第17話 俺も一緒に行く!
「では、江奈さんをお願いします」
養護教諭に頭を下げて、俺は保健室から出た。
なお養護教諭から『最近は橘君のおかげで保健室は繁盛してるわ』と苦笑と共に苦情をもらったのはご愛敬だ。
「あ、やっと出てきた」
「今、授業中の時間だぞ。なんで、こんな所にいるんだよ、かぐや姫」
廊下の壁際で退屈そうにしゃがんでいたかぐや姫が、立ち上がる。
「別にいいでしょ。私は特別なの」
「そんなサボってると、1組から降格になっちまうぞ」
「その心配はないわ。この学校だって、他の子と違って私は推薦で入ってるし」
そういやそんな設定だったな。
やんごとなき家の出身の子が多いこのハニ学の中でも、更なる上澄みなんだよな。これでも。
そういえばこの間、真名瀬学園長からも気にかけてやってくれって言ってたし。
学園長に働きかけられるって、相当だよな。
「そうか。じゃあ、2組に落ちてきて俺と同じクラスになることは無いな。安心した」
「ええ、そうよ。残念だったわね橘」
俺、安心したって言ったんだけどな……。
相変わらず日本語が通じない時があるな、かぐや姫は。
まぁ、名前の通り月から来てるから日本語は苦手なんだろう。
「って、あれ? あそこにいるのは……」
2組の教室に帰ろうと廊下を歩いていて、ふと窓の外にお久しぶりな顔が見えた。
「何あれ? 男子が授業時間中に一人で校内の中庭で何してるのかしら?」
「さぁ? ちょっと聞いてみるか」
気になった俺は、教室に戻るのではなく、中庭の方へ向かった。
◇◇◇◆◇◇◇
「よっ! 3組の虎嶺くんじゃん。久しぶり」
「っ⁉ 橘……」
所在なさげに、学園の中庭のベンチに座ってボーッとしていた所に声を掛けると、1年3組男子の寝室虎嶺はギョッとした顔をした。
授業中の時間だから、他人に声を掛けられるのは予想外だったのだろう。
なお、かぐや姫は『3組ごときの男子なんて興味ない』という、かぐや姫様ぶりを見せて1組の教室へ帰っているので、俺一人だ。
「学校には通えてるんだな」
「学園からペナルティで呼び出されているからな……」
「へぇ。何か校則違反でもしたのか? 買い食いがバレたとか」
「分かってて言ってるだろ貴様……」
虎嶺が苦い顔をする。
はて?
軽くからかったら、また殴りかかりでもしてくるかと思ってたが、虎嶺に覇気がない。
「そんな、クラス入替え戦への欠席のペナルティって重いのか?」
先日の1年2組と3組のクラス入替え戦で、虎嶺は欠席をした。
寝室家が、橘家というヤベェ家に喧嘩を売ってしまったせいで、どったんばったん大騒ぎになり、虎嶺は家でこってり絞られていた模様。
虎嶺をクラス入替え戦で欠席させたのはきっと、寝室家側が、表立って俺と対決の状態になるのを避けるのが目的だったのだろう。
「ああ。クラス入替え戦についてだけは、寝室の家の権勢を用いてもハニ学側が首を縦に振らなくてな……」
「で、イヤイヤだけど学校には来なきゃいけないと」
ハニ学において、クラス入替え戦はまさに生命線だ。
クラス入替え戦というチャンスがあるからこそ、女子生徒たちは本気で努力し、切磋琢磨し、それが輩出される生徒の質の高さに直結する。
故に、クラス入替え戦において例外を認めて軸をブレさせる訳にはいかないという訳か。
「どちらにせよ、俺は今回の件で母上から半ば見限られているよ……」
「まぁ、元気出せよ」
「諸悪の根源に言われるとはな……。しかし、橘。お前の家はいったい……」
「さぁ? 俺も家の事はよく知らんのよ」
「詮索するなという事か……。安心しろ。橘の家の事に関しては、他言するなと母上からキツく言われているからな」
それは一安心。
しかし、あの傍若無人な虎嶺が、こんな小虎ちゃんのように大人しくなっちまうとはな。
名家って言うのも大変なんだな。
「さて。皆が待ってるから、そろそろ教室に戻るかね。虎嶺はどうするんだ? 教室に入り辛いっていうなら付き添ってやるぞ?」
俺は意地悪く虎嶺に言ってやった。
何せ、虎嶺の3組は2組にクラス入替え戦を挑み敗れ、また2組に挑まんとクラス一丸となって刃を研いでいるらしい。
要らない子扱いされちゃってる虎嶺は、さぞ居辛い事だろう。
まぁ、俺の事を拉致しようと指示してたんだから、これくらいの罰は当然だよな。
こう言えば、こいつの性格上、ムキになって『一人で行ける!』とでも言いそうだしな。
「いや……俺はこの後、外出しなくてはいけない」
「へぇ。授業を休んでか?」
しかし、虎嶺は意外な事を言いだした。
「ああ、これはクラス入替え戦欠席のペナルティでな……。この後、ハニ学へ出資している企業や団体のお偉いさんを集めた接待だ」
「……接待?」
って事は、学園の仕事って事か。
しかし、接待?
ゴルフにでも行くのか?
「男子の俺が、熟女連中にお酌をしたり、隣の席に座らされてくだらない話を聞かされるんだ」
「…………え?」
「場合によっては、派手な下着姿を見せつけられたり、身体を撫でまわされたり……。ひょっとしたら、もっと直接的に身体を求められるかもしれない……」
「…………」
「熟女連中は日頃、厳しいビジネスシーンを生き抜いてきているVIPだ。日頃の鬱憤や重圧を晴らすように、きっと若い男の身体を貪るだろう……」
ギュっと握った虎嶺の拳は震えていた。
「残酷な話に言葉も無いか橘……。これが敗れた者の哀れな末路だ」
諦念に支配された虎嶺が自嘲気味に笑う。
そんな奴に俺は……。
「ズルい……」
「は?」
「ズルいぞ虎嶺! 俺も一緒に行く!」
なんだ、そのエロい事になるの確定なイベントは⁉
そんなの逃す手はないじゃないか!
「いや、お前、話を聞いていたのか? 接待の相手は女で、それも年を取った赤の他人の女たちだぞ? そんな奴に辱められるなんて」
「いや、お前こそ何言ってんだ! 熟女には熟女の良い所がたくさんあるんだよ!」
「はぁ……?」
熟女って言っても、そこはハニ学のゲームの世界。
真名瀬学園長を筆頭に、この世界の熟女は揃いもそろって美魔女ばかりだ。
学園の女の子の容姿はモブの子たちですら整っているのだから、その親世代の女性も言わずもがなの美貌の持ち主だ。
そもそも俺は前世でも、熟女物は結構たしなんでいて好きな分野なのだ。
「よし、行くぞ虎嶺。美魔女たちの元へ」
「橘……俺のために……ありがとうな……」
何か虎嶺が感動しているが、野郎からの感謝なんてどうでもいいので聞き流し、俺は正門の方へ勇んで向かうのであった。
多分、虎嶺くん勘違いしてますね。
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