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遺物探索ー2

草原を走る馬車、荷台部分に乗っていたメルはシートの隙間から顔を出し、景色を見ていた。

「おー」

 何やら楽し気に外を見ている。

「メルちゃん、馬車は初めて?」

 調子の戻ったステラがメルの後ろから話しかけた。ウンブラの拠点では恐縮したり、どこか上の空だったりしたがもう大丈夫のようだ。

「はい、初めてですね。とても早いです」

 シートの隙間から頭を抜き、答えると、再びシートの隙間から外を見る。

 なるほど、初めての馬車に浮かれていたようだ。

(なんだ、意外と可愛いところがあるでは――)

「こんな便利なものがあるのなら初めから使って欲しかったです。――何キロ歩かされたと思ってるんですか」

 クッ――、前言撤回、シュベリアは大きく咳ばらいをした。

「はは……馬は貴重な生活資源だからね。今のリーゼ村には持ち出せる余裕は無かったんだよ」

 シュヴェリアの苛立ちを察知したのかクレハがメルの質問に答える。

「ふーん、そうなんですね」

 再び、シートの隙間から頭を引っこ抜き答えるメル。

どうやら、馬車を気に入ったようだ。用のないときはずっとシートの隙間に頭を突っ込んで外を見ている。

「何か面白いものでも見えるの?」

「いえ、そういう訳ではないですけども」

メルと遊びたいのか、ステラも同じように頭をシートの隙間から出して話していた。

 ふとカルナを見る。賢者は地図とにらめっこをしていた。

「どうした?」

 尋ねると、賢者は少し納得いかなそうに地図を置く。

「今から行くフェルオン遺跡だけどさ、魔将シュロウガのいるべき拠点から結構距離があるんだよね」

「そうなんですか?」

 クレハが尋ねると、カルナが地図を指す。

「フェルオン遺跡がここで、魔将シュロウガのいるとされるハイヴェルン遺跡はここ」

 地図をなぞるカルナの指を追っていると確かに距離があった。

「確かに近いといえば近いかもしれないが」

「この距離ならそこまで警戒する必要もないような気がしますね」

 でしょ? と地図から指を離すカルナ。

 賢者殿が言いたいことを考える。あまりよくない意見にたどり着いた。

「つまり、君はウンブラが何か隠しているといいたいのか?」

「カルナさん!?」

 頷くカルナに声を上げるクレハ。

「もしくは魔将がこの遺跡まで足を運ぶ何かがあるか」

「何かって――あ、遺物」

 再び頷くカルナ。しかし、残念ながらそれは外れだ。

シュロウガはかなり真面目な魔将だ。シュロウガがその存在を知っていて、その情報がアトライアスの元まで上がってこないはずがない。

「単に散歩コースなのではないだろうか? シュロウガとは相当大きい悪魔だろう?」

 思ったことを言ったシュヴェリア。「えっ」といったクレハとカルナの視線が痛かった。

「シュヴェリア君――それは……」

「流石に……ですよね」

 シュヴェリアからすると結構な確率でその意見なのだが、どうやら人間には受け入れがたい意見のようだ。魔将が散歩なんかするか、と言わんばかりの視線が刺さる。

(休日使って人間界に様子見に来る魔王すらいるのだ、その配下なら散歩くらいするだろう)

