第16話 仲睦まじい百合カップル
「ギリギリセーフでしたね」
「そうだね。さすがに1年生で、初回の会議に遅刻はよろしくないもんね」
生徒会室横にある会議室に俺と晴飛たち一行が着いたのは、会議開始予定時刻の1分前だった。
この会議に出席しているのは各学年、各クラスの学級委員たちなので、さすがに優等生ぞろい。
遅刻してくる生徒は皆無だった。
───やっぱ、視線感じるな。
遅刻間際に駆け込んできたという事を差し引いたとしても、明らかに会議のばにいる人たちの視線は俺と晴飛に釘付けだった。
いや、ガン見と言っていい。
「今年の1年から、男子の学級委員を入れるって本当だったんだ……」
「なんだそれ、超うらやましい……」
「とは言っても、1組と2組だけらしいけどね」
「今年の1年男子は期待されてるってことね」
「ふーん、エッチじゃん」
品定めするような視線が、2年、3年の先輩の学級委員たちから向けられる。
ちなみに、1年1組と我が2組以外は、女子生徒2人のペアで学級委員をしているので、この場にいる男は俺と晴飛だけだ。
「何か、ジロジロ見られちゃってるねボクたち」
「男が学級委員をするのは俺たちが初らしいからな」
1組と2組で隣り合った席に座った晴飛とコソコソ話をする。
「ねぇ知己くん。さっきは、江奈さんのこと、ありがとうね」
「何だ、お前もか。そのお礼なら、さっき江奈さん本人から頂戴したよ」
「あ、そうなんだ。さっき、会議室へ向かう途中に後方でコソコソ、ボクに内緒で2人で話してたもんね」
ん?
何か、晴飛の言い方に微妙に棘があるような。
はは~ん、さては。
「心配しなくても、お前の江奈さんを盗ったりしないから安心しろよ」
「……え?」
まったく、すぐに気持ちが態度に現れちゃって、子供っぽくて可愛い奴だな晴飛は。
「江奈さんの事が気になってるんだろ? 俺から見ても晴飛と江奈さんはお似合いだと思うぞ」
これこそ、お助け友人キャラの本領発揮だ。
さりげないアシストで背中を押してやることで、まずは江奈さんのことをゲットするんだ晴飛。
大丈夫。
ゲームでも江奈さんはクソチョロ学級委員長との二つ名のとおり、ゲーム初心者でも安心のヒロインとされていたから。
「……もういい!」
え、なんで晴飛の奴、怒ってるの?
まるで意味が分からん……。
あ、俺に好きな人を言い当てられて照れちゃってるのか?
こういう所、意外と晴飛はプライド高いんだな。
オーケーオーケー。
引くことを覚えている有能なお助け友人キャラの俺は、ここは大人しく引き下がろう。
まったく世話の焼ける主人公様だぜ。
「よし、これで全員だな。じゃあ第1回学級委員会議を執り行う」
晴飛と江奈さんとの関係についておせっかいオバさん的思考を巡らせていた俺を、現実に引き戻す声がかかった。
いや、別に俺にだけ向けた言葉ではないのだが、俺はこの人に興味があったので意識を声の主に向ける。
「私が生徒会長の一色玲奈だ。よろしく」
「「「キャーーー! 会長、カッコいい!」」」
何人かの生徒が黄色い声援を送る。
それもそのはず。
生徒会長の一色玲奈は男装の麗人だ。
生徒会長のみが着ることを許された伝統の白銀色の詰襟の制服は非常に目立つ。
なお、共学校のハニ学では王子様役たる男装麗人は規制されているが、唯一生徒会長だけは例外なのだ。
「静粛になさい。まったく……学級委員に選ばれた者の自覚がないのかしら」
喜色ばんだ場の空気が、冷たい注意により一気に冷やされる。
冷気の発生源を見ると、黒髪ロングに紫色のインナーカラーが入った冷たいまなざしの少女がいた。
「真子。そんな初回から厳しく行かなくてもいいんじゃないか? この場には入学したての新入生もいるんだし」
「そうやって、会長の貴女が甘やかすから……。っていうか、こういう場では森戸副会長って呼んでっていつも言ってるでしょ」
