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第13話 知己くんも男の子だもんね……

 いつもより早く登校した朝。

 送迎の車から降りた俺に、朝日が暴力的に降り注ぐ。


 別に俺がヴァンパイアなわけではない。

 徹夜してしまったから、目にきているのだ。


 昨晩は結局 、秘密の部屋で資料を読み込んでしまった。


 あと、どうにも身体がウズウズしてしまい銃のメンテナンス作業もやった。

 なんで俺が、銃身の汚れを取る洗浄キットの銃口径に合わせた適切なサイズについて熟知してるんだよ……。


 これは、橘知己として染み着いた記憶によるものなのだろう。


 そもそも、元の橘知己の人格はどこへ行ってしまったのか?


 という点を考えると若干ホラーだが、一部はこのように記憶が残っている事を考えると、完全に橘知己としての人格が消えてしまったわけではないようだ。


 いつかは、この身体の主導権を取り返されて、俺の人格の方が消えて失くなることだってあり得る。


 …………。


 いや、考えるのはよそう……。


 既に、ゲームの世界への転生という人知を越える出来事が起きているのだ。

 なるようにしかならないし、抵抗できるかも分からない事象を今、思い悩んでも仕方がない。


 目下、俺が対応すべき最大の事項は、どうやら俺は本気で主人公をサポートし、ヒロイン達の情報を集めなくてはならないという事。


 ここを怠ると、原作ゲームの展開から大きくズレてしまうという懸念があった。

 主人公の外周で、大人しく好き勝手しようと思っていたのだが、宛てが外れた。


 そもそも、よくよく考えてみたらおかしな話なんだよな。


 2組所属の男子である橘知己が、他クラスである1組のヒロインについて主人公よりも詳しくて、アドバイスをするって。


 ゲーム上では、ただのお助けキャラだから深く考えてなかったけど、橘知己は並々ならぬ手間や労力を払って、ヒロイン達の情報を主人公のために集めてくれていたんだ。


 だから、調査のためには身体を鍛えたり、ハンドガンやアサルトライフルなんかも必要なんだよな、うん。


 そうに違いない!


 違いないったら、違いない!


「おはよう! 知己くん!」

「ぬおっ⁉ お、おう、おはよう晴飛」


 俺が心の中で銃の存在を強引に肯定していたら、背後からいきなり声をかけられてビックリした。


 振り返ると、晴飛が今日の天気と同じお日様笑顔で立っていた。


「どうしたの知己くん? 体調でも悪いの?」

「え? あ、いや……」


「保健室行こうか? 付き添うよ」


 身長差からくる上目遣いで、心配そうに俺の事を案じて見上げる晴飛。


 ……この、あざと可愛さ。女の子は秒で墜ちるから、俺が情報を集めて晴飛にアドバイスするとか必要ないんじゃねぇの?


「別に大丈夫だ。ちょっと昨晩夜更かしし過ぎて眠いだけだ」

「そう? ならいいけど……。そんな夜遅くに何してたの?」


「それは……」


 正直に、お前の今後のハーレム展開のために何ができるかを資料を読み込みつつ考えていたり、銃のお手入れをしていたからとは言えんよな……。


 よし、ここは。


「男として重要な夜の試し打ちに時間を要しただけだよ」


 色々と誤魔化すために、下ネタトークを繰り出してみる。


 男子の数がそもそも少なく、その男子のほとんどが草食系男子なこの世界において、男同士の下ネタトークがどれだけ繰り広げられているのかは分からないが、貞操逆転世界に転生した主人公の晴飛は色んな女の子を手玉に取るような奴だ。


 きっと、晴飛は女の子のことを現世の俺並みに好きなはずだろうから、そりゃもう食いついて。



「試し打ち……。そうだもんね……知己くんも男の子だもんね……」


 そう言って、晴飛が赤くなって俯く。


 あ、あれ?

 何かすごく初心(うぶ)な反応が返ってきたぞ。


「晴飛はしねぇの?」


「し、しないよ、そんな恥ずかしい事! もうっ!」


 もしかして、晴飛って下ネタ系の話は得意じゃないのか?

 これは意外だ。


 でも、意味は分かってるっぽいから、性知識がまるでないって訳でもないようだが、どちらにせよ、こういうのは個人差もあるし、あまり深入りしないようにしよう。


「そ、そうなんか……。で、晴飛は最近は学校の方はどうなんだ?」

「何それ、思春期の子供に話しかける父親みたい」


「い、いや……。晴飛は下ネタ苦手そうだから、話題を早く変えなきゃと思ってな」

「そうなんだ。ボクの事、気遣ってくれてありがと」


 俺の焦り様に、晴飛がクスクスッと笑う。


「昨日の1組では学級委員決めをやったよ。結構大変だった……」


 苦笑いする晴飛を見るに、どうやら、女子学級委員の座を争って激しいバトルが起こったのは1組も同様だったようだ。


「ちなみに1組の学級委員は男子はボクで、女子は江奈さんになったよ」

「流石はくそチョロ学級委員長。こっちの世界でも、学級委員長の座を射止めたか」


 男女の学級委員制度が1学期からいきなり始まるという歪みはあるが、どうやらゲームのシナリオの大勢には影響はない様子で一安心だ。


「くそチョロ?」

「あ、いやこっちの話。江奈さんは入試首席だったから、学級委員は順当だよな。因みに2組の学級委員は男子は俺で、女子は多々良浜さんだ」


「え! 知己くんも学級委員やるの⁉」

「ああ。折角の機会だしな」


「やったぁ! じゃあ、学級委員会議でも顔を合わせられるね」


 弾む声で晴飛が喜びを露にする。

 同じ男子がいて心強いんだろうな。


 男子の学級委員をきちんと選定するのは、今回が初の試みらしいし、1人じゃ心細いもんな。


「そういや、生徒会や各委員会の委員長が出席する会議に、各クラスの学級委員も出席するんだったな」


「うん、会議は今日の放課後だよ。折角だから一緒に行こうよ。じゃあ、よろしくね!」

「おう。よろしくな」


 晴飛は放課後の約束をして、意気揚々と自分の教室の方へ駆けて行った。

 晴飛は無邪気に笑っていたが、俺の方は別の事を考えていた。


 このゲームのヒロインの一人である、江奈あやみに接触するチャンスだと。


 そして、もう一人。

 生徒会関係のあのキャラたちとも……。

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お助けキャラが銃振り回して、ってのはないよねえ…… さて、何をやってたんでしょうねえ。
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