第15話 まぁ、男友達って奴だな
「ふーん……。随分と不入斗さんと仲が良いんだね、知己くんは」
仁王立ち晴飛が、俺に侮蔑の表情を向けながら言い放つ。
たしかに今、俺とかぐや姫はバタバタやり合っていた。
対等にやり合っている男女の様子は、はた目から見たら、仲良しに見えなくもない。
1組に新たに加わった女子である、かぐや姫と他クラス男子の俺が仲が良い。
これは、1組男子である晴飛にとって、気分が良くない。
「誤解なんだ晴飛……。これはだな」
「そもそも、男子専用の下駄箱の辺りで何を……。って、その手紙⁉」
目ざとく、かぐや姫が大事そうに手に握っている便箋を見咎める晴飛。
可愛らしい便箋だから、目立ったか⁉
どちらにせよ中身は怪文書だから、ここは撤退一択なのだが。
「まさか、不入斗さん、知己くんに告白を……」
「ち、違いますわ! ワタクシは晴飛さまに!」
「あ……。ご、ゴメンね邪魔しちゃって。ボクは帰るから。それじゃ!」
かぐや姫の弁明も聞かずに、晴飛は外靴を下駄箱から急いで引き出すと、そそくさと行ってしまった。
◇◇◇◆◇◇◇
「もぉ~!どうしてくれるのよ! 完全に晴飛さまに誤解されちゃったじゃない!」
とりあえず移動した校内の中庭で、俺は半泣きのかぐや姫からポカポカ殴られるのを甘んじて受けていた。
まぁ、鍛えられた橘知己のフィジカルならば、こんなのどうってことは無いし。
「悪かったって。そこはちゃんと後で、俺の方から晴飛に否定しとくから」
「絶対よ! ったく……。何で、よりにもよってアンタなんかと……」
憮然とした顔をしながら、かぐや姫がベンチに腰を降ろす。
「え~。誠に遺憾なのは俺の方もなんだけど」
そう言いながら、俺もかぐや姫の隣に腰を降ろす。
「なんで、女優の私よりアンタの方が上目線なのよ! これだから男は……」
「なぁ。なんで、かぐや姫は、そんな晴飛に御執心なんだ?」
何気ない感じを装って、俺はかぐや姫に探りを入れる。
ずっと気になっていたのだ。
かぐや姫が、主人公である晴飛にデレるのは、もっとストーリーが進んでからだ。
なのに、何でこんな最初から晴飛ラブなのか?
「それは……。私は別にクラスの男子に何て期待してなかったのよ? これでも女優だから、仕事で男性の俳優さんと一緒に仕事することはあったし、言い寄られる事だってあった」
「へぇ。オモテになるんですね、かぐや姫は」
「茶化すな! だから、高校生くらいで色めき立つなんて子供だなって思ってた。でも、入学時の資料が届いて、晴飛様の写真を見たら……」
「一目ぼれしちゃったと。案外初心だね、大女優様は」
「う、うるっさい!」
ポカポカと再度、かぐや姫が隣に座る俺の肩を殴って来る。
そこには、若手人気女優ではなく、一人の恋する乙女がいた。
なんだ、ちゃんと可愛いじゃん。
「お前はもっと、素の感じで晴飛に接した方がいいと思うぞ。取り繕った淑やかキャラなんて、すでにやる意味ないぞ」
なにせ、初手で江奈さん相手に大立ち回り演じてたの晴飛に見られてるんだから。
「そ、そんなの出来ない……。晴飛様にはその……綺麗な私を見て欲しいから……」
「乙女心だね~。でも、そんなの長続きしないと思うけど」
「それは大丈夫。こうやって、時たまアンタ相手に地を出して息抜きするから」
「おい!」
ニシシッと笑う彼女の笑顔は、女優としてのモノではなく等身大の少女の物だった。
──だから、そういう屈託のない所を見せた方が、男はイチコロなのに……。つくづく、男心が分からない残念なお姫様だな……。
「私の本心を曝したんだから、ちゃんと協力しなさいよね」
「へいへい。燕の子安貝や蓬莱の玉の枝は取りに行かないけどな。俺は別に、お前のファンじゃないし」
「じゃあ、なんだって言うのよ?」
「そうだな……。まぁ、男友達って奴だな」
ちょっと考えて、俺は無難な答えを返した。
「ふーん……。まぁ、下僕じゃ可哀想だから、特別に私の男友達って事にしてあげる。感謝しなさいよね」
「へいへい」
俺に対しては、ちゃんとツンツン出来てるのに、何で晴飛の前だと出来ないんだか……。
女優の癖に、本番には弱いのか?
って、コイツ。
俺の前でツンツンしてるから、晴飛の前ではデレオンリーになってるんじゃないか⁉
って事は、かぐや姫の良さであるツンデレという大いなる武器は晴飛の攻略に使えないと……。
こりゃ、前途多難だなと、俺は空を見上げるのであった。
せっせと地雷を埋めているようにしか見えない件。
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