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第44話 血染めのクラス対抗戦開幕

『これより。1年2組と1年3組のクラス入れ替え戦を執り行う』


 白の詰襟制服に身を包んだ一色生徒会長が高らかに野外ステージ上で宣言すると、花火が打ちあがった。


「お~。実際に見るのは初めてだけど盛大だな~」


 ゲームでもそうだが、このクラス対抗戦というのはハニ学の根幹をなす行事として、非常に学校側も重要視している。


 ハニ学は生徒同士を競わせることで、より淑女として高みに上れる仕組みとして自負しているため、故に予算もふんだんに計上されているが故の、このお祭り騒ぎなのである。


「私たちも身が引き締まる思いです」


 クラス対抗戦のオープニングを隣で鑑賞している多々良浜さんも気合いが入っている様子。


「みんな、ちょっと集まって」

「2組集合!」


「「「「はい‼」」」」


 多々良浜学級委員長の号令の下、集まり円陣を組んだクラスの女子たちの顔を俺は一人一人見渡す。


 一切妥協せずに己を追い込んだ者たちの、『自分たちが負けるわけがない』という自信が見て取れる。


 面構えが違う。


「ここまで、本当によく頑張ってくれた。2組のみんなが俺は大好きだ。だから勝ってね。戻ってきたらヨシヨシした後に打ち上げだ」


「っしゃあああ!」

「勝つぞぉぉぉおおおお!」


 うむ。

 素晴らしい団結力と士気の高さだ。


 やっぱりクラス対抗戦は盛り上がるな。


 何も心配いらないなと、俺は観客席の方へ向かった。




 ◇◇◇◆◇◇◇




「お、晴飛。観に来てたんだ」

「うん」


 男子専用の観客席に行くと、晴飛が出迎えてくれたので隣に座る。


「江奈さんは護衛か。ご苦労様」

「どうも……」


 なお、男子専用観客席と言っても、護衛は特別に入ることが出来る。

 しかし、相変わらず江奈さんは仕事を自分で抱え込んじゃってるみたいだ。


 今度、江奈さんの親友の荒崎さんを通して改めてアドバイスをしておくか。


「そういえば、3組男子の寝室君は今日は来ないんだね。主役の一人なのに」

「ん? お、おう。そうだな」


 晴飛が不思議そうに尋ねるが、俺は知らないふりを通す。


 まぁ、昨日あんなことがあったら学校は来れんわな。


「しかし、3組男子が欠席では、最終種目のお嫁さん力競技が成り立ちませんね」

「そうなんだよな」


 江奈さんの言う通り、クラス対抗戦で最重要種目のお嫁さん力には、男子も参加する事になっている。


 故に、クラス対抗戦は様々な特権を有する男子生徒でも、出席が必須となっているのだが。


「3組の学級委員長の荒崎さんはステージに居ますね」

「あ、本当だ」


 ステージでは今、最初の種目である知力部門の競技準備が進んでいる所だ。


 机と椅子が並べられている様子を見るに、おそらく今回の知力部門の種目の内容は一番オーソドックスなペーパーテストで点数を競うパターンのようだ。


 まぁ、1年生の初回のクラス入れ替え戦だから順当な種目選択だろうな。


「3組は知力部門にクラス委員長さんを投入するんだね」

「そうだな……」


 晴飛の疑問に対し、俺は別の意味で疑問を抱いていた。


 そもそも、荒崎さんはクラス内から総スカンを食らい、準備段階では完全にクラス内で孤立し、ハブにされていた。


 彼女の立場としては、3組がクラス入れ替え戦で負けた方が都合が良いからだ。


 それに、昨日はあんな事があったのだ。

 親から激しく説教を受けたに違いなく、昨夜なんてほとんど寝れていないはず。


 それなのに……。



 ───なんで、あんな野獣の眼光をしてるんだ。



 荒崎さんの目は、とても消化試合をこなすようには見えなかった。



『制限時間は60分。はじめ!』



 一色会長の号令により、一斉にステージ上にいる選手たちが問題文の冊子を開く。

 しばらくは、ステージ上を静寂が支配する。



 ───これ、ゲームだとすぐに終わってたけど、現実だときっちり60分かかるから、正直観戦しててもつまらんな……。


 いや、ステージ上では参謀の三戸さんを筆頭にクラスの子たちが戦っているのだ。


 ちゃんと応援しないといけないのだが、ペーパーテストという性質上、大きな声で声援を送るわけにもいかないし……。


 もどかしい。


「ねぇねぇ、知己くん」

「ん? なんだ? 晴飛」


 こういう所で気配りの出来る晴飛が、コソコソ声で隣の席から話しかけてくる。

 だが、声が小さくてよく聴こえない。


「これで聞こえるかな?」


