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ウンブラー4

「こうなっては仕方がありません。正直にお話しします」

 フェルティナは席を立つと深々と頭を下げた。

「黒き英雄――いえ、シュヴェリア殿、どうかこの国を救ってはいただけないでしょうか!!」

 普段の凛とした声からは想像も出来ない大声で叫んだフェルティナ。その行動にシュヴェリアをはじめその場に居たものたち全員が目を丸くする。

「お、王女……?」

 クロードが驚きを口走る。

 フェルティナは目を閉じたまま頭を下げ続けた。

「……返事をする前にどういうことか説明をしてほしいのだが?」

 しばらく間を置き、シュヴェリアが口を開いた。

 それを合図に顔を上げるフェルティナ。クロスはそれを静観していた。

「現在この国は危機的な状況にあります。それも他でもない我が国が行った行動によって国が脅かされる事態になっているのです」

「村狩りですか?」

 クレハの表情が曇った。フェルティナが頷く。

「現在このゾルト大陸は大半をサダムスト帝国が残りの少数をアルフィード王国が領土に持っています」

「ちなみにこの2国は現在友好国の関係にあるよ」

「はい、アルフィード王国はリーゼロット公国侵攻の際に同盟を結び、その後、友好国となっています。――最も、アルフィードがサダムストを恐れての友好国の申し出ですので、事実上ゾルト大陸全域はサダムスト帝国勢力圏と言っていいですが……」

 フェルティナはカルナの解説をうまく取り入れながら、サダムストの現状を語る。

「大陸統一か、結構なことだ。――で次はどうする? 別大陸に打って出るか?」

「国王、初め、ほとんどの幹部はそう考えています。もっと具体的に言えば、唯一接岸しているサルフェース諸国連合への進行を計画中です」

「フム、サルフェースか、確かに立地的には近いが……」

「無理じゃない? あそこはかなりの強国だよ。刀剣の巫女とうけんのみこもいるしね」

 刀剣の巫女とはサルフェースに存在する八方之御珠やかたのみたまという封剣を扱う存在である。『一振りで山をも切る』と言われる剣で『イルミア大戦』では当時の巫女を倒すのにそれはそれは苦労した。何故か勇者アルビオとは行動を共にしていなかったようだが一緒に城の中に入られてあんなものを振り回されたら城がどうなっていたことか――考えただけで恐ろしい。

 選ばれた人間の女性にしか使えず、長時間、祠から離していると祠周辺――結構な範囲――の大地の気の流れが乱れ著しく腐敗してしまうためやむなく人間の手に返したが、悪魔側にとっては厄介な武器である。――当然、監視し、然るべき管理をしている。

確か現在の巫女はかなりの強さがあり要注意人物として――

「刀剣の巫女の問題はすでに片付いています。数か月前、魔王軍との戦闘で戦死され、現在は新たな若い巫女が選定されたばかり、とても力は振るえません」

 あ、そうだった。この間、帰ったときに聞いていた情報を思い出した。

 カエリウスいわく、担当魔将のところに攻め入ってこられたため、やむなく7将の1人、ウロフェスが出向いて処分を下したと。

「殺したのか!?」と驚くと、「殺しました……」と申し訳なさそうに言っていた。

ウロフェス――確かに仕事は出来る奴なのだが……

――と、違う違う、こちらの話に集中しなければ慌てて、フェルティナの話に注意を戻す。

「刀剣の巫女の問題が消えたとなると残りは戦力の問題だね。アルフィードは言いなりだから戦力に加えられるとして、サダムスト軍に『帰還者』『戦王子』これで行けると思ってるの?」

