29話 喧嘩
遅れてしまいすいません
29章 喧嘩
午前6時。
北斗が家から出てついたのは、彗の家だった。
北斗は彗の家に入り、彗の部屋へと向かった。
コンコンコン
ドアをノックした。
「あ、どうぞ」
彗の声が部屋から聞こえてきた。
北斗はドアを開け彗の部屋に入った。
「あぁ、北斗。どうしたんだ?こんな時間に」
彗はベットで寝転んでスマホをいじっていた。
「ちょっとな、どうしても確かめたいことがあって」
北斗は俯いていた。
「な、なんだよ、急に。そんなシリアスな雰囲気出して」
彗は北斗の深刻そうな雰囲気を読み取ったのか、ベットから起き上がった。
すると、北斗は上着のポケットからスマホを取り出して操作し始めた。そして、彗の方にスマホの画面を向けた。
「!!!」
彗はその画面を見て、目を見開いた。
「これ、お前だよな、彗。いや、【コメット】」
北斗は真剣な眼差しで言った。
「…な、何言ってるんだよ。俺、【コメット】っていう名前のユーザーなんて知らないぞ」
彗は馬鹿馬鹿しいとでも言うようにあしらった。
「そうか、じゃあ、率直に言おう。俺は【クロア】だ。これでも知らないふりをするのか?」
北斗は彗の目をじっと見つめた。
彗はその圧力に押された。
彗は俯いた。
「…………そうだよ。俺が【コメット】だよ」
彗は苦しそうな小さい声で言った。
その瞬間、短くも長い沈黙が訪れた。
「なんで__、なんで!文武両道でスペックよくて何もかもできるお前がこんなことを始めたんだよ!」
先に言葉を発したのは北斗だった。
北斗の言葉には悲しみが入っていた。
「なんでって、お前にはわかんないだろうな」
彗はまだ俯いたままだった。
その言葉には諦めのような声が入っていた。
その言葉に北斗は怒鳴りそうになったが、抑えて息を整えた。
「そうやって、俺を突き放すんだな。いつも俺に一線引いてるお前は」
北斗は寂しそうな表情になった。
そんな北斗を見ると、彗は再び俯いた。
「俺は一線なんて引いてるつもりはない。ただ、勝手に俺とお前の間が空いていくだけだ」
生気のかけらもないような言葉が発せられた。
「つまり、お前と対等な相手がいないから孤独を感じているのか?」
「違う」
彗の目が細まった。
「じゃあ、お前はこんなほとんど引きこもってるような俺を惨めに見てるのか?」
「違う!」
彗は爪が食い込むほど拳を握りしめた。
「なら、なんなんだよ」
北斗は冷静に話した。
「…………」
彗は口を開かない。
「なぁ、彗」
北斗は彗を心配そうに見ている。
「…………」
これでもまだ彗の口は動かない。
「いい加減、自分のことを話せよ。話してくれないと何もかもわからないじゃないか」
その後、少しの無言状態が続いた。
そして、彗は口をようやく動かした。
「お前に何がわかる。昔からなんでもできて、それを自覚してすらいないお前に。」
彗はバッと顔をあげて睨んだ。
「俺が優秀?そんなわけないだろう?確かに頑張ればできるかもしれない。でも、それをやってないなら優秀とは言えない。それに、彗こそ優秀じゃないか。何をそんなに言ってるんだ?」
北斗は彗の言葉を訂正した。
「確かに学校でなら俺は優秀かもしれない。でも、お前はそういう優秀じゃないんだ。社会に出ても何も困らないような、研究者でもなんでもなれるような。そんな、天才だ。それをわかっていたからこそ、お前の隣が惨めだった。だけど、それよりも高校生になって学校が別れて嬉しいと思ってしまう自分に対する辛さ。どれだけ苦しいか、お前にはわからないだろう?」
彗は自分を責め立てた。
「なんでそこまで自分を責める。例え俺が天才だとしても、気にせずに自分の道を歩めばいいじゃないか」
北斗は彗がなぜそこまで悩むのかわからなかった。
「それができないから言っているんだ。昔からお前と比べられ、周りに認めてもらうには、褒めてもらうには、お前を抜かさなければならないと物心ついた頃からずっと思ってた。だから、そうじゃないとわかっていても無意識でお前と自分を比べてしまう。それでも、俺はお前に勝てる自信が無い」
彗はこれまで溜め込んでた思いを吐き出すかのように話した。
「それなら、俺に勝負を挑めば良かったじゃないか!それを俺に話せば良かったじゃないか!それくらい、俺は受け入れるというのに」
「話してなんになる!どうせ話したって自分が惨めになるだけだ」
彗は顔に影を落とした。
北斗はその様子を見て、何か気づいた。
「彗。お前、もしかしてわかって無いのか?」
「何がだ?」
「お前はもう俺に勝っている」
北斗はスッパリと言い切った。
「え?」
彗は意味がわかっていないようだ。
「スペックは俺よりもいい。文武両道で、運動不足の俺とは違う。それに、あんな量と性能のウイルスは俺には作れない。作れたとしてもあんなに大量には作れない」
「え?本当に?」
彗は北斗の言葉が信じられないのか疑問を浮かべた。
「あぁ、当たり前だろ?俺は彗に負けてることたくさんあるぞ」
彗に負ける。それは北斗にとって当たり前なことだった。
だが、それは彗にとって心の緩和剤のようになった。
彗は前屈みになり、両手で顔を覆った。
「北斗」
「ん?」
「ありがとう」
北斗は彗のその言葉だけで理解した。彗はもう大丈夫だということを。
北斗はその言葉に微笑みで返した。




