ウンブラー3
「まさか、お前がリーダーだったとはな」
ウンブラの拠点にある一室に通された一行は席に着く。席に着くなりシュヴェリアが口火を切った。全員の視線がクロスへと向く。
「あなたをお迎えに上がるのにこれ以外の対応はないかと思ったのですが?」
責任者直々に迎えに上がる、確かに、これ以上にない対応だ。あんな正体不明の姿でいきなり依頼をされなければの話だが。
「あの、リーダー……」
クロードが恐る恐る手を上げた。
「そろそろどういうことか説明してほしいんですが……」
クロードの隣で深冬が頷いている。
このクロスという男の突拍子もない行動を見ていて一つ気付いたことがある。恐らく奴は仲間にも今回の作戦の説明をしていなかったのだろう。
これからの彼らの反応を予想して頭を抱えるシュヴェリア。
「はぁー!! 黒き英雄に単独で接触して協力を仰いだ!!」
驚くクロードの横で深冬があきらめた様に頷いていた。
かいつまんで言うとこういうことだ、シュヴェリアが自分たちに接触しようと動いていることを知ったウンブラは接触と同時にその力を図るために今回の侵攻作戦を立案した。まあ、それはいいが問題が1つ、シュヴェリアが協力してくれなければ全てご破算、シュヴェリアの力が噂以下でもご破算。――ものすごいリスクを元に立てられた作戦だったということだ。
「すまない、あまりにリスクのある作戦だったのでお前たちには言えなかった」
「すまない、じゃないですよ! 失敗してたらどうするつもりだったんですか!!」
「半壊、最悪、解体だな」
「いや、だから!!」
「待ちなさい、クロード!! リーダーがなんの考えもなしにこんな策を実行に移すとは思えないわ!」
冷静な深冬の意見にクールダウンするクロード。
「……上からの御達しですか?」
深冬の意見に口元を緩めるクロス。
「あ――」
「はい、その通りです」
凛とした声と共に、部屋のドアが開く。
そこには一人の女性が居た。どこにでもいるような町娘の恰好をした女性。しかし、その佇まいはどこか気品に満ち溢れている。
「「!?」」
慌てて立ち上がり敬礼をするクロードと深冬。クロスがゆっくりと立ち上がり頭を下げる。
クレハとステラは「だれだろ~」なんてのんきに見ていたがカルナに「フェルティナ王女だよ」と耳打ちされると慌てて立ち上がっていた。
カルナ、メル、シュヴェリアは席を立つことなく、その女性を見上げる。
「やはり驚きませんか――」
少し残念そうに女性――フェルティナは言うとクロスの隣の席に腰かけた。
「お久しぶりですね、黒き英雄、ご健在のようで何よりです」
「お久しぶり?」
出会った覚えのないシュヴェリアは首をかしげる。
「ハーペンでは部下たち共々大変お世話になりました」
言われて思い出す、ああ、あの魔族騒ぎの時か、そういえば王女を護れとかいう声が聞こえていた。
「あれが私だとよくわかったな」
シュヴェリアが聞くと、フェルティナはクスクスと上品な笑いを見せた。
「この国であんな芸当が出来る方は何人もいませんよ。いれば英雄と呼ばれるでしょう、あなたのように」
なるほど、彼女の言葉に妙に納得していると――
「まあ、確証を持ったのはイルナスから名前を聞いていたからなんですけど」
「おい!」じっとりとした視線を向けるとフェルティナはいたずらっぽくウインクして見せた。――全く、シュヴェリアは大きく息を吐いた。
「皆、そろそろ座ったらどうだ?」
フェルティナの着席と同時に座っていたクロスが未だ立ち続けている4人に声をかける。
4人がおずおずと席に着く。なんだか緊張している4人を尻目に話しを進めるクロス。
「やはり、ウンブラの背後にフェルティナ王女がいることは気づいていたようですね」
「まあね、活動範囲や資金源を考えるとそうなんじゃないかと思ってたんだよ」
頷くカルナ。一先ずこの場はカルナに任せることにした。
不意に頭を下げるフェルティナ。
「申し訳ありません、皆さん。今回は時間が無くてこのような乱暴な作戦を遂行させていただきました。攻めるのならクロスではなく、私を攻めてください。
