賢者を求めてー5
ゴーゴンは洞窟に住んでいた。万が一にも2体目に遭遇してはたまらない。洞窟の攻略は出来るだけ最短経路で行うことにした。
廃坑跡ということもあり貴重な資源もありそうだが今回ばかりは仕方がない。
目的の山頂に続く坑道の発見を急ぐ。
「見えた、出口です」
「今回こそ当たりでありますよ~に~」
ステラが祈りながら洞窟の外を目指す。――山の山頂がそこにはあった。
「ここが山頂……」
「すごい、ゾルト大陸が山脈が一望できますよ~」
山頂からの圧巻の景色に少女たちは感動の声を上げた。
「シュヴェリアさん、すごいですね!!」
「あ、うん、そうだな……」
感動を共有しようと声をかけてくるクレハにシュヴェリアは戸惑いながら頷いた。
(フム、私は飛べるからこのような景色は見慣れているのだが……)
とはいえ、彼女たちが心動かされる理由は解らなくもない。感動している2人に水を差すようなこともしたくないため、驚いている自分を演じる。
しばらく時間を置き、2人の盛り上がりが覚め始めたころを見計らい――
「では行こうか」
切り出した。
2人の元気のいい返事と共に歩き出す。
「シュヴェリア様とりあえず山頂まで来ましたが、ここからどうするんですか」
とりあえず山頂を目指す、としか言っていなかったため、ステラから質問が上がった。
「山頂を散策して賢者様を探すんですか?」
クレハからも質問が上がった。良い線は言っているが……
残念、シュヴェリアの案はもっと具体的だ。
「山頂には何がある」
問い返すと、クレハとステラを口元に手を運び悩み始める。
「賢者様がいるとしてそのお家ですかね~?」
「展望台……とかじゃないですよね」
「2人とも不正解だ。答えは水源だ」
「水源?」2人が首をかしげるのを見てシュヴェリアはほほ笑む。
「ここにはリューテ川に流れているという水源がある」
「はい確かに」
「おばあちゃんの話ではそういうことでしたよね」
どうやらまだピンと来ていないらしい。シュヴェリアは問題を教える教師のように2人に問いかける。
「人が生きるのに必要なものはなんだ」
「水と食べ物です」
「ここで野菜を作ろうと思ったら何を探す?」
「野菜の種とお水ですかね~」
交互に答えていた少女たちが「あ!!」と声を上げた。
「そうここで暮らしているのなら何より水が必要なはずだ」
ならば――
「そうか、賢者様がいるとしたら――」
「水源の近くってことですね~!」
2人の少女はそろって水源を探し始める。
「……まあ、もっともその場所もすでに把握しているのだがな」
遥か先を見通し、シュヴェリアはガッツポーズをする。
「……これまたずいぶんと――」
「おしゃれなお家ですね~」
シュヴェリアの見立て通りに水源近くの大きな木の下にその家はあった。とても山の山頂にあるとは思えない、不自然なくらいおしゃれな家。木造とはいえ交易都市ハーペンの一等地にあっても不思議ではないくらいおしゃれな家がそれだった。
「なんだか嫌な予感がするな……」
シュヴェリアの言葉に頷く2人。こんな場所にこんな家を建てる奴の気が知れない。
「変な人なんでしょうか?」
「間違いなく変わり者でしょうね~」
2人の少女は苦い笑いを向け合っていた。
「まあ、こんなところで話していてもしょうがない」
シュヴェリアはドアに進むとノックした。
「――開いているよ」
中から声がした。いきなりの展開に少し躊躇したが3人は息を呑むと扉を開けた。
「――ようこそ、黒き英雄君よく来たね、歓迎しよう」
家の中に座っていたのは1人の青年いや女性か? 判別がつかない若者だった。ショートヘア―で背は高め、優雅に紅茶を飲んでいる。
「賢者――ぽくないな~」
ステラがぼそりと声を漏らす。クレハがステラを諫めた。
「ふふ、そうかい? でも賢者だよ、君たちのお探しのね」
何!? 若者の答えに3人は驚きの声を上げる。
「まあ、とりあえず、中に入ったらどうかな? さっきもいったけど歓迎するよ」
促されるままシュヴェリアたちは家の中に入ってゆく。用意された椅子に座り席に着くと、パチン、若者が指を鳴らした。
台所の方からティーカップが宙を舞ってやって来る。3人それぞれの席に配られた。
「この程度で賢者の証明になるかな、エルフのお嬢さん」
にこやかにほほ笑む若者にステラは引きつった笑いを返した。
卓越した魔法技術、確かに賢者と言い張るだけはある。
シュヴェリアはコホンと咳払いすると、早速本題に入る。
「私はシュヴェリアという。こちらはクレハとステラだ。突然の来訪を歓迎していただき感謝する」
長テーブルの片側に座った3人はシュヴェリアの紹介でそれぞれの名を名乗る。
若者はそれを見てにこやかに頷くと、
「僕はカルナだ、よろしく」
と静かに呟いた。
(僕ということは男か、いや、少数だがそういう女性もいるか……)
性別はどっちだ? 頭の片隅でそんなことを考えながらシュヴェリアは対話を続ける。
「あらかじめ、私たちが来るのを解っていたような口ぶりだったが」
シュヴェリアが鋭い視線で切り込むとカルナは満面の笑みを返した。
「うん、解っていたよ今日賢者を必要とする君たちが来ることは」
「もしかして予知とかできるんですか?」
クレハの問いに首を振るカルナ。
「まさか、未来のことまでは解らないよ。ただ君たちは、山道を来たからね。この山はすでに僕のテリトリーだから」
なるほど、この山での出来事は全て見えているということか、だとすれば少し問題が出てくる。
