第49話 逃げろ逃げろ~♪
『知力部門勝者3組、体力部門勝者2組。そしてお嫁さん部門は、3組男子の寝室虎嶺が欠場のため2組の不戦勝。よって、今回の1年2組と1年3組のクラス入れ替え戦は、1年2組の勝利とする』
「っしゃぁぁぁあああああ!」
「うう……。あと一歩……あと一歩だったのに……」
勝負という物は残酷だ。
勝者の陰には敗者がどうしても生まれる。
そんな事を、俺は勝利の歓喜に沸く2組の女子と、膝を折り敗北を悔しがる3組の女子たちの、コントラストを眺めながら思った。
「それにしても、3組男子の虎嶺くんが欠場したのは意外だったね」
「ね。クラス入れ替え戦って男の子も強制参加で、欠場のペナルティがとてつもなくキツイから、ほとんど学校を欠席する下位クラスの男子生徒ですら、出席するっていうのに」
「きっと、入学早々にクラス入れ替え戦を3組の女子に起こされて、腹に据えかねてたんだろうね」
周囲は、虎嶺の不可解な行動の理由について色々と憶測を述べる。
昨日、チ○コを踏み潰されかけた俺に会うのが怖かったんだろうな……とは言えないので、黙ってるのが吉だ。
まぁ、おかげで、お嫁さん部門は我が2組の不戦勝。
これで、俺もようやくクラス入れ替え戦の勝利に影ながら貢献できたというものだ。
「うう……」
「ほらほら、みな実っち。もう泣かないで」
「だって……私、2組の学級委員長なのに結局は何の役にも立ちませんでした……。最終走者を任されたのに結局は、久留和さんの1勝だけで……」
歓喜の輪の中で一人、別の意味で涙を流している多々良浜さん。
AYAMEでステージクリアが出来なかった事を気に病んでいるようだ。
「いいじゃねぇか委員長。これは団体戦なんだからさ。皆が私に繋いでくれたおかげの勝利だから、胸を張ろうぜ」
「久留和さん……」
「そうだよ。学級委員長でみな実っちは、クラス全体の統括までやってて頑張ってたよ。まぁ、私も知力部門では役立たずだったけどさ……」
「そ、それを言うなら、絵里奈ちゃんもクラスの参謀として頑張ってくれてましたよ」
「そうそう。無事に勝てたんだから良いじゃな」
「「「橘君は反省してください」」」
「はい……」
クラス入れ替え戦の数々の俺のやらかしにより、2組のみんなは、どんどん俺に遠慮が無くなってきてるな。
でも、それって良い事だよね。
俺も、真の意味でこのクラスに馴染んできたという事で。
だから、そろそろ地面で正座するのを止めてもいいかな……。
「知己くん。クラス入れ替え戦勝利おめでと……って、なんで正座させられてるの?」
「よ、よう晴飛。これは、俺が真の意味で2組の一員になったという儀式みたいなもので……」
「何だか、浮気がバレて釈明してる亭主みたいだね」
「2組は本当に変わってますね……」
苦笑いしながら晴飛と1組学級委員長の江奈さんがこちらを見ている。
そうなんだよ。モテる男は辛いぜ。
だから2人とも、あんまり人が正座して女の子に許しを乞う所をジロジロ見ないでくれ……。
「お疲れ様です。2組の皆さん」
「荒崎さん……」
負けた3組の学級委員長の荒崎さんが、敗戦で泣く3組の子たちを引き連れながら、こちらに来た。
先ほどまで勝利の歓喜に満ち充ちていた2組のクラスメイトたちも、一様に黙り、場に緊張の空気が走る。
そして、そのどさくさに紛れて正座から立ち上がる俺。
地面の上に正座するのって結構足が痛くなるんだな、知らなかったよ。
「私たち3組は諦めない。橘様を迎えるために、己を高めてまた再戦を申し込む」
荒崎さんから差し出された左手。
それは、むき出しの宣戦布告だった。
「のぞむ所です。私たち2組も、今回の件で実力不足を痛感しました。そちらが何度挑んでこようとも、決して私たちは最後の一人になっても折れません」
