第14話 ただのヤンデレ怪文書じゃねぇか!
「アンタのせいで、折角の晴飛様との逢瀬を邪魔されたじゃない、どうしてくれるのよ!」
「ですわ口調どこ行ったんだよ」
結局、あの後、晴飛は俺を楯にして逃げるように男子専用ルームの方へ駆けて行ってしまった。
そして残された俺は、かぐや姫から苦情を申し立てられていた。
「うるさい! モブ男子のくせに晴飛様と私の間に挟まってきて!」
「いや、フニュウトちゃんが晴飛に相手にされないのは」
「私の名前は不入斗だって言ってるでしょ! しつこい男は嫌われるのよ!」
「お前、その言葉ブーメランだろ。初手で男子専用ルームに突撃するから、晴飛に避けられるんだよ」
「むきぃぃいいい! 今度は『お前』って呼んだ!」
自称するのは良いけど、他人にモブ呼ばわりされるのは何かムカつくので、俺の方もどんどん、かぐや姫に遠慮が無くなる。
他人は己の姿を映す鏡なんだ。
「っていうかお前は、なんでそんな人によって態度が違うんだよ」
「私は、女優の不入斗輝夜よ。女や凡な男になんて興味は無いのよ」
「清々しいまでの選民意識の高さだな。で、晴飛はそんなお高いかぐや姫のお眼鏡にかなったと」
「そういう事よ」
ふむ……。
こんなんでも、一応ハニ学のゲームヒロインだ。
それも、割と前半で出て来て、江奈さんとバチバチにやり合う重要なヒロインなのだ。
クラス入替え戦では、1組内に騒動を起こしつつも、青春特有の青臭いぶつかり合い、そして団結というアオハル部分を担う。
かぐや姫は成長するツンデレヒロインなのだ。
ちょっとゲームと現実は序盤の入りは違うし、1組でクラス入替え戦は今のところ発生しそうにないが、ここで、このかぐや姫を早々に見捨ててしまうのは早計だろう。
面倒だが、ここはゲームのシナリオを歪めてしまった責任もある事だし、俺の方でフォローするか。
「なぁ、かぐや姫。俺は、晴飛とは仲の良い男友達なわけだが」
「……だから、なに? ま、まさか! 晴飛様の友人という関係を悪用して、私の身体を求めて⁉ エロ古事記同人みたいに!」
「うるせぇ自意識過剰娘が」
俺やっぱり、こいつ苦手だわ……。
ツンデレキャラのツンだけ向けてくる女なんて、ただのワガママ女だ。
まったく。
主人公様のフォローという使命がなけりゃ、絶対に関わり合いになりたくないタイプだ。
「いいか。俺がアシストしてやるから、晴飛ともうちっとマシなコミュニケーションしてこい」
「え?」
「あと、他の女の子に冷たかったり、下に見るような言動も慎め。晴飛は、そういうの一番嫌うぞ」
「やけに、アドバイスが具体的ね……」
「なにせ同じ男だからな。入学してまだ一か月だが、既に何度も一緒に遊んでるし」
「マウントが少々ウザったいけど、要は、私の手足として晴飛様との仲を取り持ってくれるというわけね?」
「言い方がウザいが、まぁそういうことだ」
「そんな事をして、貴方に何のメリットが?」
こちらを見通すように、かぐや姫がこちらを真剣な眼差しで見つめてくる。
黙ってりゃ、女優さんやってるだけあって、恐ろしく美人ではあるんだよな。
「そんなの……晴飛は友達なんだから、友達の幸せを願うのは当然だろ」
「ふーん……」
値踏みするように、俺の顔を窺うかぐや姫。
別に、ウソは言ってないぞ。
「まぁ、いいわ。じゃあ、橘。私と共同戦線を張るという事でよろしくね」
「おう」
そう言って差し出されたかぐや姫の手を握る。
「本来、私はファンとは握手はしないから特別よ」
「ファンじゃねぇよ」
ったく……。
こんなんでも、ゲームヒロイン様なんだから、フォローしてやらんといけないとは。
ホント、貞操逆転ギャルゲーの男友達は大変だ。
◇◇◇◆◇◇◇
「まずは、男を墜とすためには何が必要か。分かるか? かぐや姫」
「そんなの、地位とお金と美貌と甲斐性でしょう」
「違う。正解は真心だ」
「ぶふっ⁉ そんな青臭い事を……。橘って、案外ロマンチストなのね。ゲームや小説の世界じゃないんだから、現実を見なさいよ」
「…………」
いや。
俺もお前も、そのゲームの世界の住人なんだよと言いたいところだが、そこはメタいのでスルーだ。
とにかく、かぐや姫ルートで、彼女が成長するには今持っている考え方を捨てさせる必要がある。
