魔将シュロウガー1
――魔将、魔王アトライアス軍において将とされる悪魔30体を指す言葉である。
基本的にアトライアス軍の中で――アトライアスを除く――力の強い順に選ばれており、その中の上位3体を『三魔将』、続く7体を『七将』と呼んでいる。そのため一般的に魔将とはその中で下位20体を指す呼称である。
現在の支配体制では『三魔将』や『七将』が世界運営の管理のとりまとめを行っているため、魔将は世界全土に配置され、それぞれの管轄地域を観察することを仕事としている。いわば現場の最高責任者である。
何か問題が発生した際に、武力によって制圧する魔界の地上最高戦力。
――それが、今、シュヴェリアの前に立ちはだかる。
「あ、あれが……魔将、シュロウガ!!」
クロードの叫びと共にシュロウガの一撃が炸裂する。
大盾で防ぐクロード、しかし、その巨体から放たれた一撃に耐えきれずにクロードを背後に吹き飛ばす。
「うぐぉう!!」
防御したにも拘らず後方に吹き飛ばされるクロード。
「クロード!!」
深冬が駆け寄る。途中、曲がり角の先に居る巨大な物体が目に入った。
「!?」
人など楽に踏みつぶせるような黒い巨体、昆虫のような身体と頭部。
――ハエを思わせる巨大な悪魔がそこにはいた。
「深冬、避けろ!!」
クロードの言葉にハッとして回避行動に移る深冬。深冬のいた場所をシュロウガの腕の1つが貫いた。
そのまま遺跡内を駆け、攻撃に移る深冬。
「刃技――」
抜刀を放とうとする深冬に再び腕を伸ばすシュロウガ。
「くっ――きゃ!!」
その素早い一撃を防ぐため刀を抜き、刀身で受ける深冬。しかし、その勢いを相殺しきれず後方に吹き飛ぶ。
壁にぶつかり止まった深冬に追撃するシュロウガ。シュロウガの長い腕が深冬のぶつかった壁へと伸びた。
「――くっ、うう」
「大丈夫か、お前には珍しい失敗だな」
間一髪のところでクロードの盾が間に合い、深冬はシュロウガの手から逃れた。
「……ホウ、生キ残ッタカ。人間ニシテハ出来ル様ダ」
シュロウガが攻撃の手を止めると、遺跡内に声が響いた。
目を丸くする深冬とクロード。
「ドウシタ? 悪魔ガ喋ルノガ不思議カ?」
流暢に笑う悪魔にクロードと深冬は目を見合わせて立ち上がる。
「我ハ悪魔、魔獣トハ違ウ。我ハ貴様ラ以上ノ知ト武ヲ持ツ者、魔将シュロウガデアル」
シュロウガは遺跡内に声を響かせて名乗りを上げた。その響きは遺跡奥深くに居るシュヴェリアたちのところまで響き渡った。
「貴様ノ名ヲ聞コウカ?」
「俺か、俺は――」
「違ウ貴様デハナイ」
シュロウガの問答に答えようとするクロード、すると、シュロウガは首を振った。
一歩踏み出すシュロウガ、クロードと深冬が身構えた。
「イツマデ潜ンデイルツモリダ、黒キ英雄!」
踏み出したシュロウガは見える様になった遺跡奥部へと睨みを利かせる。
(やはり、気付かれていたか――)
出来ればやり過ごしたかった。そんな願いを捨てて踏み出すシュヴェリア。
(遺物の件が出て来た。どうすべきか、まだ決められん、しかし、ここは名乗るべきだろう)
「……シュヴェリアだ」
シュヴェリアの名乗りにシュロウガは笑みを浮かべた様に見えた。
「『シュヴェリア』カ、ソノ名覚エサセテモラオウ」
シュロウガはそう言うと更に遺跡奥部に侵入し、シュヴェリアと向き合う、先ほどまで戦っていたクロードや深冬など眼中にない様に。
「あ、あの野郎!」
その態度に腹を立てるクロード、しかし、深冬は冷静だった。
