ウンブラー2
「あなたに依頼があります――」
こうして始まった謎の男との会談は意外な方向に話しを向けた。
「これから我々が行う戦いの支援をしていただきたい」
「支援?」
シュヴェリアが首をかしげると男は指さした。
「これより西方にマルカスタンという町があります。そこに住む領主の館を奇襲します、貴方にはそこの奇襲を手伝っていただきたい」
「突然だな」
「はい」
男はさも当然のように言うと、そのままシュヴェリアの返事を待つ。
(影の使いと言っていたな、ウンブラの手の者か?)
シュヴェリアは相手の手の内を探りながら話を進める。
「いきなりやってきて依頼などと言われても、困るな。こちらにも準備というものがある」
「あなたの実力なら問題ないと踏んでいます」
「依頼をする前にまずは顔合わせをするべきだろう?」
「その価値があるかの見定めと思ってもらえれば」
なるほど、そういう訳か。まさか、向こうから接触してくるとは思っていなかったが――
「その依頼を断ったらどうなる?」
「恐らく私たちは永遠に会うことが出来ないでしょう」
シュヴェリアは鼻を鳴らす。
「フッ、永遠に会えないとは大きく出たな、私たちにお前たちを探せないとでも」
「ええ、探せません。我々は滅びるのですから」
「は?」
シュヴェリアは息を呑んだ。滅びるとはどういう意味だ? 尋ねると男は答える。
「簡単です。貴方が助けに来てくれなければ、我々の部隊は敗北するでしょう。そして組織は壊滅する」
(こいつ、正気か?)
会ったこともない実力も未知数の相手を勝手に作戦に組み込み、助けてくれなければ自滅しますなど、まっとうな考えとは思えない。こんな奴に関わろうというのか――思わず二の足を踏むシュヴェリア。
(しかし、滅びられたら困るのも事実か――)
シュヴェリアは少し考え――
「仲間が現在動けない状態だ」
「お仲間は関係ありません。貴方お一人の力を知りたいのですから」
「そうか、では私が向かったら仲間はどうなる」
「無論、丁重に組織の本拠地までご案内します」
「人質にしようなどとは考えていないだろうな?」
「勿論です。客人としてお迎えに上がることを約束しましょう」
(こちらにはカルナが居る。今は疲労しているが休めば問題なく動けるだろう。なら捕まったとしても脱出できるはずだ)
「いいだろう、こちらとしてもそちらの本拠地を探すのは骨が折れるだろうと思っていたところだ」
「商談成立ですね」
黒い服の男は嬉しそうにそういった。初めて男の声に感情を感じた瞬間だった。
まあ、そんなわけで、現在シュヴェリアは帝国兵相手に剣を振るっているわけだが――
「ふむ、以前襲撃した領主の館の時よりは練度が高いか」
いかんせん帝国兵相手では戦いにならない。斬ったら、斬っただけ敵が吹き飛び倒れていく。
それを見た街の住人やウンブラの人間が唖然としていた。
(あまり目立つのは良くないか、しかし、ウンブラの人間に実力を見せなければならないのもある)
どうしようか迷いながら剣を振るうシュヴェリア。ふと、妙案を思いつく。
その名も、“領主の館潰しちゃえばいいんじゃないのか作戦”
領主の館は敵の本拠地、ここを占拠すれば敵は撤退するだろう。領主の館はこの高い塀の向こうだ、ならば人目に付くことも避けられる。
これは良案、シュヴェリアは拳の下部を手のひらにぶつけると高い塀を難なく乗り越える。
「おい、奴は!!」
「領主様の屋敷に入って行ったぞ!!」
壁越しに聞こえる悲鳴や破壊音などの物々しい音。
何が起こっているんだ? 兵士たちは領主の屋敷の入り口の大扉の前で佇む。やがて大扉の鍵が開き、ボコボコにされた中年の裸の男を引きずってシュヴェリアが現れる。
「この非常時に女漁りとは大したものだ」
「こいつが領主だろう」と兵士に向かって突き出すシュヴェリア。
「どうせ助からんと思うがまだ一応生きている、持っていくか?」
男を兵士に手渡すと共に、兵士たちが街を出ていく。――脱兎のごとく。
シュヴェリアはそれを満足そうに見送っていた。
「さて、これで依頼は果たしたな」
帝国兵たちが街を出て行ったあと、しばらくして街の外壁の外から叫び声が聞こえて来た。
勝った、とか、ざまーみろとか、最近聞いたような咆哮だ。
街の住人達は何とも不安そうな顔をしているが、この歓喜の咆哮は聞いていて心地いい。しばらくその叫びに浸っていると。
「黒き英雄様ですね」
一組の男女がやってきてそんなことを言う。
男の方を見ると、先ほどうるさく囀って<さえずって>いた兵士に投げつけた自身の短刀を持っていた。
「その呼び名は好かんな、私はシュヴェリアだ。次からはそう読んでもらおう」
そう言いながら、男の手から血のぬぐわれた短刀を受け取る。
「失礼しました。私たちは反帝国組織ウンブラの構成員です。よろしければご同行いただければ――と」
女の方が礼儀正しくそんなことを言っていた。
(いや、ご同行も何も連れて行ってもらわなければ困るのだが?)
