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賢者を求めてー4

 ――翌朝

【起きろメル】

 シュヴェリアの声でメルは目を覚ます。朝だ。

 起き上がって周りを見てみるが、そこにはシュヴェリアの姿はない。クレハやステラの姿もだ。誰もいない部屋で1人目を覚ました。

「あれ、確かに聞こえたような……」

 寝ぼけ眼で目をこすりながら左右を向く。やはり、自分しかいない。おや? 首をかしげるメル。

【起きたか、メル】

 再びシュヴェリアの声が頭の中に響いた。気のせいや間違いではない。

「これは……念話」

 メルも意識を集中させ、会話に応じる。

【シュヴェリアさん、貴方念話が使えるのですか!?】

【フム、どうやら届いたようだな、この身体で使うのは初めてだったから届くか不安だったが――】

【この身体?】

【あ、いや――】

 シュヴェリアは言葉を濁すと仕切りなおすように語り始めた。

【今、クレハとステラが朝食の準備をしている直にお前を呼びに来るだろうその前にお前に話しておくことがある】

 どうやら自分の部屋にいるらしいシュヴェリアは少し急ぎ気味に今後についての話をし始めた。

【我々はこの後、昨日の洞窟に向けて出発する。お前は留守番だ。宿で我々の帰りを待っていると良い。問題はその後だ。我々は本拠地である村に帰る】

 昨日の話を思い出すメル。彼らの村は何やら訳ありの様子だったのを思い出す。

【我々の本拠地である村は現在この国の軍と戦争下にある。決して安全という訳ではないがついて来るのならば、私が身の安全は保障しよう】

(安全ではないが、身の安全って……)

 どういう意味で言っているのかは解るが矛盾を感じて笑ってしまうメル。

【私が悪魔であることは黙っていてくれるということですね】

【そうだ、村には識別の魔法を使えるものもいない。私が言わなければ、誰も君の素性を疑いもしないだろう】

 つまりしばらく身を隠せるということだ。深手を負っているメルにはありがたい話である。

【事が落ち着けば魔界に帰る事にも協力できるだろう。無論、事を終わらせるために協力を求むだろうがな】

 人間が魔界に帰る手伝いなどと、何を言っているのかと思ったメルだが、案外この男ならば――と半分では思ってしまった。そう思わせるだけの何かがシュヴェリアにはあったのだ。

 実際、メルが魔界に帰る手段は今のところ皆無だ。管理者である魔王アトライアスを訪ねてもいいがすんなり受け入れてくれるかどうか……ペナルティを受けるのはごめんだ。

【断ったらどうなりますか?】

 念話で尋ねるメル。シュヴェリアは少し考え。

【ここでお別れだ、後は好きにするがいい】

 本当に? シュヴェリアが昨日言っていたことを思い出し、彼が本当に自分を野放しにするつもりなのだと思うメル。

【だが、出来ればこの要求を呑んでもらいたい、お前の状態がどういう状態かもわからない、再びあの姿になり暴れる可能性も無きにしも非ずだ。そうなるのはお前も本意ではないだろう?】

 確かにその通りだ。もしまた同じように暴れ、それが地上の管理者たる魔王アトライアスの軍にしれれば次はこんな甘い処置では済まないだろう。

 帰る方法が確立していない現在、シュヴェリアの目の届く範囲に居るのはメルにとっても悪い話ではない。

【どうするかすぐに決める必要はない、我々が返って来るまでに――】

「メルちゃん~起きろ~」

 ステラが満面の笑みでドアを開けて入って来た。

「あ」

 目が合い思わず声が漏れる。

 気付くとシュヴェリアとの念話は切れていた。

「あら、もう起きてたんだね~ ご飯の時間だよ~」

 ステラに促されるまま食事を摂りに向かうメル。

(とりあえず、考える時間はあるみたいですね)

 彼女は一先ず、身体の休息を優先させることにしたようだった。




「それじゃあメルちゃん、いって来るからね」

 クレハはメルにそう告げるとにこやかに手を振った。メルもそれに合わせて軽く手を振り返す。にこやかな場面だが果たして実際のところはどうなのだろうか? クレハはメルのことを気に入っているようだがメルの方はどう考えているかわからない。見た目通りの年齢――10歳前後の少女を演じているのは明らかだろう。本当の年齢は果たしていくつなのか。シュヴェリアよりも上の可能性もあり得る。悪魔である以上、必ずしも見た目通りではないのだ。