『帰還者』『戦王子』よくわからない単語が出て来た。シュヴェリアが首をかしげていると、クレハが気付き、解説をしてくれた。

「シュヴェリアさんはよその国から来たから知らないですよね。『帰還者』『戦王子』はこの国で最も強い2人のことです」

「ほお、最も強い、か」

「『帰還者』はサダムスト帝国宮廷魔導士グロウ=オリバーン。『戦王子』の方は――」

 クレハがフェルティナの方を向く。

「エルガ=フォン=サダムスト、帝国第一王子、私の兄です」

「魔と武に秀でた2人を指しています」

二コリとほほ笑みながら解説してくれるクレハに多少癒されながら話の続きに意識を傾ける。

「なるほど理解した、話を続けてくれ」

フェルティナが頷き話を再開する。

「勿論これだけでは勝てるとは思っていません、ですので帝国はアストヴァイン王国に協力を求めています」

「アストヴァインに!!」

カルナが立ち上がった。

アストヴァイン王国、サダムストの東側にあるレキシア大陸の王国で隣接するスルト魔導公国と同じく魔法で国を成した王国である。

(アストヴァイン、あそこも問題の多い国だな……問題のある者同士ひかれあったか……)

カルナが頭を抱えながら席へと戻る。なんとなくその心情を察した。

「まさか、そんなことになっているとは……アストヴァインは何と?」

「現状明確な答えは返ってきていませんが、概ね良好とみています」

「なるほどこのままではアルフィード、サダムスト、アストヴァイン3国の連合が出来てしまう訳だ」

「はい」

 カルナ、シュヴェリアの問いに隠し立てなく答えるフェルティナ。恐らく、帝国幹部ですら聞かされていない情報も含まれているのだろう。

 しかし、腑に落ちない。何が窮地なのだろうか? 聞いた限り、サダムストは潰れなさそうだが……

 改めて尋ねてみると驚きの答えが返って来た。

「実は我が国は魔王軍より目を付けられております。今までの行いから、“あまり場を乱すな”と。私はこの意見に賛成し大人しくしていたいのですが――」

「国王たちはその気がない」

「はい、挙句――」

「おい、まさか――」

 嫌な予感がしてシュヴェリアは声を上げた。3国同盟、その本当の狙いは――

「そのまさかです、3国同盟の真の狙いは魔王軍打倒です」




 静まり返る室内。静寂が木霊していた。

やがてフェルティナが口を開く。

「しかもまずいことに、この件についてサルフェース諸国連合に感づかれました。サルフェース側とは以前から村狩りの件で対立しており、開戦目前だったのです。それがこんな情報が洩れたら――」

「やられる前にやれ、か」

「はい……」

 フェルティナはうつむき、しょんぼりとした返事を上げる。

「私は帝国の支配体制はおかしいと思い、ウンブラを立ち上げました。帝国の所為で苦しむ人が居なくなるようにと、それが何も変えられないまま帝国はどんどん壊れ、ついには自滅一歩手前まで来てしまいました。このままでは国も何もかも滅びてしまう。

なのに、お父様も、お兄様たちも、まるでそのことに気づいていない。狂ったように前だけを見て誰も私の話を聞こうとしない」

 いつの間にかフェルティナの目には涙があふれていた。

「このままではいけない、それだけは解る。でも、もうどうしたらいいのか解らない。どうにかする力もない、だから――」

 なるほど、先ほど下げた頭は彼女の心の叫びでもあったわけだ。

(道理で響くはずだ――)

 シュヴェリアは腰を上げ立ち上がる。クロスがフェルティナに声をかけ、背を擦っていた。

「――話は解った。最初の願いに答えてやる」

シュヴェリアの声にフェルティナが顔を上げた。

「お前の願いを聞き入れよう、救ってほしいというなら救ってやろう、ただし、条件がある」

「それは――」

「リーゼ村を護れ、帝国を含む全てから、そして――」

 シュヴェリアは剣を抜くと、フェルティナにその切っ先を向ける。クロスやクロードたちが彼女を護ろうと身構えた。

「全ての関係性を捨てろ、帝国とも、親とも、兄弟とも全ての縁を断ち切れ! 私は必要のない者は殺すそこに情けの入る余地はない! ――出来るか?」

 切っ先に睨まれたまま、フェルティナは息を呑む。

「……出来ます、帝国を救ってください」

「――いい返事だ」

 シュヴェリアはにこやかにほほ笑んだ。


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