3組の意図を正しく理解している多々良浜さんが、荒崎さんと固く握手をかわす。
背後に控える3組と2組の総員も、気迫に満ち満ちている。
とても、激戦を終えた直後だとは思えない。
「何か、青春って感じだね知己くん」
「ああ、そうだな晴飛」
バチバチの2組と3組の空気に当てられた俺と晴飛は、みんなの邪魔にならないように、またしても耳元でコショコショ話をする。
「そういえば知己くん、体力部門競技の時には女の子の事を敵味方関係なくいっぱい褒めてたよね」
「ああ。あれは作戦で」
「あれ、良くないと思うんだ。ほら、女の子って男の子に褒められたら勘違いしちゃうからさ。知己くんはそういう所、もっと気を付けた方がいいと思うんだ。これは男友達としての忠告だよ」
耳元でのコショコショ話なのに、めっちゃ長文を淀みなく語るな晴飛は。
普段のホワホワ系のショタっ子の感じとはエライ差だ。
「ん~」
「なに?知己くん。何か反論でもあるの?」
「いや。耳元で晴飛の声が聞こえて、幸せだなって思った」
「んにゃ⁉ だから、そういう所が」
「「「「だから、男の子同士でイチャイチャしないでください」」」」
あ、ゴメン。
危うく、知力部門競技に次いでセカンドインパクトを起こす所だった。
「まったく……。やっぱり橘君は橘君ですね。私がしっかりしていないと、危なっかしくて見ていられません」
「そりゃそうだよ、みな実っち。だって、ここはハニ学。男の子が主役の学校なんだから」
「だな」
クラス入れ替え戦を中心になって戦った3人が笑い合う。
良かった。
多々良浜さんも、次なる戦いが控えてくれているおかげで、敗戦の傷を引きずっている場合じゃないと気づいてくれたようだ。
「やぁ。1年2組と1年3組のお歴々。色々とトラブルはあったけど、今年度初のクラス入れ替え戦が無事に終わって良かったよ」
「本当にトラブル続きでいい迷惑……。これだから男は……」
先ほどまで司会進行をしていた疲れを一切見せず、にこやかな笑顔の一色会長と、毒を吐く森戸副会長。この2人も相変わらずだな~。
「あ、一色会長に森戸副会長。クラス入れ替え戦の運営お疲れさまでした」
「何はともあれ、無事に終わったんだ。ここは、試合が終わればノーサイドという事で、皆で打ち上げのお茶会はどうだい?」
それにしても、一色会長はよく人を見てるな。
クラス対抗戦でどうしてもギスギスしてしまう所を、こうしてクラスの間に入って緊張を緩和させているのだ。
長がつく人って、本当に大変だよな。
「え~。でも、私たち2組は、打ち上げはクラスでカラオケの予定だからな~」
「もちろん橘君も一緒で」
「勝ったご褒美で何でもしてくれるんだよね、橘君が」
「ぐへへ……」
「「「な、なんだってぇぇぇえええええ⁉」」」
だが、2組の皆がここぞとばかりに勝ち誇ったように告げた言葉で、場は一気に混沌とし始める。
「え、カラオケに男女で行くって、セ〇クスしようねって意味でしょ?」
「初体験がいきなりクラスまとめた複数人プレイ……エッチな動画でも観た事ない……」
「2組は勝ったらそんなご褒美が……」
「何でも……何でも⁉」
「ちくしょう……ちくしょう……」
「うぎぎぎぎぎ!」
あ、また3組の子たちが下唇を噛み切って、血を流してる。
ゲームでは省略されて描かれていなかったけど、鼻血が出たり唇を噛み切ったり流血沙汰が多いんだな、この世界って。
「ふむ……。生徒会長としては見過ごせない話だね。ここは生徒会として、間違いが怒らないか監査役として同行しなくては」
「え? 会長。それは……」
相変わらずの笑顔だけれど、有無を言わせぬ圧を放つ一色会長。
と、その横でイヤそうな顔を隠しもしない森戸副会長。
え、生徒会の2人も来るの?
