第21話 すまん虎嶺……
「まったく。結局、ごちゃごちゃやっていたせいで、もう昼休みが終わっちゃうじゃないか」
男子専用ルームから出ながら、俺は晴飛と虎嶺に文句を言う。
「1組男子様が俺に突っかかってくるからだ。名家の俺に対し何たる不敬だ」
「寝室くんの方が、ムキになって自分の方が知己くんと仲が良いアピールするからでしょ」
「ムキになっているのはそっちだろ」
「その言葉、そっくり返すよ」
「2人共、仲良くなったようで何よりだよ」
「「どこが!」」
ほら、息ぴったり。
まったく。
どっちが俺と仲が良いかでケンカするなんて、小学生男子かよ。
とは言え、この男女比1:99の世界の男子なんて存在自体が特別で、自分こそが世界の中心だと思って育ってる奴が大半だろうからな。
1組男子で主人公器質の晴飛と、前世はアラサーリーマンとしての経験値有りの俺の組み合わせだったからこそ上手く行っていた訳で、男同士のコミュニケーションなんて、こんな物なのかも。
(キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン♪)
「あ~、もう。昼休み終わっちまったじゃないか。とっとと教室に戻らないと」
多々良浜さん達、心配してるかもな。
「大丈夫だよ。さっき、お迎えを呼んでおいたから」
そう言って、晴飛がスマホを片手にニヤリと笑う。
はて?
江奈さんでも呼んだのかな?
でも、江奈さんを呼ぶとまたもや、かぐや姫も一緒について来そうだし。
多々良浜さんを呼んだのかな?
でも、晴飛は多々良浜さんの連絡先なんて知ってたかな?
「お待たせしました橘様。ブタが参上いたしました」
「って、うわ! 荒崎さん⁉ なんで……」
意外にもこの場に来たのは、3組学級委員長の荒崎さんだった。
「はい。あやみから、ヘルプの連絡がありまして」
息を切らしながら、
ああ、成程。
晴飛が江奈さんに連絡を取って、江奈さんの親友の荒崎さんに迎えに来てもらうように伝言してくれたのか。
ストレス性の胃痛でひどい目に合っている江奈さんを慮っての事だな。
「麻衣お嬢様。こちら、水です」
「ありがとう凪さん」
「って、渚橋さんもいるし!」
荒崎さんの後ろには、シレッと残念お姉さん傭兵の渚橋さんの姿もあった。
「彼女には、学内の護衛役として今日から来ていただいています。ハニ学側には既に許可をいただいています」
「小職は渚橋凪と申します。どうぞ皆さま以後、お見知りおきを」
いかにも護衛よろしく、地味なパンツスーツにブラウスという出で立ちでビシッと決めている渚橋さんは、見た目だけなら、めっちゃシゴデキお姉さんな第一印象を与え。
「特技は軍隊格闘と肉壁です! 打撃系の攻撃は腹部を所望します! 頑張ります!」
前言撤回。
ダメだ、このドM傭兵……。
護衛なんだから、そもそも攻撃を受けないように頑張れよ!
「では、観音崎様と寝室様の教室への帰還までの護衛は小職が務めます」
「ん? 俺は?」
別に護衛自体は必要ないんだけど、何で俺だけ別なんだろ?
「橘様の護衛は私が務めます」
「え、荒崎さんが?」
「はい。ブタが橘様の隣を歩くことをお許しください」
そう言って、荒崎さんが俺に腕を絡ませてくる。
「え……」
驚きの声が俺……ではなく、虎嶺の方から上がる。
──あ、このシチュエーション……。まずい……。
「な、な……なんで橘と麻衣が……」
「あら? 寝室君はまだ聞いていないのですか?」
ワナワナと震える虎嶺に、心底不思議そうなキョトン顔の荒崎さん。
──これ以上いけない!
と思って2人の間に割って入ろうとするが。
「ちょ、晴飛。なんで止める⁉」
「知己くん、ダメだよ。今避けても、いずれは向き合わなきゃいけない事なんだから」
フルフルと首を横に振る晴飛に、腕を掴まれて止められてしまう。
「寝室……くん……? 麻衣、お前……」
「お母様から聞いていないのかもしれませんが、貴方との婚約の話は無しになりましたので」
「え……⁉ あ……」
「私の精神は既に、荒崎家令嬢ではなく橘様のブタなのです」
いや、そんなもんに任命した記憶は俺には無いのだが……。
「俺は婚約者で……小さい頃から一緒で……」
「ああ。1年3組の学級委員長の間は、一応、クラスの男子としての最低限の事務的なやり取りはしましょう。護衛については、渚橋さんを手配してますから安心してください」
そこには怒りも、ザマァという感情すらなく、ひたすらに事務的に最小限な言葉だけ発する荒崎さんの姿があった。
これ、一番怖い奴だ……。
女性の同僚が、無能窓際社員に向ける時の最も残酷な態度だ……。
「そ……そんな一方的に! 待て麻衣! 話を……グッ!」
「お引き取りを寝室の坊ちゃん。分かるでしょう? 麻衣お嬢様は既に、貴方は視界に入れておりません」
荒崎さんを引き留めようと手を伸ばした虎嶺の腕を、護衛の渚橋さんが掴み窘める。
「貴様、護衛の分際で! 男の俺に!」
「寝室家には3年勤めたんですがね……。やはり貴方は私の顔も名前も憶えてはいらっしゃらないようですね……」
少し悲しそうな顔で、渚橋さんは敢えてノーガードで、腕を離せとばかりに繰り出される虎嶺のパンチを受ける。
無論、腹部で。
「はぁ……。麻衣お嬢様が貴方の事を忘れてしまうのも頷けますね。だって全然、女の下腹部の大事な所を刺激しないんですもの。橘様の一撃と比べたら退屈で欠伸が出ます。ふわぁ~」
うわぁ……。
女の人が腹部を男に殴られているのを見たら、本来は『まぁまぁまぁ』とか言って間に割り込んで助けなきゃいけないんだけど、全然助けようという気が起きないぞ……。
いや、虎嶺の腰の入ってないパンチなら渚橋さんの腹筋が負ける訳無いって分かってるからだけどさ……。
この場合、殴ってる虎嶺の方が哀れで……。
「あ……あ……うわぁぁぁああああ!」
こうして、男の尊厳をボロボロにされた虎嶺の慟哭が廊下に響き渡った。
そして、それを心底つまらない物を見るような目で見下す荒崎さんと渚橋さんを見て、男女比1:99の貞操逆転世界でも、女の人ってやっぱりおっかないなと思うのであった。
「よし。これで、寝室君は再起不能。またしばらく知己くんはボクのものだ」
いや、前言は訂正する必要があるな。
主人公様も怒らせると、おっかない。
陰で目立たずガッツポーズをしている晴飛が見えたが、俺は見て見ぬふりをした。
すまん虎嶺……。
友情を育んだ後のNTR。虎嶺くんの明日はどっちだ?
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