(……いかんな、これではメルが悪女見たいではないか)

 考えを改め、見た目通りに状況を受け止める。

今度はステラがメルにハグをしていた。またしても黒い考えが頭を過ぎった。

メルはにこやかにステラのハグに答えると、静かにシュヴェリアを見て一言、

「何ですか?」

 と、冷たく言い放った。

「ごめんなさい」と思わず声が漏れそうになる。

「なるべく早く戻ってきますからね~」

 ステラが手を振り出発する。

目指すはヒルベルト山脈山頂。シュヴェリアたちは再度山道を登り出した。

――数時間後

「ようやく昨日のところまで戻れましたね~」

 ステラが伸びをしながら呟いた。

「はい、往復するのも大変です」

 苦笑いをしたクレハが応える。

「様子は相変わらずですね~ まさか悪魔も復活してたりして~」

「ちょ、怖い事いわないでくださいよ」

 クレハとステラが茶化し合う横でシュヴェリアは真剣な表情で辺りの様子を観察していた。悪魔が復活していると思ってはいない。昨日のゴーゴンの本体はメルだ。ここで復活することはあり得ない。ただ――

(どうにも気になるな、あれは一体どういう存在だったのだ?)

 メル本人も解っていない様子だった。ただ、メルが自分の意思で行ったことでないのなら何者かが関与しているのは明らかだ。一体何が目的でこんなことをしたのか。

無論、まだメルが嘘を吐いている可能性も捨てきれないが、昨日からの様子を見る限り彼女の発言には信憑性があるとみていいだろう。となると――

(やはり、カエリウスに調査を指示するのがベストか)

 休みであるのにこんな支持を出していては何をしているのかバレてしまいそうで嫌なのだが……

 ふと視線を逸らすと、クレハが周囲に立つ石像を悲しそうに見ているのに気が付いた。

「クレハ?」

 一体どうしたのか声をかけてみると、彼女はハッとしたように笑顔を作った。

「あ、すみません。この人たちのことを考えていました。……助けてあげられないんだなって」

 なるほどそういうことか。どうやら彼女は石化した人々を助けられないことに罪悪感を抱いているようだ。ステラを救えたのだからこの者たちも救えるのではと思ってしまうのだろう。だが、それは無理だ。石化の解除は出来て1日が限界それ以上は完全に石になってしまうのだから。

昨日説明したのだが、理解はできても中々納得は出来ないようだ。

「クレハちゃんが悪いわけじゃないよ、ね」

 暗いクレハをステラが慰めていた。この2人は本当に仲がいいな、クレハのフォローはステラに任せてよさそうだ。

 シュヴェリアはなるべく早めにこの場を立ち去ろうと進む足を速めた。真直ぐ坑道へと向かう。

 坑道に入ると、昨日の攻防で崩れた岩が辺りに散らばっていた。

(私としたことが無茶をしたものだあそこでアクティムを使うとは……下手すれば生き埋めになっていたな)

 ステラを石化されて冷静さを失ってしまった。反省する意味も込めて岩肌を叩きため息を吐く。昨日ゴーゴンを倒した場所まで進み――

「ん?」

 足を止める。

 昨日は気づかなかったが、坑道内に指輪が落ちていた。

「装飾の宝石が割れた指輪……何故こんなところに……」

 シュヴェリアがしゃがみこみ拾ったそれを眺めていると、追い付いて来たステラとクレハが不思議そうにのぞき込んできた。

「シュヴェリア様?」

「どうしたんですか?」

 2人の少女の顔が指輪を挟んですぐ正面にあった。

「いや……何でもない」

 シュヴェリアは指輪を懐にしまうと立ち上がり、洞窟奥を指さした。

「この洞窟の奥が山頂に続いているはずだ」

「洞窟の攻略ですね~」

「がんばりましょう!」

 3人の意気込む声が洞窟内に響き渡った。


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