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第15話 俺ってそんな軽そうに見える?

「も~! 知己くんがあんな事するから、もう学級委員会議の開始時間ギリギリだよ!」

「わ、悪い晴飛」


「早く早く!」


 場をおさめるために晴飛と仲良しアピールしたのだが、かえって場を混乱させるだけに終わったので、俺は素直に晴飛と多々良浜さんに謝った。


 今の俺たちは、早歩きで会議室へ向かっているところだ。学内の廊下を走るのは校則違反だからな。学級委員がルール破りをする訳にはいかない。


 多少は遅刻してもいいような気がするが、根が真面目なのか晴飛と多々良浜さんが特に焦って先頭を進んでいる。


「あの……橘さん」

「ん? どうしたの江奈さん」


 最後尾につけていた1組の学級委員の江奈さんが、俺の制服の上着の裾を指先でチマッとつまみ、声をかけてくる。


「あの……。先ほどはありがとうございました」


 優等生然とした江奈さんが、少し恥ずかしそうにお礼の言葉をくれた。


「ん? ありがとうって?」

「1組の教室でのいざこざを仲裁していただきまして、ありがとうございます」


 あらためて、ペコリと頭を垂れる江奈さん。

 その所作は、やはり堂に入っている。


「ああ、それね。いいんだよ、あの場では部外者である俺が介入するのが一番、波風が立たないだろうと思ってさ」


 ああいう1組内での女の子同士のいがみ合いについては、晴飛が間に入ると、クラス内に遺恨が残りかねない。

 だから、あの場では部外者で、場の空気を強制的に終わらせられる他クラスの男である俺がでしゃばるのが最適解なのだ。


「……橘さんは軽薄に見えて、結構色々と考えていらっしゃるんですね」

「え~、俺ってそんな軽そうに見える?」


「はい。初対面で、いきなり私の頭をポンポンしてくる程度には軽薄かと」

「アハハ、たしかに~。家である華道の家元である江奈さんの目には、やっぱり俺みたいなのは軽薄に映るか」


「……私の家の事を、御存知なんですね」

「まぁね。江奈さんも大変だね」


 ゲームのメインヒロインの一人である江奈さんについては、当然バックグラウンドについてはある程度は知っている。


 江奈さんの家は、代々華道の家元で、今は江奈さんのお母さんが当代の家元だ。


 そのため、江奈さんは幼少期から厳しい教育やしつけを施されている、完全無欠の優等生だ。

 だから、こうしてハニ学でも学級委員長を任されているわけだが。


「別にそんな事は……こういう役回りなのは、小中学校でも一緒でしたし……」

「でも、家でも学校でも優等生してるのは大変でしょ」


「それは……」

「クラス内では学級委員の立場もあるから、江奈さんは中々弱みを見せられないでしょ? 辛い時は、俺の所に来なよ。愚痴くらいは聞いてやるからさ」


 そう言って、俺は江奈さんの頭を笑ってポンポンする。


「そういう事をスルッと女の子に言うのが軽薄だと言うのです……」

「アハハ! 俺、嫌われちゃってるな~」


 ポンポンされた頭に触れて顔を伏せる江奈さんに、俺は苦笑して見せる。


 愚痴の聞き役を買って出たのは、俺が序盤に原作ゲームと違う動きをして、晴飛が男子の学級委員になることになり、江奈さんへのクラスメイトからの当たりが予想以上に強くなっている事への罪滅ぼしみたいなものだ。


 まぁ、晴飛みたいな誠実な男を好きになる江奈さんじゃあ、たしかに俺みたいな軽薄な男はお断りだろう。


「橘君、江奈さん。立ち止まって2人で何を話してるんですか? 急いでるんですから、早く行きますよ!」

「悪い悪い、多々良浜さん。今行く」


 注意された俺は、慌てて歩を進めた。



「こんなの無理……。このままじゃ、好きに……」



 まだ歩き始めていない江奈さんを置き去りにした形だったので、彼女がポツリとつぶやいた言葉は可聴域の音を発していなかったので、当然ながら俺の耳には意味ある言葉としては届かなかった。

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