第13話 主人公様がお怒りやで
「あ~、昨日は濃い1日だったな」
翌朝。
ハイヤーでのいつものようにハニ学に降り立った俺は、朝日を浴びながら、そう独り言ちた。
遅れてきた1組の新入生とレスバしたり、ギックリ腰の担任女教師を赤ちゃんプレイで癒し、女装した男の娘とデート。
さらには、家なし子になってた女傭兵を拾って身体を嘗めまわしたり、その女傭兵の再就職の斡旋のために手遅れになったドMお嬢様に、女を殴らない事で怒られたり。
イベントを1日に詰め込み過ぎだろ。
「おはようございます晴飛さ! って、なんだ、貴方でしたの。橘知己」
「おはようフニュウトちゃん。原作通りのキャラ通りのお前を見ると、何だか安心する自分がいるよ」
「だから、ワタクシの名はフニュウトではなく不入斗ですわ! 不入斗輝夜! 何度言えば分かるんですの!」
おっと。
つい、安定のツンツンキャラを前に愛称呼びしちまったぜ。
「間に数話、濃いキャラやプレイが続いていて、きっとお前の呼び方忘れてる人も多いから、そういう威勢のいい自己紹介は助かる」
「何を訳の分からない事を言って。あ~、いるんですよね時々……。ワタクシの特別になろうとして、あえて変な愛称で呼んできたり、対等でございとばかりにタメ口をきいてくる輩が。貴方が男でなければ、とっくに社会的に抹殺しているところですわ」
「へぇ~、こわ~い」
昨日は色々と性癖をこじらせた人たちと戯れてきたから、テンプレツンツンキャラの大女優様なんて、オーソドックス過ぎて、安心感すらおぼえる。
俺も、このハニ学の世界にいよいよ染まって来てしまったんだな。
「貶しているのに、なんでそんな慈愛顔でこちらを見てますの……」
「ああ、いや何でもないよ。それにしても、ふにゅ……かぐや姫は、朝早くからどうしたんだ?」
「それは当然、晴飛様の朝のお迎えをするためですわ」
「あれ? 朝のお迎えは学級委員の江奈さんがやってたんじゃ?」
「彼女は今朝早朝に、胃腸内科を受診するから休むとの連絡がクラスのグループチャットにありましたの。そこで、私が、朝のお迎え役を買って出たのですわ」
「ああ……なるほど」
きっと、江奈さんの休みに付け込もうとした他の1組女子を一睨みで黙らせたんだろうな、このかぐや姫は。
担任女教師に腰痛サポーターを差し入れた後は、今度はクソチョロ学級委員長に胃腸薬のお見舞い品が必要だな。
「あっ! いらっしゃいましたわ!」
学校の裏門から、敷地内の車両乗降エリアに入って来たハイヤーを見咎めたかぐや姫は、乗降エリアに飛んで行った。
──しかし、かぐや姫は晴飛に最初からデレデレだな。
原作の、かぐや姫ルートはそんなんじゃないんだが。
出会ってまだ1日しか経っていないのに、ツンツンが無いツンデレキャラなんて、存在意義すら無くないか?
なんて、失礼極まりない事を考えながら、俺もなんとなくかぐや姫の後をついていく。
「おはようございます! 晴飛様」
「ああ、うん……。おはよう、不入斗さん……」
朝からテンションがあからさまに低い晴飛が車から降り立つ。
──あ……。晴飛、思い切り昨日の事引きずってるな……。
昨日は色々とバタバタしていたから、結局一人で帰った晴飛に何にもフォローの連絡とかしてなかったんだった。
「よう、晴飛おはよう。昨日は……」
「おはよう知己くん。昨日は、路上で引っかけたお姉さんと、夜までしっぽりやってたんでしょ」
アカン。
主人公様がお怒りやで。眼差しがめっちゃ冷たい……。
まるで、浮気現場の証拠を握って追い詰める彼女さんみたいな冷酷さやで。
「いやいやいや、誤解だって晴飛。あの人は、ちょっと家の関係の知り合いで」
「なんでただの知り合いの人が、ハァハァ言ってたの?」
「それは、その……。あのお姉さんは外国帰りだから、色々と変な人で……」
傭兵として、渚橋さんは海外を転戦してたって言ってたからウソじゃないもん。
「ふーん……。それで、あの後は結局、あのお姉さんとクレープ食べたの?」
「え? う、うん……」
とりあえず、渚橋さんの誤解を招く発言については終わったようだが、晴飛の追及は続く。
「それって、あのお姉さんが食べたがったの?」
「うん……何日も食べてなかったみたいでお腹空かせてたみたいだから、放っておけなくてさ」
見捨てておけない事情があったんだよと、俺は弁明を重ねる。
が、しかし。
「ふーん……知己くんが御馳走したんだ。あのお姉さんには気前よく」
あ……。
要らん事、言っちゃった。
「今、『要らない事言っちゃったな』って思ったでしょ?」
「なんで、そんな俺の心の中をバシバシ読んでくるの⁉」
「知己くんが分かりやすいだけだよ。まったく、女の子にだらしないんだから」
晴飛が頬を膨らませる。
ちっちゃいショタっ子の晴飛が、全身で怒りを表現しているが、怒ってても小動物的な可愛さは抜けていないところは、流石は主人公様である。
「なんで男の子同士で痴話げんかをしてるんですの!」
──あ、ごめん。フニュウトちゃん。忘れてたわ。
「って、なんで晴飛は俺の影に隠れるんだよ」
さっきまで威勢よく俺の事を糾弾していたのに、かぐや姫の存在に気づいてからは、途端に借りてきた猫ちゃんの晴飛。
なんか、男友達の俺の前でだけは威勢良いのが、ちょっと可愛かった。
久しぶりの学園パートが何だかホッとする。
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