第46話 あとはフィールドで
【3組学級委員長 荒崎麻衣──視点】
「あと1勝! あと1勝だよ!」
「次、私らが勝ったら2勝のストレートだ!」
クラスの子たちが控室で輪になって歓声を上げているのを、私は少し離れた外周から眺めていた。
「何はなくとも、この知力部門の勝利は荒崎委員長のおかげだよ!」
「ねっ! 実質、委員長一人で勝ったもんだよね!」
「いえ、私は別に……」
事実、あれは男子観客席で突如発生した男の子同士のイチャコラという、共学校の私たちですらひとたまりもない尊い光景に皆が焼かれたからだ。
だが、虎嶺と幼少期から接してきたおけげで男に多少の免疫があったおかげか、私だけが一早く復帰できた。
今回の勝利は所詮は、トラブルから勝ちを拾えたに過ぎない。
「ゴメンね……。うちら、委員長は寝室君の婚約者だから、無気力試合をするものだと思って辛く当たって……」
「本当にごめんなさい」
「でも、さっきの試合で鬼気迫る表情でテストに向き合ってる荒崎委員長は、間違いなく本気だった」
「3組男子の寝室君の婚約者の立場なのに、うちらのために本気で……」
クラスメイトたちは、涙ぐみながら私に感謝の言葉を伝えてくる。
その純粋な感謝が、私には少し痛かった。
私は、彼女たちが言うように、クラス入れ替えを阻止するために本番では無気力試合を行う予定だった。
私が今日、死力を尽くしたのは、他でもない。
自分のためだ。
昨日までの私は、ただの荒崎家の娘であり、その名家の家の生まれであるがゆえ男をあてがわれただけの女だった。
全てを流れに任せて、周りが期待する選択をするのが私の人生のすべてだと思っていた。
でも、今は違う。
私は昨日、生まれ変わった。
私は自分が欲するものに気づいてしまった。
今まで、虎嶺の尻拭いとして謝罪行脚をした時に接した男の子と、あの人は違った。
汚物を見るような目を向けられたり、土下座している頭を踏みつけたりしてこなかった。
ただただ優しい男の子。
でも、私は気づいてしまった……。
だからこそ、私はあの人になら滅茶苦茶にして欲しいんだという、己の欲求を。
今までの色の無かったモノクロの私の人生が急にフルカラーになったかのように鮮明に映る。
───そうか。これが悟るということ。
「勝ちに行きますよ皆さん」
「「「「おおおおお!」」」」
己の欲望のために勝ちを本気で取りに行っている事をおくびにも出さずに、私はクラスの士気を上げるために皆を鼓舞した。
ああ、この行いは不純なものです。
でも、私にはどうしても叶えたいものがある。
そのためには、偽りの先導者にだってなってみせましょう。
───橘知己様のために
◇◇◇◆◇◇◇
「へぇ。3組は体力部門にも学級委員長を出してきたか」
体力部門の試合会場への選手入場前の列で待機していると、隣の2組の女の子が話しかけてくる。
入学してまだ1か月も経っていないが、それでも高身長で目立つ彼女の事はよく知っている。
体力部門のリーダーである久留和さんだ。
「格下クラスの学級委員長だけが唯一、複数部門の掛け持ち出場が可能だから、その権利を行使したまで」
「その割にはエントリーが直前だったな。3組内では学級委員長のアンタと、その他クラスメイトで不和が起きてて、学級委員長は駒として数えられてないっていう事前情報だったが、どうやらブラフを掴まされてたみたいだな。うちの参謀が嘆いていたよ」
「そう……」
いえ。
実際、今日の今日まで、私とクラスの子たちが和解できていませんでした。
彼女たちとの不仲が解消できたのはつい、十数分前です。
と本当の事を言っても良かったですが、ここはそのままこちらを過大評価をしておいてもらった方がいいですね。
「私たち2組は必ず勝利し、橘君を護ります。作戦が失敗したと泣く参謀役の絵里奈ちゃんのためにも」
「ああ、2組も多々良浜委員長が体力部門に出場されるんですね」
「ええ。ここが勝負どころなので」
同じくワイルドカードを切ってきた2組の面々。
たしかにここが大事な局面だ。
総力戦の様相を呈し、相手にとって不足は……。
「ふへへ……」
「ふひひ……」
……ん?
久留和さんと多々良浜さん以外の2組の選手達は、競技開始直前にもかかわらず、軒並み腑抜けたしまりのない顔をしています。
完全に危ないクスリでもキメたような顔。
競技前のドーピングをミスったのでしょうか?
まぁ、どちらにせよ、この様子なら体力部門でも3組に勝ちの芽が十分にありそう。
「……あとはフィールドで」
「ああ、そうだな」
「絶対に勝ちます!」
そう言いながら、私たちは光の差すピッチへと足を踏み入れた。
第1章完結まであと3話。
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