23話 またもや不安要素が
23章 またもや不安要素が
北斗は長い一瞬、一瞬の時間を過ごした。
何が起こったかわからなかった。
北斗は少しの恐怖を抱えながら原因を調べ始めた。
調べるのにも何かが邪魔をして時間がかかってしまった。
おそらく、というかほぼの確率で何者からかウイルスを送り込まれたのだろう。
これは憶測でまだ確定と思われる情報は見つけれていない。
1時間ほどたって、ようやく最低限のことはわかった。
ウイルスを送ってきたのは、【コメット】というものだった。
アイコンは天使を表す天使の輪、白い羽、そして、真ん中に小さい黒い球体のようなものがあった。
そいつからこのうざったいウイルスが送り込まれた。
ウイルスの効能は操作にバグをきたし、だんだんと増殖していき、最終的にパソコンの情報をネットに全て載せてしまう。
そんなことをされたらたまったもんじゃない。
北斗は集中を途切れさせずに、必死になって対処した。
けれど、ウイルスを除去することは叶わず、今の状態を保つくらいしかできなかった。
それから、2時間ほどぶっ通しで頑張り、パソコン内の情報漏洩は防ぐことができた。
だが、まだウイルスによるバグは直せていない。
その時、北斗の部屋のドアが開く音がしたが、北斗はそれどころではなく、音に気づいていなかった。
「兄さん、もう寝ないと。もう夜遅いから」
搖斗は少し目をこすりながら言ってきた。
だが、そんな声も北斗には届かず仕舞いで、ずっとパソコンに目を向けて、キーボードを打ち続けている。
その状態を見た搖斗は何かがおかしいと気づいた。
そして、北斗がずっと見ている画面を覗き込んだ。
そこには、大量のこんがらがった情報の紐の塊と、ウイルスによるバグがあった。
「わっ!何これ!やばいじゃん!これ、どうしたの?兄さん」
搖斗は画面を見て驚いた。
「ウイルス、【コメット】。今、対処中」
北斗は集中が切れないように、単語だけ途切れ途切れに話した。
その言葉を聞いて、搖斗は全てを理解した。
搖斗はすぐに部屋を出て、どこかに行った。
北斗は今までで身につけたあらゆる技術をどんどん使っていった。
それでも、まだ、ウイルスは消えない。
まるで、空気でも切っているかのようだった。
搖斗がパソコンを抱えて戻ってきた。
「兄さん!そのウイルス、半分肩代わりするから、こっちに送って」
搖斗は自分が相手をハッキングできないとわかり、ウイルスを半分受け取るつもりらしい。
まだ搖斗は少し力不足だが、今はそんな悠長なことを考えてる場合ではなかった。
そのため、北斗は少し時間をおいて、搖斗がウイルスにやられないように情報が奪われないように安全装置も一緒に送った。
搖斗がウイルスを半分肩代わりしてくれたことで、まだパソコン内にはウイルスがあるものの、一時的にウイルスを防ぎこむことに成功した。
その後、搖斗の半分のウイルスも防ぎこみ、休憩することにした。
何時間もパソコンに向き合っていた上、夜中だったこともあり、北斗と搖斗はぐっすりと眠った。
北斗と搖斗が起きたのは、夕方の4時ごろだった。
北斗はパソコンを確認した。
どうやら、ウイルスはまだ防げているらしい。
だが、防げていると言うものの、最高でも後3日しか持たない。
その間に、【コメット】とか言うクソ野郎をハッキングしなければならない。
そう考えたら、ため息が出た。
北斗は、パソコンで相手をハッキングする準備を始めた。
【コメット】というやつがどのくらいの技量なのかもわからない。
それでも、生半可な実力でないことくらいはわかっている。
この送り込まれたウイルスがそれを物語っている。
だからこそ、生半可な準備では絶対に負けてしまう。
北斗は一層、力を入れて準備を始めた。
準備がようやくできたころ、スマホを見ると、通知が何件か来ていることに気づいた。
俺のスマホから通知が来ることはほとんどない。
そもそも、ラインを繋いでいるのが、家族と、彗、如月だけだからだ。
家族からラインが来ることはほとんどない。1年に一回くらいしか来ない。
彗はそもそも、家が隣なため、ラインで話すことがない。
つまり、如月一択だ。
また[オワド]の誘いだろうか。
でも、こんな夜から?