 そう言って、晴飛がクラス対抗戦のプログラムが記載されたパンフレットを丸めて、俺の耳へあてがう。


「おう、聞こえるぞ」


 俺も晴飛に倣って、プログラムの容姿を丸めて筒状にして、晴飛の耳にあてがって答える。


「良かった。あのさ、知己くんは、こうやって女の子たちから奪い合いされるのって嬉しい?」

「なんだよ晴飛。来るべきクラス対抗戦への予習のつもりか?」


「そういうんじゃないよ。でも、もしクラス対抗戦をするとしたら、2組の知己くんのクラスと戦うことになるのか……イヤだな……」


 交互に筒を使って会話をする俺と晴飛。


 ただ、俺と晴飛では身長差があるし、コソコソ話のための筒はそんなに長くもないので、必然的に身体をピッタリ隣に寄せる必要がある。


「まぁ、今のところは2組のみんなは俺で満足してくれてるみたいだから、その点は心配なさそうだぞ。今は、3組からの攻勢の方に目が行ってて、上を目指す余裕も無いみたいだし」

「だとイイんだけど……」


 実際、クラス対抗戦を2組が1組に申し込むのは、数少ない、男が自分で決められない事項だからな。

 その点、共学校としてハニ学は男子にも、『励め』というメッセージを突きつけているのだ。


「まぁ、そこは考えても仕方ないだろ。それより、こうして2人でコショコショ内緒話してるのって何かいいな」


 その辺の現実や、不確かな未来については今、論じても仕方がない。

 既にゲームのシナリオを変えちゃった俺が言えた義理ではないが……。


 とりあえず今は、晴飛の不安を解消するのが一番と、俺は話題を変えた。


「そうだね。けど、耳がちょっと、こしょばゆい」

「フーッ」


「はにゃ⁉ や、やったな~知己くん」

「ハハハッ、ごめんごめん」


「もうっ」


 コショコショ内緒話ではなく、耳元に息を吹きかけられて変な声が出た晴飛が、ポカポカ俺の腕を殴ってくる。


 お助け男友達キャラの俺が、この世界でどう振る舞うべきかという正解は正直分かっていない。


 でも、晴飛が笑顔でいられる選択肢を選んでくれることを、俺はハニ学のゲームのファンとして、そして男友達の橘知己として願っている。


 そう、俺は全然痛くないポカポカを繰り出してくる晴飛に、慈しみの目を向ける。


「あの……お二方とも……」


「ん? どうしたの江奈さ……って!」

「江奈さん血が!」


 肩を震わせながら顔を手で押さえている江奈さんを見てギョッとする俺と晴飛。


 な、なんだ⁉ 寝室家の私設武装組織を単騎で撃退させた橘知己の俺の索敵をかいくぐって襲撃をしてきたとでも言うのか⁉


 いったい、何が起こって……。


 と周囲を急いで見回すと、クラス対抗戦の試合会場には幾人も、同様に血を流す女子たちが!



 くそ……。


 こ、これは……。

 更なる強大な敵が黒幕であるシナリオが動きだして……。


「こ……これは恥ずかしながら鼻血が出ただけなので心配ご無用です……。それよりも、お二人とも……。公共の場でそんな男の子同士でイチャイチャしないでください……。文字通り死人が出ます……。それに選手たちも……」


「「え⁉」」


 江奈さんに指摘され驚いた俺と晴飛が、観客席の周囲を注意深く観察すると……。



「男の子同士で楽しそうにコショコショ内緒話とか……」

「尊い……尊いね……」

「何話してるかはもちろん聞こえない。だけど、だからこそ、そこには無限の可能性がある……」

「この情景を生で観れただけで、この学校に来れて良かった……」

「あかん昇天してまう……」


 そこかしこで死屍累々だが、どうやら皆、鼻血を出して倒れ込んでいるだけな様子。


 って、うわ言の内容的に、俺と晴飛のことか⁉



「あ……。知己くん、ステージを見て」

「え? あ……」



 そこには、同じく鼻血を噴き、解答用紙を血で汚しながらも必死に問題にかじりつこうともがく、知力部門出場のクラスの女子たちが……。


 あ。

 知力部門のエースの三戸さんも撃沈してる……。



「こんな時でも集中力を切らさない……。流石は、麻衣ね……」



 ステージ上で唯一人、鼻血をぬぐいつつも問題用紙にかじりつく荒崎さんに対し、観客席の江奈さんは誇らしそうに親友を讃えた。


 これが後に学内で伝説となる、血染めのクラス対抗戦の幕開けであった。

あ~あ……。


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― 新着の感想 ―
そっちの血染めか…w やっぱり、薔薇の花よりは百合の花のほうが綺麗でいいと思うなあw
あっ・・・血染めってそういう・・・
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