「で、放課後に私を呼び出したと思ったら、なんで下駄箱に? しかも、男子専用の。ここって私が入ってもいいの?」
「そこは、俺が同行してるからセーフだ。今回の作戦は、下駄箱恋文作戦だ」
これは、原作再現の作戦でもある。
ツンツンキャラで色々と素直になれないかぐや姫が、文で想いを、主人公である晴飛に伝える。
手紙には差出人の名は無く、男主人公は最初、その奥ゆかしさと、派手な女優のかぐや姫とのイメージが合わず、ゲーム中盤でなんやかんや気の置けない女友達のような仲になっているかぐや姫に、差出人の正体を突き止める手伝いをお願いするという、実にラブコメな展開を演じるのだ。
ここから、ツンツンから徐々にデレが隠せなくなってくる、かぐや姫がカワイイんだよな。
「何をニヤニヤこっちを見てんの橘。気持ち悪い」
「いや。自分の立てた作戦の智将ぶりについ笑みがこぼれてな。で、ちゃんと手紙は書いてきたか?」
「ええ。しかし、手紙作戦とは地味だけど悪くない作戦じゃない。男子の協力者が居ないと出来ない作戦というのも、私の特別感が演出できて良いわ。褒めてつかわす橘」
「あんがとよ。んじゃ、さっさと晴飛の下駄箱に……って、ちょっと待て! 何を便箋にフルネーム書いてるんだお前は!」
下駄箱に入れようとした便箋がチラッと見えて、俺は思わずかぐや姫の腕を掴む。
「は? それはそうでしょ。この情熱的な恋文を読んだら、きっと晴飛様も私の事を好きになってくださるのだから」
「このバカ! まだ、その段階じゃないって言っただろが!」
この恋文作戦の肝は、何と言ってもそのギャップだ。
ツンツン高飛車な女の子が、その想いを素直に言えなくて、恋文にしたためる。
最初は恋文に戸惑う主人公だけど、肉食系でガツガツした女の子に少し疲れてくるゲーム中盤に、この恋文の奥ゆかしさに徐々に惹かれる。
で、いつも隣でバカ言い合ってる女友達が、実は……。
という作戦なのだ。
初手でネタバレしたら、意味ないだろが!
「授業中に恋文をしたためたら、結構良い文が出来たのよ。これなら、晴飛様も一撃よ」
「ちなみに、どんな内容なんだ?」
「仕方ないわね。橘には協力してもらったから特別よ」
よほど自信があるのか、かぐや姫は得意げに手紙の中身を見せてくる。
渡してきた手紙は何枚にもわたる長編だった。
──【以下、不入斗輝夜の恋文】──────
親愛なる晴飛様へ
ワタクシたちの出会いは、きっと前世からの約束だったんだと思います。
早速ですが、私たちの将来について考えてみました。
結婚式は、挙式は海外のチャペルで2人きりで上げて、披露宴は秋の気候の良い時期に国内の高級ホテルの大ホールで盛大に。
子供は男の子と女の子の一人ずつ。名前はもう決めていて、晴飛様の一文字をもらって「飛鳥」と「晴菜」にします。
ワタクシは子役時代から芸能のお仕事をしてきたので、お金の心配はいりませんわ。
老後はハワイに別荘を建てて、二人で静かに暮らしましょうね。
婚姻届はもう私の欄だけ記入して用意してありますので、今度会う時に実印ハンコを持ってきてくださいまし。
さて、ついては婚姻後の具体的な動きについてですが……
──【橘君が限界のため以下略】──────
「なんだこりゃ⁉ これじゃ、ただのヤンデレ怪文書じゃねぇか! もっと奥ゆかしく書けって言っただろ! このバカ!」
「さっきからバカバカ言い過ぎでしょ! 気持ちが乗った、いい恋文じゃない!」
「女優のくせに感受性死んでんのか! 出会って直ぐにこんな重たいラブレターもらったら、男は嬉しいより恐怖が勝つの!」
「橘ごときが何を男代表みたいに判じてるのよ! 晴飛さまはきっと受け入れてくださるの! だから、手を離しなさい!」
「だからダメだっての!」
こんな物渡したら、ますます晴飛がかぐや姫に引いちゃうだろうが!
まだ序盤だから、ここからならまだ元のツンデレキャラに戻すことだって可能なんだ。
こうなっては、今日はラブレター作戦は諦めて……。
「……何してるの知己くん? こんな所で」
「うぇ⁉」
「晴飛さま!」
ほらぁ!
男子専用下駄箱の前で、ごちゃごちゃやってたから……。
腕組み仁王立ち主人公様のお出ましだ。
はたして作戦は上手くいくのか?
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