 と、人知れず拗ねるシュヴェリア。

 ふと、馬車の外に首を出していたステラたちが首をひっこめた。

「どうした?」

 シュヴェリアが尋ねると、メルが答える。

「遺跡が見えました」

 ほぼ同じタイミングで荷台前部のシートが空き、馬車の手綱を握っているクロードと深冬が姿を現す。

「もうすぐ目的地に着きます、降りる準備をお願いします」

 深冬の言葉に頷くシュヴェリア。

「カルナ、どちらにしてもやることは変わらない」

「そうだね、慎重に行こう」

 クレハが頷き、ステラが頭にはてなを浮かべた。




――フェルオン遺跡

「ここが――」

「ああ、フェルオン遺跡だ」

 物珍しそうに見回すクレハに何故か自慢げにいうクロード。

「大きいな」

 馬車から降りるとシュヴェリアは遺跡を見上げた。

 ――なるほど、これならシュロウガでも出入りできる。

 大きく開いた遺跡の入り口は来るもの全てを飲み込むかのように大口を開けていた。

「クロード、私は森の中に馬車を隠してから合流するわ。案内は任せたわよ」

「おう、任せろ!」

 いうと、深冬は馬車と共にその場を去っていく。

「では――」

「ああ、行こうぜ!!」

 クロードを先頭に遺跡に入っていく面々、遺跡の中は少し湿気っていてひんやりとしていた。

「目的地は解っているのか?」

 シュヴェリアが尋ねると、クロードが地図を見せて来た。

「フム、この印のついてある場所が目的の場所ということか?」

「残念、その逆だよ」

 言葉を呑むシュヴェリア。この地図についているバツ印は3つ、つまりそれ以外の全ての場所を調べなければいけないという訳だ。

「…………」

「言いたいことは解るよ。申し訳ないとも思う、だが、仕方ないんだって、何せ魔将がうろついているんだから――」

 魔将がいて探索出来ないとは聞いていたがここまで何もできていないとは想定外だ。今回ばかりは魔将の力が仇になったようだ。

「……まあいい。ならば、手近な部屋から調べて行こう」

 案内役のクロードから地図を奪うと、遺跡をずんずん進むシュヴェリア。

「あ、おい、魔将はいないようだが遺跡には魔獣が――」

「ぐおあああああ」

 クロードが言い終わるより早く、物陰に隠れていた魔獣がシュヴェリアをとらえた。

「あぶ――」

「シュヴェ――」

 クロードとクレハが叫び終わる前にステラが槍を手に飛び出した。しかし――

「あが――」

 地図を見たまま進むシュヴェリア。魔獣はそのシュヴェリアの目前で動きを停止したまま動かない。何事もなく通り過ぎるシュヴェリア。そのタイミングで爆ぜる魔獣。

「!!」

 シュヴェリアがいつの間にか剣を抜き、無数の斬撃を魔獣に与えたことにクロードはようやく気付いた。

「マジか……相手は魔獣だぞ?」

 驚くクロードに「だから、ヤバいんですって、あの人」と茶々を入れるメル。

「先頭は私が勤めよう。しんがりはカルナに任せる」

「オッケー」

 後ろから声が聞こえて来たのを確認し、進むシュヴェリア。それに遅れないようにメンバーが続いた。




「どういう状況?」

遅れてやってきた深冬が合流して放った一言目はそれだった。

「どうもこうも……」

 シュヴェリアに遺跡内をさんざん引きずりまわされたクロードは地べたに座り込みぐったりとしていう。

「まあ初回は皆そうなりますよねー」

「シュヴェリアさん、歩くの早いですから」

「魔獣が居てもほとんど歩く速度が変わらないなんて流石です~」

「僕らは多少耐性が付いたかな、前よりは疲れてないね」

 口々にそんなことを言う女性陣と賢者、深冬はさらに疑問を膨らませる。

「この遺跡を探索した、残りはこの奥だけだ」

 深冬に地図を見せるシュヴェリア。印の付いた地図を見て深冬が驚く。

「これ全部回ったんですか!? この短時間で!?」

「ああ、時間がないとのことだったので急いで回らせてもらった、おかげで彼はこのありさまだが問題ないだろう?」

 シュロウガに会えば戦うしかないが、一番の最適解は“会わない”だ。これに勝る答えはない。よって滞在時間を極限まで削ることが最も望ましい。そのために1人2人歩き疲れたところで問題はない。

「深冬、俺はもうだめだ、奥にはお前が行ってくれ」

 クロードはそんなことを言いながら秘石を深冬に差し出す。

「大げさな、歩き疲れただけでしょう?」

「おま、ふざけんなよ! この人がどんだけスパルタか、知らないからそんなこと言えんだよ」

 喧嘩を始めるウンブラ幹部。これでは急いだ意味がなくなってしまう。

「すまないが喧嘩は後にしてくれ、奥へは君が行くのだな、では行こう」

 深冬の手を取りスタスタと歩き始めるシュヴェリア。

「あえ? シュ、シュヴェリア殿!?」

 第二の被害者が引きずられる様子を見て苦笑いを浮かべる女性陣と賢者。クロードはざまあないといった表情だった。

「ここが最後か」

「はい、そう……です……ね」

 息を切らしながら答える深冬。それほど長い時間ではなかったため、まだ大丈夫だがこのペースでもう一度同じ時間引き回されたらまずいかもしれない。

「なるほど、こういう……ことだったの……ね」

 息を切らしながら、クロードの言っていたことを再認識しなおす深冬。

「全く、最後まで当たらないとはよほど運が悪いのか、それとも――」

「…………」

「まあ、やってみればわかることだ」

 シュヴェリアを何か言いたげに見つめながら秘石を取り出す深冬。

「行きます!」

 叫ぶと同時に秘石をかざす。

 ――静まり返る遺跡内。

 やはり―― シュヴェリアがそう言おうとした時だった。

 キーンと音が響いた。

「いかん!!」

 慌てて深冬を連れて下がるシュヴェリア。

 空間がねじれ新たな道が出現する。

「シュヴェリアさん!!」

 追い付いて来たクレハたちが何事かと駆け寄って来た。

「大丈夫ですか?」

「ああ、問題ない。深冬は――」

「大丈夫です、有難う御座います」

 シュヴェリアがとっさに抱えて下がったのがよかったらしい、深冬にもケガは無いようだった。

「なんだか壮大な仕掛けですね~」

「ああ、遺物とやらを隠すにはもってこいだな」

 ステラと共に前に進むシュヴェリア。後ろを見ると、カルナとメルが動く気配なく、手を振っていた。こちらは任せて行ってこいという意味合いなのだろう。

「良し、では行くぞ!」

 シュヴェリアが踏み出すと、クレハ、ステラ、深冬がそれに続いた。




 

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