33:なにするのよ
翌朝、気分を切り替えなければと思いつつもなかなかそうもいかなくて。
つい薪割に力が入ってしまい、割れた薪がスコンッと飛び跳ねてしまった。
ゴツンッ 「いったぁーい!」
声が聞こえて慌てて振り向けば、そこにはルナーさんが顎をさすりながら立っていた。
「ルナーさん! どうしてここに?!
いやそうではなくて、顎大丈夫?」
どうやら不運にも飛び跳ねた薪がルナーさんに当たってしまったようだった。
「やぁリュン。元気そうで何よりだよ」 イタタタッ
「ごめんなさい、痛いよね。中に入って冷やしたほうがよさそう・・・」
ルナーさんを連れて家の玄関扉を開ければ、外に出ようとしたニクス兄さんと鉢合わせてしまった。
ゴンッと鈍い音が聞こえてルナーさんはオデコを押えて蹲ってしまった。
まさに弱り目に祟り目・・・
「だ、大丈夫ですか?」
「くぅ・・・」
「ルナーか、どうした?」
「どうしたじゃなくて兄さんとぶつかったのよ。
しかもその前に薪にもぶつかっていてね・・・」
「薪に? 何故薪にぶつかる」
「話は後にして貰って、僕を中に入れて貰えるかな?・・・」
「あ、ごめんね」
そうだよ、玄関で立ち話している場合じゃなかった。ルナーさんの手当しなきゃ。
ソファに座って貰い、急いで濡らしたタオルを用意し患部を冷やす。
しばらくするとルナーさんは落ち着いたようだった。
「それでルナーは何故こんなところまでやって来たんだ?
よく俺達の居場所が分かったな」
「それなんだけどね」
そう言ってルナーさんはポケットから数通の手紙を取り出した。
手紙はバパールおじさん、オンス父さん、レオノラ母さんからだった。
それとは別に煌びやかな封筒が目に入るが嫌な予感しかしない。
「この見たく無い封筒はニクス兄さん宛てだね・・・」
「燃やしてもいいか」
「燃やしてもいいけど、見るだけ見てみれば?」
と言う事で嫌な物から見てみる事になった。
煌びやかな封筒は国のお偉いさんからで、簡単に言えばニクス兄さんに騎士として復帰して欲しいと書いてあった。
復帰して欲しいと言いつつも復帰しろと言う風にとれて嫌な感じがする。
バパールおじさんからは、どうやら国がユマンとの同盟を結ぶらしくこの国に移り住む人族が増えているから他国へと逃げる様にと書いてあった。
オンス父さんからは近いうちにレオノラ母さんとそちらへ向かうと書いてあった。
レオノラ母さんからはお土産を沢山持って行くから楽しみにしていてねと書いてある。
えーっと、どういう事かな?
ユマンと同盟? 移り住んでくる人族が増えている?
いやいや、何故に同盟を組む必要があるのかな。
そもそも人族だとここの環境は厳しいんじゃないのかな?
そしてオンス父さんとレオノラ母さんがこっちに向かうと言うのは遊びにくるのかな?
それとも移住してくると言う事なのかな・・・
もぉ訳が解らない。
なんで次から次へと面倒臭い事象が起こるかな・・・
「僕も詳しくは解らないんだけどね。
将軍が気を利かせて僕に手紙を届けるよう仕向けてくれたんだ。
あ、ちなみに僕は手紙を届ける途中で事故死した事になってるから」
ぶはっ、ちょっと待って事故死って・・・
「そうすればニクスの元に手紙が届かなくても仕方がないよねぇ。
これ、将軍の案だからね?」
しょうぐーんっ!アンタ何やってんすかね?会った事もないけれど!
将軍というくらいだから上層部でしょうがよ。
それが国の手紙届かなくさせるっていいんですかね?