憤怒するクロードをたしなめると、気配を殺し、攻撃の隙を伺う。
「オ前ノコトハ良ク知ッテイル。今ヤ、コノ大陸ノ有名人ダカラナ」
隙のないシュロウガにクレハたちは動けないでいるとそんなことを言いだされた。戸惑う一行。シュロウガが好戦的でないことにクレハたちは大層疑問を浮かべていたことだろう。
もっとも、シュヴェリアからすれば予想通りの事態だ。先ほどの深冬たちのようこちらから打って出れば叩かれるだろうが、そうでなければ対話は可能なはずだ。そのように対処するように指示しているし、シュロウガの性格を考えてもまず間違いがない。
(戦いを避けられるかは別だがな――)
シュヴェリアは思考を止めることなく、シュロウガとの対話に乗り出す。
「そうかそれは驚いた。まさか、魔将の元にまで届いているとはな」
シュヴェリアの堂々とした振る舞いを一つ一つ値踏みするように見つめるシュロウガ。
流石は魔将だ、細かな動作から読み取れる情報も見落とさないようにしている。――カエリウスの教育のたまものだな。
「オ前ノ目的ハナンダ?」
シュロウガは一通りシュヴェリアの行動を確認すると、思慮深く考え込んだのちそう聞いて来た。
(どうやら、危険人物として判定されたようだな。出来るだけ蛮勇を装ったのだが……)
もしかすると装った蛮勇の向こう側まで見られたのかもしれない。こういうハッタリを見抜く目はシュロウガは魔将随一だった気がする。
「私の目的はサダムストの打倒だ、魔王軍に歯向かうつもりはない」
余計な工作は失敗する。学んだシュヴェリアは今度ははっきりと嘘偽りのない答えを言い放つ。
「……」
沈黙するシュロウガ。これで引いてくれるとは思っていないが……
出来れば戦うのは避けたい。今のシュヴェリアの状態では真っ向から戦っても敗北するだろう、勝つには魔装アクティムに頼るよりほかない。しかし、それでは――
「……イイダロウ」
不意に頷く、シュロウガ。シュヴェリアも意識を向けた。
「オ前ノ言葉ヲ信ジヨウ」
(――本気か?)
意外な言葉にシュヴェリアの頬が緩む。このまま戦わずに済めばこれ以上の良案はない。
「――タダシ」
「?」
「ソノ力ハ見セテモラオウ!!」
シュロウガから戦意が放たれた。遺跡内に咆哮が響く。
「チィ――やはりそうなるかー!!」
シュロウガの咆哮にその場にいた全員が戦慄する中、シュヴェリアの叫びが木霊した。
「刃技――」
瞬間、響いた声、シュロウガの背後に人影があった。
「抜刀――!!」
シュロウガの後頭部めがけて刀が降られた。深冬だ、タイミングを推し量った彼女の一撃がシュロウガの頭部をとらえていた。
「よし、やっ――」
「下がれ――!!」
クロードの叫びを遮るようにシュヴェリアの叫びが放たれた。
「――な!!」
声を上げたのは深冬だった。鞘から抜かれ、敵を切り、鞘に戻るそれが彼女の刃技・抜刀だ。しかし、その刃は鞘に戻ることはなかった。敵を切る段階で切り裂けず、その外皮表層で刃が止まっている。
「貴様程度ノ攻撃ガ我二通ジルハズモナイ」
そのまま後ろ手に深冬を薙ぎ払うシュロウガ。
「――がっ!!」
「深冬!!」
クロードの叫びと共に遺跡入り口方面に吹き飛ぶ深冬の身体。
「て、てめ――!!」
クロードが盾を構えシュロウガの身体に迫るが――
「邪魔ダ」
「ごふ――」
盾ごと蹴り飛ばされてしまうクロード。
「覚悟セヨ、我、弱キモノデハマカリ通ラン」




