リーゼロットの騎士ー3
「来たか――」
リーゼ村北部の森林地帯に潜んでいたシュヴェリアは行軍する部隊を見つけて呟いた。
すぐに魔術を展開し規模を確認、カルナの言った通り500人規模の編隊だ。後方にいるステラにサインを送る。
サインを受けたステラが村の方にかけて行った。
「魔獣に見つかりやすい平原は一気に突っ切って村まで侵攻するつもりか、流石に学習しているな」
敵の動きを見て分析すると、シュヴェリア木の上から降りて森の中に潜む。
(さて、お手並み拝見と行こうか――)
ちょうどそのころ――
「ステラさんだ、門を開けろ!!」
シュヴェリアからサインを受けたステラが村にたどりついていた。
「ステラ君、どうだった?」
「ふう……はい、作戦に変更はない、そうです~」
軽く息を切らせたステラがカルナの問いに答えた。
「つまり敵の規模は予想通りってことだね、了解!」
防壁の上に立つメルにサインを送る。メルが小さくため息を吐くのが見えた。
「……大丈夫でしょうか、メルちゃん」
その様子を見ていたクレハが心配そうにつぶやいた。
「心配かい?」
カルナの問いに頷いて返すクレハ。
「傷はもう大丈夫だと言っていましたが記憶は戻ってないようですし、何よりあんな小さな子を戦わせるなんて……」
クレハはそんなつもりで彼女を連れて来たわけではない。メルくらいの子供たちは皆、建物に閉じこもり避難しているというのに何故、彼女だけという思いがぬぐえないようだった。
「今は戦時下、何よりこっちは劣勢なんだよ、使えるモノは使わないとね」
カルナの意見は解る、シュヴェリアも同じことを言うだろう、だが、どうしても――
「大丈夫だよ、クレハちゃん」
クレハの心情を読み取り、その方に手を置くステラ。
「私たちでメルちゃんを護ろう」
「ステラさん――そうですね」
にこやかに笑いあう2人をみて、「よし、始めようか」とカルナが号令をかける。
村人それぞれが持ち場に付いた。最後にカルナが門の真上に陣取る。
「来たね」
土煙を上げて村に迫りくる歩兵部隊、その先頭に立つ人物を見てカルナは口元を緩めた。
「まさか、この期に及んで交渉の余地があるとでも思ってるのかな~」
まあ、彼らしいといえば彼らしいのかもしれない。そう思い、彼の名を呼ぶカルナ。
「こんな辺境までようこそリューク=ハイナン殿!」
「……」
カルナの問いに沈黙を返すリューク。兵が村の正面に集まったのを確認すると大きく息を吸った。
「君がこの村の代表か!」
「代表ではないけど、その代行をしているものだよ。今回の戦いでは代表と思ってもらっても差し支えない」
カルナの言い回しにすっきりしない表情を浮かべながらも、対話を進めるリューク。
「そうか、名乗る必要はないだろうが、一応名乗ろう私はリューク=ハイナン。サダムスト帝国、第二王子ドゥエル=フォン=サダムストに仕えるものだ」
そちらの名前を聞いても、というリュークにカルナは
「東の賢者だ」
と答えた。
途端にざわめきだすサダムスト陣営。「馬鹿な」「ありえない」という言葉が飛び交う。
「失礼を承知で尋ねるが――本物か?」
「勿論!」
いつものように飄々とした様子で答えるカルナにリーゼ村陣営も気が気でなかった。
「……賢者殿が何故得ここに?」
「何故? こんなことを各地でしでかしておいて、何故? どうしてそんな質問が出るのか僕の方が聞きたいなぁ」
サダムスト陣営が言葉を呑む音が聞こえた。
「それで用件は何かな? こちらに降伏でも要求するつもりなら間に合ってるよ。今更、帝国に頭を下げたって穏便には済まないだろう?」
「それは――」
リュークは奥歯を噛み締めた。無用な戦いは避けたいが、今更降伏したところで帝国が彼らを許すとは考えられない。結局のところ――
「解ってると思うけど、君のやろうとしてることはただの偽善だよ。ここの者たちを救いたいのならもっと根幹からどうにかしないと」
