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第14話 なんで男のお前まで固まってるんだよ

「それじゃあ、今日は終わり~。気を付けて帰れよ~」


 授業が終わって帰りのホームルームもそこそこに、エッちゃん先生は教室をあわただしく出て行った。


「それじゃあ、行きましょうか橘君」


 皆が帰り支度をする中、多々良浜さんがノートとペンを持って俺を促す。


 エッちゃん先生は『帰れよ~』と言っていたが、学級委員の俺と多々良浜さんは学級委員会議に出席しなくてはならないからだ。


「ほいほい。あ、そうだ多々良浜さん。会議室へ行く前に、1組に寄ってもいい?」


「え、1組?」


 俺が発言した瞬間。

 一斉に、2組のクラスメイト達が帰り支度の手を止めて、こちらへ振り返り。


「あ、ああ。朝に、1組の学級委員の晴飛と一緒に行こうって約束したから。って……何かまずかったか?」


「いえ、そんな事は……」


 口では問題ないと言う多々良浜さんだが、その顔には焦りのような物が感じられた。

 まぁ、1組とはこの間いざこざがあったばかりだから、いい印象は無いか。


 とは言え、こちらにも事情がある。

 お助けキャラとしては、晴飛との関係は深めておく必要がある。


 さすがに、あんな部屋を見せられちゃな……。


 クラスの皆には悪いが、ここは我がままを通させてもらう事にして、1年1組の教室へ向かう。


「ここが、1組の教室……」

「なんか威圧感がありますね……」


 よそのクラスの教室のアウェイさに怖気づいているからではない。

 実際に1組の教室から発せられる威圧感が凄いのだ。


「何というか、凄い豪奢な作りですね……」

「そうだな……広さも明らかに2組の倍はあるよな」


 多々良浜さんもアングリ口を開けて驚いている通り、1組の教室はアンティーク調の扉で廊下はふかふかな赤い絨毯が敷かれている。


 何これ、上履きで入っちゃって大丈夫か?


 ゲームでも1組が優遇されていて、教室内がこういう設備だという事は事前に知っていたのだが、所詮はゲーム背景だったため、いざ実際の光景として目の当たりにするとやっぱり怖気づく。


「とりあえず入るか。おーい、晴飛。いるか~?」


 意を決して俺はガラッと1組の教室の扉を開けた。


「晴飛さま。お茶が入りました」

「晴飛さま。授業でお疲れでしょう? フットバスを用意しました」

「晴飛さま。肩と首を揉ませていただきます」


 教室の中は、外の威圧感同様に豪奢なものだった。

 ここだけ、ファンタジー世界の学園かな? というくらい、教室のインテリアが違う。


 広さもやっぱり我が2組より段違いに広い。

 クラスの生徒数は一緒なのに……。


 だが、そんな広い教室なのに、一か所に人が固まっている。

 その人だかりの中心は、やはり晴飛だ。


「あ、知己くん」

「随分と人気者だな晴飛」


 言っても、まだ入学してから1週間も経っていないのに、もうこんなクラス内を掌握してキング状態なの?


 カワイイ顔してるのに、流石は主人公様やで。


「あはは……」


「観音崎くんは、これから学級委員会議があります。皆さんも、それぞれの委員会や部活動へ向かってください」


 苦笑する晴飛と、すかさず、1組の女子学級委員の江奈さんが晴飛の取り巻き達をひきはがしにかかる。


「ちっ、小うるさいのが来た……」

「勉強だけが取り柄の頭でっかち女が偉そうに……」


 ブツブツと文句を言いつつ、1組の女の子たちが離れる。


「私が学級委員であることに不満があるなら、いつでも相手になりますよ」


「面白いですわね。我が1組の学級委員長様は売られたケンカはいつでも買うってわけですね」


 バチバチと、江奈さんと1組女子の間で火花が散る。

 女子こえぇぇ……。


 っていうか、頭でっかち女って、江奈さんのこと?

 あんな、聞えよがしに悪口言うんだ……。


 ゲームでの主人公クラスである1組は、『みんな仲良し~♪』みたいな感じだったのに、裏側ではこんなんなの?


 原作ファンとしては、ちょっとショックだ……。


「ええと……あの……」


 晴飛も困惑したように、オロオロする。


 晴飛としては、クラスの子たちと学級委員の相棒の江奈さんのどちらの肩を持っても角がたつ状態のため、身動きが取れないようだ。


 やれやれ。

 じゃあ、ここはまたしても、お助けキャラの俺の出番ですか。


「ほらほら、俺たちの前でケンカは止してよ」

「んな⁉ 2組の貴方は関係……ないでしょ……」


 さっきまで威勢が良かったのに、江奈さんに対峙してた子は男の俺に話しかけられて、尻すぼむように勢いを失う。


「みんな可愛いんだから、そんな怖い顔しないの」


「んな⁉ かわ……」


 きわめて軽薄なふりをして、俺は江奈さんと、対峙する3人の間に笑顔で割り込んだ。


「晴飛だって、クラスの皆が仲良しの方がいいよな?」

「え⁉ う、うん、そうだね⁉」


「俺たちみたいに、な!」


 晴飛の返答へ被せるように、俺は晴飛の肩を抱きよせて、仲良しアピールをする。



「「「「「おぎゃあああぁぁぁぁああああ‼」」」」」




 遠巻きに見ていた他の1組の女の子たちから悲鳴が上がる!


 この世界では、男同士の絡みというのは、ほとんど発生しない。


 仮に男同士の交流があったとしても、圧倒的に少数派な男が羽根をのばすために、女子がいない場所で行われる。


 故に、こうして男同士が仲良くじゃれ合うシーンというのは、この世界においては伝説やフィクションの世界の代物でしかないので、この過剰反応なのである。


 やった! 真剣ゼミでやったBL単元の問題がテストに出たよ。


 とは言え……。


「こりゃ、ちょっと刺激が強すぎたか……」


 1組の女の子たちは、皆茫然自失状態なのはもちろんだが、1組学級委員の江奈さんも、ついでに俺の相棒の多々良浜さんも再起動に時間がかかりそうだな。


「何か、思ったより大事になっちまったな晴飛……ん? 晴飛?」


 抱き寄せられた晴飛に声をかけるが、反応がない。

 見ると、晴飛も俺の腕の中で固まっている。


「って、なんで男のお前まで固まってるんだよ」


 腕の中に抱く晴飛は、華奢な身体を強張らせて固まっていた。


 前世の俺の感覚だと、男同士でこんな身体的にくっついてもキモいだけなのだが、晴飛は例外で、ちっともそういった違和感や嫌悪は感じなかった。


 男のくせに、何か女の子みたいないい匂いがして、ちょっとドキッとしたのは内緒だ。

ブックマーク、★評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
当初からでしたが、こりゃ性別疑惑が出ちゃいますねえ。 真実はいかに。
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