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第十話 青春?


「……」


 休み時間は寝たふりに限る。私は机に突っ伏し、死んだように動かなくなった。

 この時私の脳内は宇宙へと繋がっていた。なぜ宇宙ができたのか、人間が生きる意味とは、宇宙人はどこにいるのか……、なんて考えないと退屈なので考えるまでのこと。別に宇宙に興味ないし……。


「そろそろ授業が始まります。席についてください」


 もうこんな時間かー。六時間目はホームルーム。なんでホームルームって言うんだろう。


「今日は六月の臨海学校について話します」


 臨海学校という言葉を聞き、教室がざわつき始める。私は特に楽しみでもなんでもないのだが、みんなは楽しみにしているみたいだ。


「持ち物はー……、日程は……」


 眠い。先生の話がスワヒリ語か何かに聴こえる。意識が遠のく。


「では、班を決めましょう。好きなように組んでいいですよ」


 それを聞いて一気に目が覚めた。


『好きな人と組んでいい』


 ぼっち語で死を意味する言葉。私は学校で友達がいないので当然班作りは難航することが確定。終わった……。

 次々に班が決まっていく。私は慌てふためくことしかできない。


「ああ……」


 地獄絵図、絶望、そのような言葉がふさわしい。そんな時に神が降臨する。


「琴音ちゃん、私のところ入りませんか?」

「き……、黄田さん……」


 学級委員長、黄田楓(きだかえで)さん。優しくてしっかりしてて可愛い女の子。そう、私とは大きくかけ離れた存在。その証拠に、私ごときを誘ってくれるのだ。


「あ……、ありがとうございます……」

「はい、ぜひとも」


 ひらひらとポニーテールを揺らして私に笑顔を見せる。ああ、可愛い。私もこんな風になりたい……。神様仏様、黄田様……。


「それではこちらへどうぞ〜」


 黄田さんに誘導され、班作りの輪の中へ入る。他の班員はギャルっぽい子もおっとりしてそうな子もいて個性がはっちゃけすぎと言ってもいい。


「琴音ちゃん、よろしくお願いします」

「あ……、こ、こちらこそ……」

「班員の子たちも紹介しますね」


 一通り全員を見渡す。


「よっす」

「よろしくねー」

「よろしくー!」


 みんな結構フレンドリーで接しやすそう。よかったあ……、地獄の釜の中に落とされなくて……。


「さてさて、琴音ちゃんも入ったことですし、早速活動について決めていきましょー」


 この時間では臨海学校での活動について話し合う。例えば、係を決めるだとか、バスの席決めだとか……。しかし彼女らにとっては退屈なことのようである。すぐに別の話題へと移る。


「あたし、海めっちゃ楽しみ」

「私もー」


 この辺に海はないからテンションが上がるのも無理はない。私だって海を見るのは久しぶりだ。だがなぜだろう、この温度差。


「海水浴、久しぶりですねー。琴音ちゃんは?」

「え?」


 まさか私に話が回ってくるなんて……。周りの子たちも私の方に注目していて育ちの良さを感じるが、その優しさは私に取って凶器。どうする……。ここで下手なことを言ったら死。


「えっと、その……、私も……、楽しみです……」

「琴音ちゃんも? やったー!」

「よかったねー」


 なぜか私の一言でみんなが喜ぶ。なぜなのか、そのノリが私には理解できない……。

 その後もひたすら盛り上がっては頷くだけの時間が過ぎていった。一人は孤独で苦痛、大勢だとその中で余って苦痛だと分かった。


 ☆


 放課後が訪れ、ヴァイスと一緒に家へと歩いていた。


「よかったね、琴音にも友達ができて」

「いや、あれを友達と言っていいのかな」

「まあまあ、よかったね」

「良くない!」


 あの時間、ヴァイスは静かにしていて私を煽るようなことはしなかったが、今になって皮肉を言い始めた。ぼっちで何が悪い!


「まあ、臨海学校とかは行ってみると意外に楽しいものだよ?」

「やっぱり……、そうなのかな……」


 ただでさえ馴染めていないのに、新しい環境に飛び込むなんて恐ろしいことこの上ない。不安で胸がいっぱいだった。魔法少女になる時だってそう。私は新しいことなんて何もせずに穏やかに過ごしたいのに……。


 ☆


 数週間後、臨海学校に行く日がやってきた。しぶしぶではあるものの、ヴァイスは付いてこないしバスの隣の席は黄田さんという好条件。足は軽快に動く。バスに乗り込み、隣では黄田さんが嬉しそうに鼻歌を歌っている。


「琴音ちゃん、何が一番楽しみですか?」

「えーと、釣りかな」


 釣りはボーッとして静かにしていても違和感ないからぼっちがあぶり出されなくて済むから、なんて言えない。別に釣りは好きではない。魚を食べるのは好き。


「私は海水浴。泳ぐのが楽しみです!」

「あっ、うん」


 どうしよう、会話が盛り上がらない。私の会話の引き出しはほとんどない。その数少ない引き出しから下手なことを言うと失敗するのも分かっている。気まずい時間を過ごす。気まずいと思っているのも私だけかもしれない。


「あっ、見えてきましたよ」


 臨海学校の建物が見えてきた。壁は白く、意外と、というか当たり前なのだが綺麗だ。確か最近できたんだったか。


「じゃあ、荷物を置きに行きましょう」


 班のみんなで部屋へと向かう。部屋には二段ベッドが二つあり、やや窮屈な感じがする。

 突然黄田さんが叫び出す。


「班員のみんな! 青春したいですかー!?」

「「おー!」」


 なんか盛り上がってる……。分かんないけどノッておこう。


「おー……」

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