第8話 はい論破
「ねぇねぇ、お兄さんヒマしてるの? 良かったら私らと遊びませんか?」
「ごめんね~。ツレがいるんで」
「あの……。今から、私と高級和食懐石のお店へ行きませんか? お金は当然、こちらで全部払いますし、お手当ても!」
「ゴメンなさ~い。ツレがいるんで」
しかし、街中に立っていると、秒でナンパされるな。
流石は、男女比1:99の貞操逆転世界。
逆ナンなんて前世では一回たりとも経験したことないんだけど、今日だけでもう10回はされてる。
『〇〇くん、さっきまで童貞だったのに、もう経験人数10人になっちゃったね~♡』
みたいな、男の夢トロフィー条件を解除した気分だ。
さて、俺が街中で無駄にその姿を晒しているのは理由がある。
「お待たせ、知己くん」
「お、おう晴飛。相変わらず、その格好だと女の子にしか見えないな」
以前、学食に一緒に行った時と同じく、ハニ学の女子制服を着てメガネにウィッグ姿の晴飛が目の前に立っていた。
「ふふっ、ちょっとはドキドキする?」
「ドキドキするから、腕を組んでくるなよ…」
「ダ~メ。知己くんの護衛をボクがしてるっていう設定なんだから。男の子が護衛も無く街中にいるなんて不自然なんだから」
俺の願いはあえなく却下され、晴飛が俺の腕をより一層抱え込む結果になった。
相変わらず、ちっころカワイイ護衛である。
「いや、でも」
「だって、知己くん。ボクを待ってる間に女の人に声かけられたんじゃないの?」
「ああ。何人にも」
「じゃあ、ちゃんと護衛としてくっつかないとナンパ避けにならないよ。はい論破」
かわいい論破なので、もう諦めるしかないな。
「にしても、晴飛は何で女子の制服を持ち歩いてたんだ?」
「もしものためにね。だから、こうして放課後に知己くんと遊べてるんだよ」
「まぁ、そうか……」
微妙に納得しがたい説明だったが。
チャンスがあれば女装したいという事か?
「やっぱり外に居たらナンパされちゃってたんだね。別に一緒に男性用化粧室に居ても良かったのに」
「いや、それは俺が落ち着かないから……」
晴飛は無論男だ。
それは分かっている。
分かっているのだが、それでもやっぱり……。
女性の着替えをしている空間に一緒に居るのは気まずすぎる!
「フフッ。知己くんって、普段は色んな女の子を振り回してる癖に、女の子の格好してるボクに対してはヨワヨワだよね」
「女の子の格好してる晴飛相手だと色々と脳がバグるからだよ! ほら、行くぞ!」
どうして、女の子の格好すると小悪魔ムーブしてくるんだよ晴飛の奴め……。
そう思いながら、俺は恥ずかしさを誤魔化すようにズンズンと街中を進んでいく。
「ゴメンね、ボクのわがままで街でお買い物デートしたいなんて言って」
「別にいいよ、買い物くらい付き合うさ」
エッちゃん先生の看病で時間を要したのにプンプン丸だった晴飛だが、すっかり上機嫌である。
なお、もうそろそろ遅い時間だし別日にと言ったら、『今から行こうよ。変装用の服もあるし』という事で放課後デートと相成ったわけである。
「どの店に行こうか? 知己くんの服を買うなら、やっぱり高級ブランドのお店かな」
「ブフッ⁉ いや、そんな高校生が着るのに高級ブランドって」
「え? だって、紳士服を置いてる店なんて、高級ブランドのお店くらいでしょ。それか、百貨店の外商の人に注文したりとか」
「え、そうなの⁉」
たしかに、考えてみれば男女比は1:99なんだから、メンズ服のショップなんて構えても、そもそも顧客が少なすぎて潰れるな。
だから、ブランドショップみたいに単価が高い店でしか取り扱いが無いのか。
前世で、超巨乳な女の人が『私のサイズだと、海外輸入物しかなくて高くついちゃうのよね~』と嘆くのと同じだな。
それは、この世界でも一緒か?
多々良浜さんとか巨乳だから大変そう。
「しかし、毎回そんな店で買ってたらお金が……」
「お金? だって、男の子は国から手当金が毎月振り込まれるから、服を買うくらい訳無いでしょ?」
そうだったのか……。
いや、この世界に転生して来てまだ1か月経ってないから、知らなかった。
たしかハニ学のゲームでは、お金という概念が無く、デートに行ったところで持ち金が減るという事も無かった。
別にクリアに必要な数字でもなかったから気にも止めてなかったが、現実に落とし込むと、こういう内情があったのだな。
「へ、へぇ……」
「それにしても知己くんは、こういう事には疎いんだね。もしかして……」
う……。
たしかに、高校生にもなろうというのに、服の事や手当金の事を知らないのは不自然だ。
もしかして、晴飛は俺の秘密に……。
じっとりと汗が額ににじむ。
「うん……、そっか。じゃあ、今日はボクが知己くんのお洋服を見立ててあげる」
「はぁ……」
もしかしての後に微妙につながらないが、晴飛は一人納得して、俺の腕を引っ張って行った。
その間が何なのか、俺は気になって仕方がなかった。
そういや、2章にしてようやくちゃんとした、お出かけデートか。
相手は男の子だけど。
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