN。
ローリエや大蒜、生姜などの下味用スパイスも放り込んで煮ていけばOK。
仕上げのスパイスは完成直前に入れる。そうしないと香りが飛んでしまうからね。
下味だけでも、なんとなくカレーっぽい匂いにはなっているので皆興味津々だ。
「リュン、これが以前言っていたカレーか」
「そうだよ、まだ完成じゃないから色とかも薄いけど。
あ、完成した時の色に驚かないでね?」
「そんな奇抜な色なのか?」
「奇抜ではないけど、何と言うか地味と言うか・・・」
「ふむ、よく解らぬが楽しみにしておこう」
ニクス兄さんがつまみ食いしないように気を付けておかないとだね・・・
そうして煮込む事丸一日、いい感じになって来たので仕上げ用のスパイスと摩り下ろしたじゃが芋を投入する。
摩り下ろしたじゃが芋を入れる事でとろみがつくのでカレーパンにするときはいいのよね。
後は翌日、感謝祭当日まで火から下ろして寝かせておけばいい。
感謝祭当日、私は朝から大忙しだ。
レオノラさんにカレーパンの包み方を教えてせっせとパン生地に包んで行く。
以前のピロシキの大きさを思い出し、私にしては大き目サイズで作って行った。
油で揚げるのは会場となる広場でやった方がいいと思うから、とにかく包みまくる。
あまりの量の多さにルナーさんも手伝ってくれた。
ニクス兄さんも手伝うと言ってくれたけど、つまみ食いしそうだったので会場での設営を頼んだ。
だって前科があるのよね。
オンス父さんの手も伸びて来たのでペシリとはたいてニクス兄さんを手伝いに行って貰った。
まったく油断も隙もあったもんじゃぁない。
ひょいっ ペシッ
「だぁーかぁーらぁー!揚げる前に食べるんじゃありませんっ!」
あれ? オンス父さんとニクス兄さんは会場へと追い出した(言い方・・・)
レオノラ母さんとルナーさんはカレーパンを包んでいる。
じゃぁこの手は誰?・・・
「いたたた、匂いに誘われてつい手が・・・」
まさかこの声は・・・
つい、手が・・・じゃないのよ!
「アリェーニャ様?! 何してんですか!うかつに人前に姿現さないでもろて!」
「えぇー、感謝祭は私達もコッソリ紛れ込んでいるので大丈夫ですよぉ」
「全然コッソリじゃないでしょう!」
「アリェーニャ様? ウソ・・・」バタンッ
レオノラ母さんが失神してしまったじゃないよ!
「アリェーニャ様? この忙しい時に何してくれてるんですかね?
母さんが失神したら人手が足りないじゃないですか?
どう責任を? 勿論手伝って下さいますよね? ね? ねー?」
「うっ・・・では神の御業を使って」
「却下! こんなので神力使わないでもろて!
はい、こうやって生地広げてここにカレー乗せてこうやって包む!
そうそう、上手い上手い。どんどん作っていこうー!」
という訳で失神したレオノラ母さんの代わりにアリェーニャ様に手伝って貰った。
まさか神様の手包みだなんて誰も思わないでしょうね、ハッハッハッ・・・
作業をしながらアリェーニャ様は、ちゃんと感謝祭には魔族や獣人族に仮装して紛れ込んでいるからと言い訳をしていた。
カレーの匂いに釣られてついフラッと現れてしまったのだとも言っていた。
お振舞とは別にちゃんとお供えするからつまみ食いはしない様にと言い聞かせておく。
喜んだアリェーニャ様の作業スピードが上がったのは気のせいではないと思う。
全部を包み終わった時にはちょうどお昼前だった。
急いで広場に持って行って揚げ始めないとだ。
クィーン、ノワール、カムイがせっせと運んでくれた。
食べたそうにしているけど、カレーはどうなんだろう。刺激が強いんじゃなかろうか。
え? たぶん大丈夫? たぶんって・・・本当に大丈夫なのかな?
うーん、じゃぁ1つだけね?
揚げたてをお皿に置いてやればハフハフ言いながら食い付いていた。
(なにこれ!魔法の食べ物じゃない!)
(この香りが食欲そそって何個でも食べれそう!)
(僕ももっと食べたい!)
喜んでくれるのは嬉しいけどね?
まずは1個で様子みようか。ほら、お腹下すかもしれないし?
大丈夫だったらまた今度作ってあげるから、ね?
((( えー )))
えー、じゃないのよ。体に合わなかったりして体調崩したら大変でしょう?
なんとか説得して我慢してもらった。
町の人達にも大好評で、皆スパイスの刺激とカレーの色に驚いてはいたけど喜んでもらえた。
ちゃんとその中にアリェーニャ様も居たけどどこが仮装していると言うんだか・・・
元々鹿の角があるから違和感がないと言えば無いけども。
誰も気にしていないから私も気にしないでおこうかな。
国王様にも挨拶する事が出来た。
いかにも THE魔王 という感じの姿だったけど見目麗しく気さくな国王様だった。
カレーパンも部下に食べさせたいから持ち帰りは可能か聞かれたので今日中に食べるのであればと断った上で持ち帰って貰う事にした。
翌日でも食べれるけど、動物性の脂で揚げているから脂が回ってしまうと胃がもたれるからね。
カレーパンはあっという間に無くなってしまったので、私達も他のお振舞を見て廻る事にした。
肉や魚の串焼きや焼き菓子、ドライフルーツなんかもあった。
こうやって見ているとクリスマスマーケットみたいだなと思う。
「クリスマスマーケットとはなんぞ?」
魔王様、じゃない国王様に聞かれてしまった。
しまった、また言葉に出てたかぁ・・・
誤魔化しようも無いので、この感謝祭と似たようなもので神様の誕生日を祝う催し物ですと答えておいた。
正確な意味合い正直知らないけど、一説によればソーセージのプロモーション販売が発祥元らしい。
他の説だと寒い冬を楽しんで乗り切る為に始まったとも言われている。
何にせよ皆で楽しめる催し物は多くてもいいと思うのよね。
「ふむ、神様の誕生日を祝うのか。
確かアリェーニャ様の誕生日は・・・」
「1月7日」 ボソッ
ちょ、アリェーニャ様、ボソッと答えないでもろて・・・
「そうだそうだ、1月7日であったな。
真冬ではあるが、天候次第でそのクリスマスマーケットとやらをやってみようか」
「あ、あのですね。
その言い方だとちょっと難がありまして。
ヴァイナハツ・マルクトとか別の言い方にしませんか?」
「ヴァイナハツ・マルクトとはどういった意味合いなのだろうか」
「ヴァイナハツが聖なる夜、マルクトが市場と言った意味になります」
「なるほど、聖なる夜の市場か。ならばそれにしよう」
まずはこの町で試してみる事になったのだけど、皆とても盛り上がって計画を立てていた。
読んで下さりありがとうございます。