ため息をつきながら、森戸真子副会長がボヤく。
これぞ、ハニ学の名物。
一色生徒会長と森戸副会長の生徒会コンビだ。
やっと、生で見られたぜ。
「さて。この学級委員会議は、生徒会と各委員会の委員長、そして各クラスの学級委員で組織されている会議体だ。学級委員の君たちは、主に生徒会の会議で決まった事を、各クラスに伝達してもらうことが主な任務だ」
学級委員というと、クラスの中の運営だけやっていればいいと思いがちだが、意外と生徒会とのつながりもあったりするんだよな。
現世で学級委員を押し付けられた時にもあったあった。
「まぁ、初回の今日は大した連絡事項もないし、顔合わせの意味を込めて自己紹介をしてもらおう」
ふむ。
まぁ、そうなるよな。
まずは生徒会、各委員会の委員長、そして各クラスの学級委員と自己紹介していく塩梅かな。
まぁ、自己紹介と言っても人数も多いから、クラスと名前と、『がんばります』と一言意気込みを語る程度でいいだろう。
「じゃあ、1年1組の男子の君からだ!」
「え⁉ ボクからですか?」
突然のトップバッター指名に狼狽する晴飛。
「あの、一色会長。こういうのは、普通、会長たち生徒会の皆さんからなのでは……」
あからさまに困っている晴飛のために、俺が挙手して意見を述べる。
「お、この場面で即私に反論してくるとは、今年の1年は本当に活きがいいね。それも男の子で」
嬉しそうに一色会長が腕組しながら微笑む。
「ええと、なぜ彼から自己紹介をするかだけど、その理由はね……」
「理由は?」
「男の子が初めて、この会議に来てくれて皆のテンションが爆上がりしているからだ!」
あれ、これデジャブ……。
これ、入学直後の自己紹介でもエッちゃん先生が同じこと言って、俺が自己紹介のトップバッターだったな。
「男がトップバッターなのはこの学校の仕様だと?」
「そうだぞ、だから諦めろ。因みに2番目は君だぞ」
そう言って、一色会長は笑った。
「ふーん……。一色会長は、男の学級委員が来てテンション爆上がりなんですね」
「ああ、そうだな。学校開学以来の初の試みが、私が会長の代に行われて嬉しく思う」
一見すると、気さくな一色会長とのやり取り。
だが、俺の方は別の事を考えていた。
───そうだよな。この人は、そう言うよな。でも、この人って気さくな感じに見せて、自分の心の内は見せないからな。
ゲームで、この会長の面倒くささを知っている俺は、もう一人の面倒くさいキャラである森戸副会長の方を見やった。
森戸副会長は、一色会長のことを咎めるでもなく、心底興味が無いという風に無表情だった。
「で、では1年ですが自己紹介のトップバッターを務めさせていただきます。1年1組の観音崎晴飛です」
場の空気を読んだ晴飛が自己紹介を始めても、森戸副会長の無表情は変わらなかった。
そして、この場にいる他のクラスの学級委員や委員長たちが、晴飛のショタ美男子と性格の良さがにじみ出た自己紹介になごんでいる中、俺は一色会長と森戸副会長にすべての神経を集中させた。
男の子である晴飛の自己紹介に皆が全力で傾聴している中、一色会長と森戸会長は見つめ合っていた。
(ごめんな真子)
(ダメ。許してあげない)
口元の動きから辛うじて読み取れた2人の会話。
甘酸っぱい恋人同士の秘密の会話。
───さて……。この仲睦まじい百合カップルに晴飛はどうやって挟まっていくんだろ。
この、ハニ学でも屈指に攻略が難しい生徒会百合カップルの間に割って入ることについて、この時点での俺はまだ他人事だった。
そりゃ、男女比1:99の世界なら百合カップルも盛んだよね(ニチャア)
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