俺はスマホを手に取り、如月のラインを開いた。
すると、何回か電話がかかって来ていた。
そして、俺が電話に出なかったために、夜の8時に再び電話をくれという内容のメッセージがあった。
もうすぐ時間は8時になる。
何か胸騒ぎがする。
こんな忙しい時にこんな胸騒ぎがするなんて、不吉だ。
何もなければいいのだが、。
俺は如月に電話をかけた。
着信音が聞こえ、すぐに如月の声が聞こえてきた。
「もしもし、黒須だけど、。」
俺は胸騒ぎを無視して、何気なく喋った。
『あ、黒須くん?こんな夜にお願いしてごめんね』
如月の話し方もいつも通りだ。
よかった、この胸騒ぎは当たらなかった。
「大丈夫。それで、何か用があったのか?」
俺は緊張と警戒をといて、話し始めた。
『うん。黒須くん、【クロア】って知ってる?』
如月は少し話のトーンを落とした。
それにより、真剣な話の雰囲気となった。
北斗はそれよりも、如月から【クロア】と言う名前が出てきたことに驚いた。
確かに、【クロア】は今やほとんどの日本人が知ってる有名人だ。
だが、親が警察で、警察になろうとしている如月からその名前が出ると少し怖くなる。
「知ってる。有名だし」
俺は勘ぐられないように、感情を表に出さないように頑張った。
『じゃあさ、【クロア】の正体はなんだと思う?』
如月はどんどん話を深くしていく。
この状態で話を変えたら逆におかしく見えるだろう。
「パソコンの技術が必要な仕事についていた人、とか?」
俺は客観的に凡人の考えを思いついた。
これで、怪しまれる可能性はないだろう。
『僕はね、その考えは違うと思うんだ。』
如月は優しく、それでいて少し恐怖を感じるような怖さがあった。
「そうなんだ」
北斗は早くこの話を辞めたいと心の中で叫んでいた。
『【クロア】は学生だと思うんだ。だってさ、活動時間は仕事をしているならありえないし、やり方や話し方、全て大人とは思えない。そもそも、犯罪なのに、こんなことをわざと見せびらかすようなことはしない。子供なら、不登校、僕らのような通信制の学校に通ってるのなら、納得がいく。パソコンも子供ができないわけではない』
如月は予想をしている。
その予想は当たっていた。
でもなんでこんな話を今、俺にするのだろう。
すごく嫌な予感がする。
「そうなんだ。それで、それがどうした?」
俺は知らないフリを突き通す。
でないと、少年院に入れられてしまう。
『この情報だけでは詳しくはわからなかったんだ。でもね、この前有益な情報が入ったんだ。これ、秘密情報なんだけど、毎日毎日毎日毎日、その有名な【クロア】が警察の情報網に潜り込んでくるんだ。まぁ、それで、この前僕の家族についての情報をとってきたんだ。そんなこと初めてでさ、その日って黒須くんと初めて[オワド]をプレイした日なんだよね』
如月は柔らかい声質なはずなのに、話を聞いていると、背筋がスゥっと凍りついたようになった。
「俺が【クロア】だって言いたいのか?」
俺は冷静なフリをしながらも心拍数は過去にないくらいに上がっている。
『う〜ん、今のところなんとも言えないんだけど、僕はそう思ってるんだ。だってさ、ゲームが上手い、つまり、パソコンの操作が上手い。通信制だとはいえ、1ヶ月に一回学校にくるだけで許される賢さ、ほとんど家にいると言うこと。全て、【クロア】ということに当てはまるよね。でも、黒須くんが【クロア】だと確実にわかるまではちゃんと仲の良い友達でいるつもりだよ』
その時、如月の黒須への認識がゲーム仲間から、警戒すべき友達へと変わったような気がした。
如月は否定は許さないのか、そこで電話を切った。