「リュン、落ち着いてくれ。
将軍はな、俺が現役時代に凄く世話になった兄貴分の様な人なんだ。
きっと俺の事を心配してくれたのだろう」
「だからってルナーさん事故死にしたら、ルナーさんが王都に戻れなくなるし
家族にも会えなくなるじゃないよ・・・」
「リュン、怒ってくれるのは嬉しいけどね。
僕は孤児だから家族は居ない。里親もすでに他界している。
それにどのみち退役する事になってたからね」
「え?だってまだ若いから退役するような年齢ではないよね?」
ルナーさんがチラリとズボンを捲って見せてくれた左足は義足になっていた。
日本にあるような義足ではなくて、木で出来た動きづらそうな義足だ・・・
どうしたのと聞けば、例の捜索活動の最中にアングリーベアに襲われた人族の騎士をかばって失ったのだそうだ・・・
かばわなくてもよかったのにと思ってしまった。
私にとってはハタ迷惑な見知らぬ人族の騎士よりもルナーさんの方が大事だもの。
「キヨカの遺骨を見つけた後でよかったよ。
お陰で捜索隊は早々に切り上げる事が出来たし
捜索に加わっていた人族の騎士達が口を揃えてこれ以上の捜索は必要無しと
上層部へ報告してくれたからね」
「いやいや、それでもさ・・・」
「人族の騎士が怪我をしていたら国同士の問題にもなっただろうし
もっと面倒臭い事にもなっていたかもしれないじゃないか。
それにこれからはニクスやリュンと一緒に居られるようにもなったから
僕としては悪くないと思っているんだけどなぁ」
そう言って笑うルナーさんだけど、私はなんだか複雑な気持ちになってしまった。
私が死んだ事にしようなんて言い出さなければ・・・
素直にユマンへ行っていればルナーさんは足を失う事は無かったんじゃなかろうか。
そうだよ、今からでも遅くないんじゃ?
聖女になれば治癒魔法が使えるんだよね? ルナーさんの足も元に戻せるんじゃないのかな。
あのバカップルの思惑通りになるのは癪に障るけど、ルナーさんの足が戻るなら・・・
ゴンッ
「いったぁー! なにするのよルナーさん」
「馬鹿な事考えるんじゃない。
僕の足が元に戻ったってリュンが居なくなるなら嬉しくはない。
僕は自分の足を見る度にずっとリュンを思い出して悔やむだろうね。
それにバパールさんやオンスさん、レオノラさん達だって悲しむと思うよ」
「え? あれ? もしかしてもしかしなくても?」
「ああ。全部声に出ていたな」
「がぁーん・・・」
なんで声に出したかな私よぉ・・・
「兎に角馬鹿な考えは止めてよね」
ルナーさんに念を押されてしまった。
そして同盟についても話を聞かせてくれた。
この大陸にも魔物は居るけどユマンほどではなく、瘴気も溢れてはいない。
ならばここに住めばいいのではないかと言い出したらしい。
しかも言い出したのが人族側からではなくこの国の国王が言い出したってバカじゃないの!
人族が持ち込んだ魔道具に興味津々って・・・阿呆かぁぁ!
それで? その魔道具があればこの寒さでも人族が暮らせるって?
いやいやいや、無くてもなんとかなるって。その気があればだけどさ。
郷に入っては郷に従え、移り住むならその土地に合わせた暮らしをさせないさいよ!
もぉやだ、この国の国王・・・
ただ少し救いなのは(ほんの少しだけども)人族の中にも自然が好きだからとこの国の生活に合わせた暮らしを希望する人が居るらしい。
うーん・・・
キヨカの遺骨が発見されたならさすがにバカップルも諦めると思うのよね。
だったら別の国へと移住する必要も無いと思うんだけどなぁ。
「バパールさんはね。
このままずっとリュンが気を張って生きていく事になるんじゃないかと
心配していたよ。
もっとのびのびと暮らしたいんじゃないかって」
「確かに人族が移り住んでいるなら今まで通り気を付ける事は多いけどさ。
そこまで気を張る事もないんじゃないのかなぁ」
「ブルーベリーゼリー」
「ギクッ」
「悪質な風邪の対処法」
「ギクギクッ」
「薬草の知識」
「えぇぇ、それもなの?!」
「マシュ〇ロマン」
「ぐはっ・・・多すぎるじゃないよ」
「僕、バパールさんの心配する気持ちが解かった気がするよ。
そしてマシュ〇ロマンって何?」
ニクス兄さんの説明を聞いてルナーさんは涙目になって笑っていた。
私はニクス兄さんに指摘されて気が付いた。
いくら普段から気を付けていても緊急事態が起こればつい手も口も出してしまう。
そしてふとした時に元の世界の言葉が出てしまう。
それらを気にして四六時中生活するとなれば・・・
無理だ、耐えられないと思う。
気力も覇気も無くしてどんよりしていく自分の姿がありありと浮かんだ。
「心配しなくてもバパールさん達も移住すると言っていたよ。
なんならここの町長もじゃないかな、魔族の人達も撤退するみたいだし。
その内ここにも人族の騎士が警備隊に派遣されてくるんじゃないかなぁ」
どうやら人族と魔族は折り合いが悪いらしく、この町の魔族の人達は皆帰国する事を考えているようだ。
これは一度町へ行ってパパスさんや町の人に話を聞いた方がよさそうだ。
リックス兄さんにも相談しないとだね。
読んで下さりありがとうございます。