何となく話がかみ合わないと思いながら、余計なことを言って機嫌を害しても、と思い従うシュヴェリア。
何やら2人は緊張しているようだった。
(フム、こういう時は――)
シュヴェリアは2人に名前を尋ねる。2人は顔を見合わせ、頷き合い。
「私は深冬、彼はクロードといいます」
「深冬に、クロードか、よろしく頼む」
2人の緊張が少し解けたのを、シュヴェリアは見逃さなかった。
――ゾルト大陸、ウンブラの拠点
「このような砂漠地帯の真ん中に本拠地があるのか?」
そこはそれほど広くはない砂漠地帯のなんの変哲もない砂山の中にあった。どうやら地下に向かって広がっているようで、なるほど、これは見つからないだろう。
関心しながら組織の拠点に踏み入るシュヴェリア。
地下だけあってひんやりしているが、施設は割としっかりしていた。
「砂の中とは言え、地下にこれだけのものを作るのは大変だっただろう」
シュヴェリアが尋ねると深冬が苦笑いをして答えた。
「実は元は遺跡だった物を流用して使っているんです。なので、そんなに大変ではなかったんですよ」
(ホウ……)
確かに言われてみればあちらこちらに遺跡と思われる名残がある。
(砂に埋もれた遺跡か……)
少し、興味をそそられた。
とはいえ、秘密結社のような組織だ、お宅の施設を隅々まで拝見させてくださいとも言えない。沸いた興味に蓋をする。
施設内部をだいぶ進んだ時だった。
「シュヴェリアさん」
聞き覚えのある声に呼ばれた、見覚えのある少女がかけて来た。
「クレハ」
シュヴェリアの前に来て立ち止るクレハ。彼女に続く様にいつもの面々が駆け寄って来た。
「良かった、心配したんですよ」
「すまないな、少し依頼を受けて――」
「依頼を受けて、じゃないですよ。いきなり変な黒い人に“シュヴェリアさんに許可は取った”とか言われて訳の分からないところに連れて来られて……説明くらいして行ってください!!」
メルに怒られるシュヴェリア、今日は2度目だ。
「まあまあ、メルちゃんみんな無事だったわけだし~」
「ここの人たちのおかげでしっかり休めたしね」
思い思いのことを言っている仲間たちだが、無事で何よりだ。
シュヴェリアは周囲を見回す。あの男はいないようだった。
「あの……」
取り残されていた深冬たちが声を上げた。
「お仲間ですか?」
「そうだが?」
「なんでこんなところに……」
クロードが驚いていた、深冬も訳が分からないという感じだ。
おや、仲間がアジトに居ることを知らない? どういうことかと思っていると。
「お見事でした、シュヴェリア殿」
黒マントの男が現れ、シュヴェリアを称賛する。
「ようやくお出ましか」
シュヴェリアが吐き捨てる様に言うと、申し訳なさそうに頭を下げる黒マント。
「ちょ、リーダー、これどういう事っすか」
クロードが叫ぶ。リーダー? シュヴェリアが尋ねると深冬が答えてくれた。
「紹介が遅れて申し訳ありません、彼がウンブラのリーダー、代表を務めます――」
「クロスフォードです。クロスと呼んでく出さると幸いです、黒き英雄」
黒マントの男はマントを脱ぐとそう言った。