まぁ、2人くらいなら何とかなるか?
「打上げなら哀れな敗者の3組にも参加する権利がある。勝者には余裕が必要。場所なら、荒崎家グループが経営する系列カラオケ店のVIPルームを直ぐに用意する」
「そ、それは凄いね……」
そして、荒崎さんも参加の意志を表明し、人数の多さにより発生する問題について先回りして、逃げ道を潰しにかかっている。
けど、君さっき、次は必ず勝つとか覚悟表明してなかったっけ?
「ボクも知己くんとカラオケ行きたい……。ね? 江奈さん」
「は、はい……それは……まぁ……」
って、晴飛もかよ!
う~ん。
何だか、なし崩しで2組の打ち上げの規模が大きくなる方向へ話が進んでしまっているな。
「橘君……」
不安そうな顔で多々良浜さんたちが、俺の方を見やる。
よし。
ここは、クラス入れ替え戦では良い所無しだった俺が頑張るべきだ。
「みんな悪いね」
「ひゃ⁉」
「今日の俺は2組の女の子たちだけの物だから。ゴメンね」
そう言って、俺はガバッと近くにいた、多々良浜さんを胸の中に抱きしめた。
「橘君……いいんですか?」
「俺、このクラスが好きだからさ。今後ともよろしくね多々良浜さん」
「は、はい……」
そう言って、腕の中で真っ赤になっている多々良浜さんにニコッと笑顔を向ける。
「という訳で2組のみんな、逃げるぞ~!」
「ひゃっ⁉」
「集合場所は追って、クラスのグループチャットに俺から送りま~す」
そう言って俺は、腕の中でフニャけている多々良浜さんをお姫様抱っこして走り始めた。
「「「逃げろ逃げろ~♪」」」
「やっぱり橘っちは最高だね」
「ああ。本当にこのクラスで良かった。さて、露払いは私に任せろ」
俺の逃走宣言を受けて、三戸さんや久留和さんを筆頭に、2組の子たちも一斉に走り出す。
「逃げたぞ! 生徒会権限で、至急、風紀委員を展開しろ!」
「知己くん、置いていかないでよぉぉぉ!」
「な、なぁ。教師だけど私も2組の女の子だから打ち上げ行っていいんだよな? なあ、橘ぁ⁉」
そして、その後ろを阻止せんとする一色会長、半べその晴飛、そしてエッちゃん先生が続く。
この男女比1:99で貞操逆転したハニ学の世界。
ゲーム転生した当初はただ浮かれていたが、どうやら面倒な立ち位置であることも徐々に分かってきた。
昨日のゴタゴタの報告書もまだだし……。
でも、それでも。
「橘君……。今は、貴方に護られている私ですが、橘君は、私が絶対に護りますからね」
「うん。任せた」
今、腕の中にいる多々良浜さんのように、こうして受け入れてくれる人が、求めてくれる人がたくさんいる。
その事が、ゲーム外から転生して来た俺には何より嬉しい。
だから、俺はこれからも、このハニ学の世界で生きていく。
そんな事を密かに想いながら、俺はハニ学の門を後にするのであった。
<1章 了>
これにて1章完結です。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
いつか書いてみたいなと思っていた貞操逆転物ですが、書いてて本当に楽しかった。
そして、特報です!
タイトルにも既に入ってますが、本作は書籍化する事となりました!
よっしゃぁぁぁああああ!
詳細については、作者活動報告をご覧ください。
本作を御贔屓にしていただける方は、
ブックマーク、★評価よろしくお願いいたします。
2章もよろしくお願いします。
それではまた。