「解ったようなことを!!」サダムスト兵の1人が叫んだ。
「――で、どうするんだい。やるのか、やらないのかはっきりしようか」
カルナにしては珍しく少し怒ったような様子で尋ねる。
リュークは奥歯を噛み締めると。
「全隊構えー!!」
開戦の合図がかかった。
開戦と同時に盾を天に掲げた兵士たちが橋を駆けていく。
対岸に残っている兵たちは弓を装備し前衛は普通の矢を放ち、壁に隠れる村人を後衛は火矢を放ち壁を壊そうとしている。少しすると、隠れていた魔術師も現れ、村を護る壁を壊そうと魔法を打ち込み始める。
「いや~さすがに、学習してるねぇ~」
何気に飛んでくる矢を避けながら呑気に呟くカルナ。
「兄ちゃん、このままじゃ、この壁破られちまうぞ!!」
ゲンが壁の下から抗議を上げる。
「大丈夫、大丈夫、3分は持つ計算だから」
「はぁ! 3分て――!!」
「3分しか持たなかったら駄目じゃないですかー!?」
ゲンの隣で村長が絶句していた。カルナはそんなことなどお構いなしに同じく、唯一壁の上に居るメルの元へ。
「メル君いくつできた?」
「5つですね。思ったよりも時間が短かったので」
メルの周りには5つの赤い魔力の塊が浮いていた。
「何に気分を害したのか知りませんけど、予定と違うことはしないで欲しいです」
「君、結構毒舌だねぇ」
まいったなぁと笑うカルナに早くやれとせかすメル。シュヴェリアが見たら、「なんだうまくやってるではないか」と言いそうだ。
「では行くよ――」
カルナはメルの作った魔力塊を自らの魔力で受け取ると、その5つを敵陣上空に運ぶ。
そして一斉に投下――
「えくすぷろ~ど」
火炎による大爆発がサダムスト陣営を襲う。
「……今のは?」
「言った方が雰囲気出るかと思いまして」
その割には気持ちこもってなかったなぁ、と思うカルナと共にメルは燃え盛る自分の魔法を見つめていた。
「なんだ、何が起こった!!」
リュークは自軍に起った事態に対処しきれていなかった。
それはそうだ、攻撃を仕掛けたとたん突然爆発が起こり炎に包まれたのだ。パニックを起こすのも無理はない。
「まさか、魔法による攻撃か? 馬鹿な、こんな短時間でこれほどの魔法を使うことが出来るわけが!!」
ふと、先ほどまで自分が話していた人物のことを思い出す。
「賢者、本当に!!」
ふと村の方を見ると先ほどまで人気がなかった壁に人の姿が見えた。
(まさか、初めからこのつもりで――あえて無人の壁を攻撃させたのか?)
してやられた、飛び交う銃弾と矢の中、第2陣の兵たちが集まり負傷者を助けようとする。
「隊長、ここは危険ですこちらに!!」
部下に引かれるままその場を後にする。間もなくして再び魔法がその場に打ち込まれた。
「ば、化け物め!!」
森の中へと逃げ戻ったリュークは数人の部下の前で吐き散らした。
賢者など神話の存在と思ていたが、これだけの力を見せられれば信じないわけには行かない。
(本当に一国を滅ぼしかねない力があるとすれば――)
自分たちだけで相手をするのは不可能、一度本国に戻って戦力を強化すべきだろう。
しかし、そうなると――
「姫様の御立場をまた悪くしてしまう――」
引くわけには行かない。サダムストなどどうでもいい、だが、リーゼロットの名をこれ以上汚すわけには行かない。
「部隊を一度戻せ、再編成を――」
告げ終わる前に指示を出そうとしていた兵が倒れた。
「残念だ、ここで引くのなら見逃してやったのだが……」
飛んできたのは剣だ。方角は解る、しかし、気配が全く追えない。
嫌な汗が全身を流れていく。リュークの直感が告げていた、これから出てくるのはとんでもない存在だ、と。
そして、それは現実のものとなる。
「お相手願おうか、元リーゼロット公国騎士団長、リューク=ハイナン」
一切の気配を断った黒い剣士は静かにそういった。




