第3話 ボク、男友達って初めてだから
「ふぅ。まぁ、初日はこんなもんかな」
ハニ学の敷地を正門へ向かって一人歩きながら、俺は自己評価の独り言を述べた。
『ちょっとクラスの女子たちには説教しとくから、橘は先に帰っておけ』
流石は教師という事で、俺の自己紹介に端を発した混乱状態からいち早く抜け出し、クラスの惨状を目の当たりにしたエッちゃん先生は、はしゃぐクラスメイト達に一喝。
シュンとなった所で、俺だけ先に帰るよう指示があったのだ。
こういう所も、やはり男子は特別扱いされているのだなと感じる。
「さてと。ハイヤーの迎車はこのアプリでっと」
男女比1:99世界では、無論男は特別扱い。
なんと男子は、通学には学校が提携しているハイヤーが使えるのだ。
無論、乗車料金は学校もち。
これは、男が電車やバスの公共交通機関を用いて通学なんてしたら、凄絶な痴漢に合うからという過去の教訓からの対応らしい。
この世界の男って大変なのね……。
まぁ、通学の満員電車に揺られなくて優雅にハイヤー通学なんて、社畜の夢だから何も苦にならんけど。
そんな事を考えながら校門の外に出ると。
「あ、あれ? 迎車ってどこから頼むんだっけ? 出発地がこの学校にならない……」
一人の男子生徒がスマホを相手に四苦八苦していた。
───主人公様じゃねぇか……。
特徴的な、男にしては小柄な体躯でサラサラヘアーの髪を持つショタ系男子という事で、俺はすぐにその生徒が主人公様の観音崎晴飛だと気づいた。
校門を出たところで何やってんだ? と思ったら、どうやらハイヤーの迎車のやり方が分からない様子だ。
しかし、これはちょっとマズい。
必死にスマホを弄っているからの視野狭窄に陥っているからだろう。
学校の敷地外に出てしまっている。
往来の女性たちが、主人公様の方をガン見し、何人かがにじり寄って来ている。
主人公のショタ系な容姿というのは、この世界の性癖にドストレートストライクなのだ。
故に、学校の外ではこういったトラブルに合いやすい。
ゲーム内でも、路上の痴女に見つからないように進む、怠いミニゲームが唐突に始まったりしてたわ。あのミニゲームは、ファンからも不評だったんだよな。
まぁ、学校外でのスネークゲームは序盤だけで、以後はヒロインたちが主人公様の周囲をがっちりガードしてくれるので問題ないのだが、向こうも今は俺と同じように一人だ。
「ねぇねぇ。君って一人? お姉さんといい事してあげ」
「よう! 待たせたな! ハイヤーの迎車を頼んでるから、学校の中で待ってようぜ!」
そうこうしている間に、にじり寄ってきた女の人が主人公様に声をかけてきたので、俺は咄嗟に会話を被せつつ、主人公様の肩を抱きすくめる。
「え、え⁉」
「ほら行くぞ~」
困惑するのを尻目に、俺は主人公様の腕をつかんで学校の構内へ踵を返した。
「ったく。危ない所だったぞ」
「ご、ゴメンなさい。ありがとうございます」
学校の敷地内に戻った所で、説教をくれてやる俺と、謝る主人公様。
「ぼ、ボク。観音崎晴飛って言います。1年1組です」
うん、知ってる。
君の事、すげぇ知ってる。
なにせ、ゲームは何周もしたからな。
「橘知己、1年2組だ。よろしく」
でもここは初対面のふりしないと怪しまれるという事で、俺は名を名乗った。
そういや、ゲームでも俺から主人公の晴飛に話しかけるんだったな。
「あ、同級生の人だったんですね。堂々としてたからてっきり、上級生の先輩だと思ってました」
「ああ、同じ1年だよ。という訳で同級生のタメなんだから敬語は不要だぞ。ええと、呼び方は晴飛でいいか?」
「う、うん。僕も知己くんって呼ぶね」
そう言って、晴飛は嬉しそうに笑った。
うーむ……。
やっぱり、晴飛は前世基準からすると男としてはかなりナヨッとした印象だな。だが、ショタ系男子だから、その雰囲気もキャラと合っている。
だから、学校の内外の女子から絶大な人気を得て、ヒロイン達を次々と攻略していくわけだし。
可愛い顔ってやっぱ、男でも得なんだな。
「迎車は、このアプリで。よく使う出発地はお気に入り登録をしておいて」
「ふむふむ」
機械音痴らしい晴飛は、俺が説明する操作を熱心に聞き入る。
しかし、機械音痴なんて設定、主人公にあったかな?
そういや、このゲームにはいっちょ前にパラメーターシステムが導入されていて、勉強や運動をして能力値を上げると、一応より女の子にモテる仕様だったな。
とはいえ、貞操逆転世界なので、女の子はチョロさ爆発なので、あまり意味のない代物だとファンの間では専ら死に要素として扱われていた。
そんな訳で、ゲームの序盤は今後の伸びしろのためにも、主人公の初期値は低めからスタートだったから、その辺のゲーム事情が関係しているのかも。
「ありがとう知己くん。助かったよ」
「いいって事よ。晴飛とは同じ希少な男同士なんだからさ」
「うん、仲良くしてね。ボク、男友達って初めてだから」
「ハハハッ! たしかに、男子生徒はろくに登校しない生徒が大半だからな」
「え、そうなの?」
「そうだよ。ハニ学は共学で、入学条件として一定日数の出席は義務付けられてるけどさ」
「そ、そうなんだ……」
ここで晴飛が寂しそうな顔をして、俺は、はて?と思う。
晴飛だって、高校生になるまでにこの男女比1:99の世界を生きてきたんだろうに、今更こんな男子をとりまく環境について、今日の今日でこのゲーム世界に転生してきた俺に教えられてるって変じゃないか?
普通、立場が逆な気がするが。
「じゃ、じゃあ知己君も明日は学校来ないの?」
まるで捨てられた子犬がごとく、しょぼくれた晴飛が上目遣いでおずおずと聞いてくる。
何だこれ……。
そんな表情を見せたら、女の子だったら即理性飛ばして襲ってくるぞ。
「いや、ちゃんと毎日来るよ」
「ホント?」
「俺は変わり者だからな」
まぁ、学校に男一人って、俺みたいな前世の記憶持ちのスケベ心満載じゃなきゃ、不安でいっぱいだろうしな。
ここは、主人公様の心を安定させるためにも、きちんと登校しないと。
まったく、主人公のお助け友人キャラの辛いところっすね。
いや、俺はこの世界を楽しんでいるから、微塵も大変じゃないけど。
「お、ハイヤーが来た。じゃあな晴飛。気を付けて帰れよ」
先に俺が迎車を頼んでいたハイヤーが正門前に到着したとの通知が来たので、俺はカバンを揺らして正門の方へ再び歩き出す。
「うん。知己くん、また明日ね」
そう言って晴飛は俺が見えなくなるまで手を振っていた。
───こういう所が主人公なんだよな……。
その様子を見て、初めての邂逅だったが、晴飛の真っすぐな所が主人公だよなと、俺は思い知った次第であった。
そして、
───よし。俺は女の子たちと遊ぶぞ!
と改めて安心したのであった。
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