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第6話 愛されてんな~主人公は

「2組男子の橘さんですね? 私は1組首席の江奈あやみです。先ほどは、うちのクラスの人たちが無礼な物言いをしてしまい、大変申し訳ありませんでした。代表してお詫びさせていただきます」


 きちんと腰を折り、江奈あやみが頭を下げて非礼を詫びる。

 その様子に、さっきまでいざこざを演じていた1組と2組の一同が黙る。


「別にどうでもいいよ。それより、晴飛を出してよ」


「……いえ。怒りがおさまらないという事であれば、私の事を存分に殴っていただいて構いませんので」


 いや、話が飛びすぎだから!


 たしかに、この男女比が歪な世界では、男側も特別扱いを当たり前に感じ、女の子に対して横暴に振る舞う奴もいる。


 けど、俺も、そんな女殴ってそうな雰囲気ある?

 ちょっとショック……。


 っていうか、よく見ると江奈さん、怖くて震えてんじゃん。


 自分よりタッパも体格も上の男子の前に、女の子が立つのは凄く勇気が要るだろうに。

 こういう時に真っ先に矢面に立つ所は、さすが委員長だよな。


 さすがはゲームでも屈指の人気ヒロインだ。


「な、何を笑ってるんですか……」


 不安そうな顔で江奈さんが俺の事を見上げる。

 おっと、ついヒロインキャラの江奈さんに会えた喜びで、ニヤけちまった。


「ああ、悪い悪い」


 そう言いながら、俺は江奈さんの頭に手を伸ばす。


 殴られるとでも思ったのだろう。

 江奈さんは身体を固くして、目をギュッとつぶる。


「晴飛を守ってたんだな。偉いぞ」


 頭をポンポンとして、江奈さんのことを褒めてやる。


「……ふわ⁉」


 てっきり手を上げられると思っていた江奈は、予想外に頭を男の手で包まれて、素っ頓狂な声を上げてその場で直立の状態で硬直する。


 ───こういう頭ポンポンって、元の世界じゃイケメンじゃないと、やったら大惨事だよな。


 でも、この世界の女の子は男性からのこういうスキンシップに飢えているので、問題ないのだ。

 こうして頭ポンポンで護衛の江奈さんを無効化した俺は目的の人物の前に立つ。


「よ、晴飛」


「知己くん……」


 女の子の肉壁の陰から、晴飛が顔を出す。


「愛されてんな~。晴飛は」

「からかわないでよ知己くん」


 苦笑いしながら晴飛が、止める取り巻きの女子たちの人垣から出てくる。

 まぁ、晴飛みたいな小柄なショタ系男子には、女の子は特に過保護になるよな。


 俺の背後ですら、2組の子たちが何かあったら即座に武力介入する気満々で身構えてるし。


「昨日は急いでたから連絡先交換してなかったよな。今後も色々あるだろうし交換しとこうぜ晴飛」

「う、うん。交換しよ」


 一触即発な空気に我関せずで、俺は呑気に晴飛とスマホを突き合わせて連絡先の交換を行った。


「あの後、ハイヤーはちゃんと来たか?」

「う、うん大丈夫だったよ」


「あ、連絡先にある住所が晴飛の自宅住所か? 俺の家の近くじゃん。放課後にお互いの家で遊ぶのも楽しそうだな」

「そ、それいいね! 是非そうしよう」


 和やかな会話を意図的に続けて、周りに男同士で仲が良いんだぞとアピールする。

 これにより、周りの殺伐とした空気が弛緩していく。


 これが俺の狙いだ。


「じゃあ、折角だから1組2組の合同で校内見学しつつ、その辺の打ち合わせをしようぜ。いいですよね、エッちゃん先生?」


「え、あ、その……」


 突然水を向けられたエッちゃん先生がまごつく。


「男子生徒同士の交流も大事ですから」

「武山先生。ボクからもお願いします」


 そう言って、晴飛が自分のクラスの担任に頭を下げる。


 男子生徒は、この学園で何より優先順位が高い。

 いかに教師といえども、無下には男子生徒の要望を断れない。


「どうするんですか大楠先輩」

「こういう時だけ後輩面して押し付けないでよ! でも、そこまで無茶な要望ではないし……」


 2人の教諭がコソコソ話を始めるが、すぐに結論は出たようだ。


「分かったわ。2クラスくらいなら大丈夫だから、1組と2組で合同で校内見学をしましょう」


「「ありがとうございます」」


 案の定、2人の先生はこちらの要望を飲んだ。


 戦争というのは、終わり方が最も重要だ。

 戦いを始めてしまった以上、振り上げた拳をただ降ろすだけでは示しがつかない。


 だからこそ、大義名分が必要なのだ。


 ここは、俺や晴飛という別格上位の存在である男子生徒が要望したからという理由で、お互いのメンツを保ちつつ双方が槍をおさめることができた。


 特別扱いされてる地位はこうやって使わなきゃね。


 しかし、それにしても担任教諭同士の仲が悪いのはいただけない。

 これじゃあ、1組と2組のバチバチの際にストッパー役がいないも同然だ。


 という訳で、釘をさしておかないと。


「エッちゃんセンセ」

「ああ、橘か。さっきは正直、たすか」


 校内見学の再開のためにクラスごとに整列し直す指示を飛ばしている中、俺がエッちゃん先生に声をかけると、エッちゃん先生がバツが悪そうに俺にお礼を言ってきた。


「エッちゃん先生も可愛いんですから、そんなケンカしてたら俺悲しいですよ」

「え⁉」


 そうエッちゃん先生の耳元でささやくと、俺は多々良浜さん達の方へ戻っていった。


 結局、その後の合同の校内見学中の解説は、1組担任の武山先生がすべて担っていた。


 そのことを、またもや武山先生はあてこするような嫌味をエッちゃん先生にぶつけていたが、エッちゃん先生は心ここにあらずという感じで放心していた。


 ちょっとやり過ぎたか?

主人公のイケメンムーブが止まらないが、何かが積み重なっている予感。


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