第38話 そういう事を他クラスの女子にしないでください
「ったく、も~~~~! こっちだって、好きで学級委員長やってるんじゃないって~~~の!」
「分かります江奈さん……。代われるものなら代わってもらいたいですよね……」
「荒崎さんもそう思いますよね~。あと、こういうのクラスの女子から言われないです?『そうやって儚く辛そうな顔してれば、観音崎くんに気遣ってもらえて羨ましいわね』って。儚くしてるんじゃなくて、こっちは、アンタらからのストレスでヤツレてるんだっての!」
「あるあるですね。私の場合は~」
おおう……。
思った以上に溜め込んでたんだな2人は……。
愚痴の吐きあいが止まらない江奈さんと荒崎さんを眺めながら、俺はドリンクバーで取ってきたジュースのグラスに口をつける。
初対面の2人だから、俺が間に入って話題を振らなきゃと思っていたけど、冒頭に呼び水程度に話を振ったらその後は、2人ともノンストップである。
「あ、つい2人で盛り上がっちゃいました。ごめんなさい橘君」
「すいません……」
「いいよ、いいよ。ここはカラオケルームで防音も十分だし」
俺は、『どうぞ話を続けて』と笑いながら促すと、江奈さんと荒崎さんは再び愚痴の言い合いを再開した。
なぜカラオケルームにクラスも別な男女が集っているかというと、放課後に、1組学級委員長の江奈さんを3組学級委員長の荒崎さんに紹介して、2人で雑談をする機会を設けたのだ。
で、会場は声を出しても人に聞かれる心配のないカラオケルームとなった訳だ。
これは、ピアサポートというストレスへの対処療法だ。
ピアサポートとは、同じストレスや悩みを持つ人が集まって座談会を開くことだ。
世の中には、中々周りに共感してもらいづらい悩みという物がある。
例えば、違法薬物の前科がある人は、そうおいそれと違法薬物に関連した悩みを、周囲に打ち明けることはできない。家族相手ですら中々に難しいだろう。
それが、同じ悩みを持った人達での集まりならどうだろう?
『こういう時に、ふとヤクをまたやりたくなっちゃうんだよね~』
『わかる~』
みたいな、一般の人に話したら場が凍り付くような話題で盛り上がれるのだ。
自分の心の中だけで抱え込むより、外に言葉として打ち明けるだけでもストレスは随分と軽減されるし、同じ悩みを持つ仲間から共感を得られて、『自分は一人じゃない』と孤独感が解消される。
これらのガス抜きの結果として、違法薬物に再び手を出さずに済むという寸法だ。
「あ~、楽しかった。それにしても荒崎さんも大変ね。担当の男の子が我がままだし、家の事もあって。うちも大概だけど、名家の家も大変なのね」
「江奈さんこそ、1組というトップのクラスの舵取りが大変そうで」
「ねぇ、連絡先交換しましょ荒崎さん」
「ぜひ!」
そして、秘密の暴露をしあった2人は無二の親友になる。
学級委員長という責任のある立場上、周囲に弱音を吐けない2人にとっては、お互いが特に大切な存在となるだろう。
無表情だった荒崎さんに笑顔が戻って本当に良かった。
あ、そういえば。
「その連絡先って、うちのクラスの多々良浜さんにも教えてもいい?」
「「え……」」
何となく、同じく2組の学級委員長の多々良浜さんをハブにするのは気が引けたので、この場には居ないが俺は多々良浜さんにも連絡先を教えていいか尋ねる。
が、何やら2人の反応が芳しくない。
「ほら、うちの多々良浜さんも2組の学級委員長っていう同じ立場だし、男の俺が居ない場所で不平不満を言える場所があった方がいいと思って」
俺の前ではいつもニコニコしている多々良浜さんだ。
まぁ時々、俺が自由奔放にふるまうと怖いけど……。
そんな多々良浜さんだって、女の子同士で愚痴を言い合えた方が精神衛生上いいだろう。
前世で、子持ちの同僚が言ってたけど、ママ友たちの集まりには、お父さんは居ない方がいいそうだ。
なぜなら、夫の悪口をママ友たちが言い辛くなるから。
うむ。俺ってば、実に出来た相棒だ。
「「多々良浜さんに不平不満なんてあるわけないでしょ」」
あるうぇぇぇええ?
江奈さんも荒崎さんは、早速息ぴったりだなぁ。
紹介した甲斐があったってもんで……って、そうじゃない!
「なんで多々良浜さんをハブにするのさ⁉ 俺、そういうのは良くないと思うよ」
2人とも学級委員長としての自覚が足りないのでは?
「クラス男子との関係も、クラス運営も全てが上手くいってる人に、私たちの何が解かるっていうのよ」
「話題が壊滅的に合わなさそう……。橘氏との惚気話を聞かされるのは勘弁願いたい……。ストレス……」
「ええ……」
吐き捨てるように拒絶の言葉をはっきりと口にする江奈さんと荒崎さんに絶句する俺氏。
とりあえず、荒崎さんがストレスになるって言うんだから、ここは引き下がるしかないか。
そもそも多々良浜さんに連絡先を伝えて良いか確認してないから、この場は諦めるしかない。
女の子って繊細だな~。
「それにしても、カラオケルームでの愚痴吐き大会とはいいアイデアね」
「そうですね。次回もここでやりましょうか江奈さん」
「あやみ呼びでいいよ。私たち親友でしょ」
「じゃあ、私の事も麻衣と呼んでください」
うむ。
とは言え、可愛い女の子同士が認め合って親交を深めるというのはいいもんだ。
この親愛度合の高さは、1組と3組という、クラス対抗戦では今のところ直接対決はすることのない間柄だからという点も大きいのかも。
そういう意味では、1組と3組に挟まれた2組の学級委員長という立場では、2人と仲良くしづらいのかな。
うん、そういう事にしよう。
人間、合う合わないは絶対あるしね。
だから、多々良浜さんゴメン。
別のチャンスをうかがうよ。
「今日はありがとうございます橘君」
「随分と気持ちが楽になりました」
「俺は場を設けただけだよ」
礼を述べる江奈さんと荒崎さんに、俺は謙遜して答える。
「それにしても、護衛も連れずにカラオケルームに女と一緒というのは今後はやめた方がいいと思います」
「そこは、あやみに同意……。女はみんな狼」
多少落ち着いたからなのか、2人は俺の事を心配しだす。
まったく、こうやって直ぐに他人の事を思いやるところは2人とも何だかんだ学級委員長さんだな。
「2組の護衛は何をしているのか」
「ああ。俺、フラッと気づかれずに一人で抜け出せちゃうんだよね。最近は2組のみんなも半分諦めてるよ」
「それは護衛泣かせ……」
呆れたような声音で荒崎さんが俺の方を見やる。
そんな残念な物を見るような目で見るな。
「クラス対抗戦で勝ったら、クラスのみんなでカラオケに行こうかと思ってるんだ。だから今日、先に2人と来ちゃったのは2組のみんなには内緒ね」
そう言って、俺は人差し指を口元に立てて、シーッとする。
「……そういう事を他クラスの女子にしないでください」
「同意……」
江奈さんと荒崎さんはそう言うと、そっぽを向いてしまった。
きっと、勝手に俺の秘密に巻き込まれて迷惑だったのだろう。
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