第6話 もうオギャる
【引き続きエッちゃん先生──視点】
「はい。お粥できたよエッちゃん先生」
「ありがとう橘」
「ほら。食べさせてあげるから。アーン」
何だろう。
こんなの夢や妄想ですらしたことが無い。
護るべき男の子に、こうして看病してもらえるだなんて。
目の前の光景が現実とは思えず、ボーッとしてしまい、言われるがままにお口を開ける。
「あつっ!」
「あ、ごめん。温めすぎたかな? フーッ、フーッ。これで、冷めたかな」
「はむっ……美味しい……です……」
「なんで敬語なのさエッちゃん先生」
笑いながら、橘がまたフーフーしてお粥を食べさせてくれる。
──なんだか懐かしい……。そっか、子供の時に熱を出して、同じようにお母さんに甘えてお粥を食べさせてもらってたんだ……。
そんな望郷の念にとらわれながら、ただ口元に運ばれるお粥を食べて咀嚼し、飲み込む。
「お、全部食べ切ったね。はい、お薬飲んでね。お薬飲んだら、すぐに横になっちゃだめだから、ちょっと腰が辛くても座ってようか」
そう言って、お粥の器を下げて洗ってくれている橘の後ろ姿を見ていると、何だかホッと安らぐ。
「ん、そろそろ横になろうか。介助するね」
「悪い橘……。年甲斐も無くカラオケではしゃいだばっかりに……」
「なに言ってるのさ。生徒のために盛り上げ役として頑張っちゃったからでしょ? みんなエッちゃん先生が元気に学校に来るのを待ってるからさ」
そう言って、橘は笑いかけてくれる。
サポーターと薬が効いてきたおかげなのか、さっきより腰の痛みが和らいでいる。
──ああ、お母さん……。私を産んでくれてありがとう。おかげで、私はこんな天使に出会う事ができました。
「さて。じゃあ、そろそろ帰るね」
「あ……」
私が布団に横になった所を見届けて、橘が別れの言葉を告げる。
夢のような時間は、いつもあっという間に過ぎてしまう。
「あの……」
──ああ、ダメだ……。
「ん、どうしたの? エッちゃん先生」
私が漏らした、か細い言葉をちゃんと拾ってくれた優しい橘が、枕元まで来てくれる。
「帰っちゃ、ヤ……。一緒にいて……」
──言っちゃった……。
こんなワガママ、男の子相手に許されないのに。
今、こうして看病してくれただけでも、宝くじの一等に何回も当たるくらいの幸運なのに、更に浅ましく求めるだなんて……。
こんなの絶対に重い女だよ……。
「なに? 不安になっちゃった? カワイイな~、もう」
──え? 私、さっき重い事言ったのに笑って許してくれるの?
そして、頭をナデナデしてくれるの……。
こんな年増の私を……。
溢れる想いが、理性の壁を越えてしまう。
「パパァ……」
あああぁぁぁぁぁあああああ!
キモい! キモい! キモい!
人工授精で生まれた私には、そもそもパパなんていない。
相手は、担任している生徒で、10歳以上年下の男の子なのに!
格好良い大人でもないし、男関連で騙されてばっかりでお金だって持ってなくて、こんなボロアパート暮らしで。若くないのに、はしゃいでギックリ腰になるような間抜けな大人。
そんな残念な年増女から、パパなんて呼ばれて……。
さぞ橘は恐るべき怖気を感じて……。
「うん、パパだぞ~」
え、こんなプレイまで受け入れてくれるの?
橘の器の広さは大海原か?
「そうだよな。先生って甘えられないから大変だもんな。でも、良いんだよ。俺の前でだけは赤ちゃんになっても」
あ……あ……。
もうダメ、限界……。
もう泣く。
赤ちゃんみたいに泣く。
オギャる。もうオギャる。
何もかも忘れて、生徒の前で、私は教師の仮面をを脱ぎ捨てて、ただの生まれたての無垢な赤ちゃんに私はな。
「知己くん、遅い。早く帰るよ」
ひどく冷えた声が玄関の方から聞こえた。
そこに居たのは1年1組男子の観音崎晴飛くんだった。
「あれ、晴飛。先に帰ってなかったの? 別に待ってなくていいって言っといたのに」
「知己くんが心配だったからね」
そう言って観音崎くんがこちらに視線を向ける。
その、どこか冷たい視線に、さっきまで赤ちゃんだったのに、急激に大楠悦子が戻って来る。
「す、すまないな橘。色々と看病してもらって……。おかげで大分、楽になったから、帰ってもらって大丈夫だぞ」
「そう? じゃあ、そろそろ帰るね。お大事に」
帰り支度をする橘を、私は張り付けた笑顔で見送る。
私は、大楠悦子。
年齢はもすぐ30歳。
蜜月学園の教師だ。
さっき赤ちゃんだったのは、泡沫の夢。
でも、一瞬でもパパと呼べて嬉しかった。
「あ、そうだ」
そう言うと、橘は枕元に再度来てくれた。
何だろう?
「また今度、悦子のパパになってあげるから、赤ちゃんになる準備しといてね」
「バ、バブゥ……」
枕元でこっそり耳打ちしてくれた橘の言葉に、再度、私は赤ちゃんになってしまった。
終わったと思わせてからの不意打ちズルい……。
──って、観音崎君にさっきの聴こえちゃってないよね?
そう思って、玄関で腕組してる観音崎くんの方を見やる。
彼は、冷たいまなざしを私の方に向けていた。
素敵なショタっ子な男の子に見つめられるなんて、これはこれで女にとって最高のシチュエーションだけど、今の私は何故か心が動かなくて、ただただ、次のパパの帰りを待ちわびるのだった。
はい。エッちゃん先生の性癖が歪んだっと。
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エッちゃん先生好きならハマるぞ(ネットリ)