――大変申し訳ありませんでした。
ですが、シュヴェリア殿の実力と器量ならば必ず作戦を成功させてくれると信じておりました。組織を潰すようなことにはならないと」
視線を送られ、会釈を返すシュヴェリア。まあ、滅びるとまで言われて助けないわけにもいかない、確かに助ける一択だったのは間違いない。
目を合わせるクロードと深冬、少しして納得したのか2人は頷く様に頭を下げた。
王女の貫禄というものを見た気がした。
「……失礼ですが、『東の賢者』殿でよろしいですか」
フェルティナの言葉に頷くカルナ。なんだか驚いているようだった。
「驚きました、賢者というからもっとお年を召した方なのかと思っていましたが……」
「よく言われるよ、シュヴェリア君たちには言われなかったけど」
半信半疑なフェルティナたち、シュヴェリアが声を上げた。
「“彼か彼女か”は定かではないが、賢者なのは間違いない。先の帝国戦でも力を証明している。そちらにももう証人が着いているだろう」
「どっちでもいいよ~」と相変わらず男女を区別させない賢者をよそに話しを進めるシュヴェリア。フェルティナが深刻な顔で頷いた。
「壮絶な状況だったと聞いています。正直、村1つに500もの兵を派遣するのは行き過ぎにも程があると思っていたのですが……」
結果は敗北、帝国でも大層な騒ぎになっていることだろう。
「現在リーゼ村には様々な意見が上がっていますが、侵攻に否定的な意見も多いです。中にはもう侵攻は諦めるべきだという意見も出始めているほどに」
「これまでの帝国の常識では考えられない事態だな」
フェルティナとクロスの言葉にクレハとステラは嬉しそうにしていた。彼女たちからすれば、このまま村が攻撃されないのが一番いいのは間違いない。
「しかし、実際そうもうまくはいかないのだろう?」
2人には悪いと思いながら口をはさむシュヴェリア。
フェルティナが頷いた。
「はい、このままという訳にはいかないでしょう、いずれ何かしらの対策をされるのは間違いないと思います」
「何かしらの対策って――?」
クレハが声を上げると、フェルティナが真剣な表情で答えた。
「最悪、全面戦争になるかもしれません」
「全面――!」
「――戦争!!」
クレハとステラが声を上げた。顔色を蒼白させる2人。
たかが村如きに国が総力を挙げてくるとは思っていなかったようだ。
「フ――」
「ハハ――」
鼻を鳴らすシュヴェリアとカルナ。何がおかしいのかと問いかけるステラにシュヴェリアは答える。
「上等だ、ならば返り討ちにしてやろう」
目をつむり、頷くカルナ。賢者もまた同意だった。
「帝国の総力戦を返り討ち――」
「こ、この人たち、正気なの?」
シュヴェリアと、カルナの意見に驚いたクレハ、ステラだったが驚いたのは彼女たちだけではなかった。クロード、深冬もその自信に息を呑む。
「この人たちならやりますよ。地図書き換えるくらい多分余裕ですから」
暇そうに足をぶらぶらさせながらメルが答えた。
「…………」
「――それは何とも……頼もしい限りだ」
言い切るシュヴェリアたちにフェルティナは沈黙を返す。クロスも言葉は出たがどこかたどたどしかった。
「さて、では、帝国が我々に滅ぼされないために、交渉を始めようか?」
「そう来ますか……」
シュヴェリアの言葉に、苦悶の表情を浮かべるフェルティナ。
「当然だ、そちらもそのつもりだったのだろう。全面戦争など持ち出して――」
シュヴェリアが睨みを利かせると、フェルティナは首をすくめ、クロスは天を仰いだ。
「相手が悪かったね、僕らは元々、かなり譲歩した結果こっちに来てるんだ。その気になればここに来なくてもいいところをわざわざね」
「……王女、これは難しいかもしれない」
カルナの言葉にクロスが息を吐いた。
「はぁ、仕方ありませんね」
フェルティナは息を吐くと交渉準備に入る。
クレハやステラ、クロードなど何が起きたか解っていない一部を置いて……




