第4話 そんな事言う女の子いる訳無いよ
「何だか、昼休みに騒動があったみたいですが大丈夫でしたか? 橘君」
「耳が早いね多々良浜さん」
授業が終わり、帰りのホームルームの時間。
ぎっくり腰で休んでいるエッちゃん先生の代理として、教壇でホームルームの司会をする多々良浜さんが開口一番、俺に訊ねてきた。
「フニュ……不入斗輝夜っていう遅れて1年1組に入学して来た女の子が、男子専用ルームの前でちょっとね」
「それでですか。先ほど、学年主任の先生から、『男子専用ルームの前に、女子生徒はたむろしない、騒ぎを起こさないように』との申し送りがありました。皆さんも気を付けてください」
「「「は~い!」」」
「不入斗って、あの子役時代から有名だった女優だよね。かぐや姫って呼ばれてる」
「かぐや姫って、この学校の生徒だったんだ……」
「芸能界の仕事が忙しくて、入学が遅れたみたいね」
「ワガママでお騒がせ女優だって週刊誌で見た」
「流石はハニ学……エグイ経歴持ちがゴロゴロいるな……」
「これで1組はもっと層が厚くなったか」
「鍛錬をもっと増やすか?」
おお。
皆が、かぐや姫の1組加入を聞いて、闘志を燃やしている。
今は、他クラスからの挑戦を受けてばかりだし、以前に、1組に晴飛を賭けてクラス入替え戦を挑むことはないと言っていたが、そこは移ろいやすい乙女心。
是非とも2組の皆には俺なんかに固執しないで、1組へクラス入替え戦を挑んで1組を揺さぶり、そして1組の団結力を上げて欲しいものだ。
「それでは、帰りのホームルームを終わります」
そう多々良浜さんがホームルームの終回を告げるのを待ちわびていたかのように、2組の教室のドアが開く。
「お、晴飛?」
「はぁはぁ……知己くん……一緒に帰ろう」
息を切らしながら、晴飛が駆け込んできた。
「どぅしたんだ?」
「話は後! 逃げるよ!」
そう言うが早いか、晴飛は俺の手を握って玄関の方へ引っ張って行った。
「「「男の子同士の逃避行エッ!」」」
という、背後で女の子たちが倒れる音を背後に聞きながら。
◇◇◇◆◇◇◇
「ゴメンね知己くん……。無理やり連れてきちゃって」
帰りのハイヤーの車中。
後部座席の隣の席に座る晴飛が、申し訳なさそうな顔で俺に謝る。
「いや、俺もクラス入替え戦の準備のために、早く帰るつもりだったから別にいいんだけど。どうかしたのか?」
「ちょっと、不入斗さんがね……」
苦い顔をする晴飛を見て、色々と察する俺。
「あの後、クラスではどういう感じだったんだ?」
「大変だったよ……。不入斗さんが、クラスで自己紹介が終わった直後に、ボクの隣の席に座ろうとして他のクラスの女の子たちとバトルになってさ……」
「ああ……」
目に浮かぶな。
完全に晴飛に引かれてるじゃん。
──あれ? けど、おかしいな……。隣に座ろうとしただって?
「でも、かぐや姫って、晴飛には憎まれ口を叩いたりしたんじゃないのか?」
「ん? いや、そんな事はないよ。周りの女の子達には口汚いんだけど、ボクにだけは丁寧に接してきて、それが余計に居心地悪いっていうか……」
「え、そうなのか? 『貴重な男だからって、いい気になるんじゃないわよ!』とか言われなかったか?」
「何それ? そんな事言う女の子いる訳無いよ」
「そう……か……」
はて?
かぐや姫のゲームでの初登場シーンと言えば、このセリフなんだが。
何しろ、かぐや姫と言ったら、男女比1:99の貞操逆転世界では珍しい、ツンデレキャラなのだ。
出会って初期の段階では、自身が実力で有名若手女優である立ち位置を得ている事に対し、主人公は、ただ男であるというだけでチヤホヤされている事に対し、反発してしまうという感じなのだが。
「ボク、あの子の事、正直言って苦手だな……」
「そっか……」
1組はクラス内の空気がただでさえ悪いのに、かぐや姫みたいな劇薬を入れたら、物語の潤滑油どころか大爆発しかしないだろう。
こっちの世界の晴飛は、俺がシナリオに捩れを生じさせたのが影響してか、女の子に対して随分と消極的になってしまっているんだよな。
ああ。
晴飛がこんな調子だから、神様も難易度を下げて、かぐや姫を早々にデレさせてるのかも。
「知己くんはこの後、どうするの?」
「そうだな……」
と、晴飛がこっちに期待するような眼差しを向けてくる。
上目遣いでこちらを見上げる様は、完全に『一緒に遊んで欲しい』と尻尾を振ってねだって来るワンコである。
こういうあざといムーブを女の子たちにやったらイチコロなのに、何で男友達の俺に無駄撃ちなんてしてるんだか……。
だが、今日は色々としんどい事もあったし晴飛を甘やかして……。
と口を開きかけた矢先に、俺はある事を思い出した。
「わりぃ晴飛。俺、用事があるんだった」
「え?」
「運転手さん、すいません。ドラッグストアに寄ってください」
主人公の男友達はもちろん大事だが、今はもっと、俺の助けが必要な人がいることを思い出した俺は、件の人の連絡先をスマホで開くのであった。
次回、エッちゃん先生回で~す。
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