「それじゃあ、あの悪魔が暴れていたのも知ってたってことですよね? どうして放って置いたんですか?」
クレハの問いに黙り込むカルナ。確かにあれだけの悪魔を放置しておく理由がない。この回答は気になるところだ。
カルナの答えを待っているとカルナはシュヴェリアの方を向いて話題を進めた。
「その質問には最後に答えることになる今は話を進めよう黒き英雄殿」
その目には初めて見るカルナの鋭さがあった。
シュヴェリアは今まで出来事をかいつまんで説明した。『村狩り』から逃れるために帝国に戦いを挑んだこと。その過程で領主邸の人間を皆殺しにしたこと。ハーペンでの出来事全てだ。賢者相手に下手な隠し立てをしてバレたら、その方がリスクが高い。故に、すべてを正直に話した。その上で協力を求めた。
カルナはシュヴェリアの話を顔色を変えることなく聞き、頷く。
「そうか君たちの話は解った。僕の知っている情報とも符合するね。正直に話してくれてありがとうというべきかな」
「別に礼を言われる覚えはない。協力を仰ぐのに誠実さを見せるのは当然だろう?」
シュヴェリアの言葉に面食らったように驚くカルナ。
「ふふ、流石は黒き英雄殿だ」
フム、今度はシュヴェリアが首を傾げた。
「さっきから出ているその黒き英雄とはなんだ?」
「知らないのかい? 君の呼び名だよ、帝国から辺境の村を護る英雄ってことでその筋では有名な話だよ」
「!?」
「シュヴェリアさん、他の村でも有名になってるんですね」
クレハはなんだか嬉しそうにしているが、シュヴェリアからするとたまったものではない。謎の旅人の自分にいつの間にか呼称が付いているとは……まずい事態だ。
「僕も君の情報をあらかじめ知っていたからこの山に入って来た時に解ったんだ、噂の彼だとね。だからなんとなく、君の要件も察しがついたよ」
「察しがついていて歓迎してくれるということは、良い返事をもらえると思っていいのか?」
シュヴェリアが問うと、カルナはにこやかに笑う。
「それはこれからする質問の答え次第かな」
それは? シュヴェリアが問うと、カルナはそれまでにない真剣な表情で答える。
「君は魔王アトライアスを殺すつもりがあるのかい?」
「!!」
まさかの質問に言葉を呑むシュヴェリア。クレハは席を立ち、ステラは声を出して驚いた。
「魔王……」
まさかこんなところで聞くとは思わなかった言葉に呆然とする。
(協力する代わりに魔王を倒せ、そういうつもりか? 無茶を言うこっちは魔王どころか、悪魔1体すら倒す気はないのだぞ!!)
そもそも魔王アトライアスはシュヴェリア自身だそんな願い聞き入れられる余地はない。
「どうかなシュヴェリア君、君は魔王を殺せるか?」
シュヴェリアは苦悩する。その場しのぎで、嘘を吐くか、それとも正直に言うか。
迷い、迷って――
「……それは出来ない」
「何?」
カルナの厳しい視線に、シュヴェリアは凛として返す。
「……魔王、アトライアスを倒すことは私には出来ない」
カルナが視線を落とすのが見えた。
「そんな、シュヴェリアさんならあの魔王だって!!」
クレハはショックを受けた様に叫んだ。きっと、彼女も「魔王を倒す」といって欲しかったのだろう。
「いや、無理だ。そもそも私は魔王と戦うつもりがない。君との約束も相手が帝国だから受けたのだ。魔王なら受けなかった」
だが、それは出来ない絶対に不可能だ。絶対に出来ないことを出来るとは言えない、シュヴェリアの性格からして無理なことだ。
賢者は諦めるしかないいか…… シュヴェリアがステラを見ると何やら複雑な表情を浮かべていた。彼女も何か思うところがあるのだろう。
「じゃまし――」
「OK合格」
「――たな?」
シュヴェリアが席を立ち、家を出ようとすると、カナルがそんなことを言いだした。驚き動きを止めるシュヴェリア。
「合格だよシュヴェリア君、君に力を貸そう」
「「「は?」」」
3人一緒に言葉が出た。
支度をするから外で待っていてくれ、そういわれてシュヴェリア達3人はカルナの家の外に出た。
「どういうことですか、まだ納得できません」
クレハはカルナに言われたことを思い出し不服そうに頬を膨らましていた。
「まあ、よかったではないか村を護るのに力は貸してくれるのだし」
「それはそうですが……」
クレハが膨れているのは「何故あの悪魔を放置していたのか」その答えだ。カルナはシュヴェリアに合格を出したとことがその答えだと言っていた。
魔王と関わらない→悪魔と戦わない→悪魔を放置、という構図が出来上がるわけだが何故、賢者と呼ばれるほどの存在がそんな考えをしているのかは疑問である。
(本来なら人々のために最前線に立つべき立場のはずだが――)
エルフなら何か知っているだろうか、ステラに目を向ける。
「……」
何やら考え込んでいるようだ。彼女らしくない。
「どうした、ステラ?」
「え」
「何か気になる事でもあるか?」
首を振るステラは造り笑顔を作った。やはり、彼女らしくない。
「何か悩みがあるならいってくれ、我々は仲間だろう?」
ガラでもない台詞をいった所為で、気まずい時間が過ぎる。
やはり魔王が仲間などと言ってはまずかったのか、そんな馬鹿なことを考えていると。
「シュヴェリア様は……」
「ん?」
「シュヴェリア様はどうして魔王と――」
「お待たせ」
カルナが家から出て来た。
お前、タイミング悪すぎ、シュヴェリアの白い眼がカルナを刺す。
「ステラ」
「大丈夫ですシュヴェリア様、行きましょう」
ステラの作り笑いと共にシュヴェリアたちは下山を始めた。




